表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
46/301

45 決勝戦④


「どうすんだ? あんな魔法弾撃ちまくられたら誰だって防げねーぞ?」


 経験者の言葉は地味に説得力があると、イクトは思った。


「時間が無いので手短に説明します。僕は大きな見落としをしていました。この競技は「棒倒し」なんです」

「だろうな」

「旗を狙うにしても棒を倒すにしても、最終的には棒の近くにいかなければなりません。狙撃という手は確かに有効ですが単純で防ぎやすい。つまり、これは守りの競技ではなく攻めの競技だということです。この戦いに必要なのは能力よりもチームワークです」


 イクトは更に続ける。


「リュウは先程攻めきることに失敗しましたが、手数を増やせばそれは叶います。しかしそうすると、狙撃を防ぐ手立てが無くなります」

「そこでアルの防御魔法だな!」


 リュウが自信たっぷりに言い放ったが、イクトからの返事は横に首を振った否定のそれだった。


「確かにアルの盾は強力ですが、今回ソレは別のことに使って頂きます」

「てことは、私?」


 決して防御が得意ではないティナがそう口に出すが、やはりイクトは首を横に振る。


「マリー、出来ますか?」


 イクトは少しの間を空けて問いかける。自身の名前を呼ばれたマリーはあっけらかんとした表情をしている。


「マリーにあの魔法弾を撃ち落として欲しいんです」

「「えっ?」」


 リュウもマリーも、完璧に息が合う。予想もしていなかったからだった。

 普通の銃弾と比べれば速度は遅い。少し慣れている人ならばそれ自体を躱すことも出来る。しかし、それが学生にも出来るのかと言うとそうではない。

 魔法弾の飛び交う戦場で、その速さを実際に体感し、尚且つ何年もその速度を体に慣れさせなければそのようなことはまず不可能だと、マリーは知っているしそれは世界共通の常識でもあった。

 そして、そんなことはイクトもわかっている。しかし、マリーは銃を巧みに扱う銃闘術の使い手。決して不可能では無いと考えた。


「無理ならば他の方法を考えます。いくらマリーでも速すぎる魔法弾を撃ち落とすことは出来ないかもしれません。しかし、僕はマリーを信じます」


 その言葉を受けてマリーは顔を下げた。その瞬間イクトは諦めかけた。今の力量とこれからの可能性を踏まえての“賭け”は、やはり無謀過ぎたのかと頭を過る。


「……やってみる。こんなところで逃げたくない」


 一人立ち上がりマリーは城壁を見つめる。イクトの暗い思考を振り払った。決意の目を宿したマリーはどんな城壁よりも頼りになる。リュウはそんなことを考えていた。


「マリー、君は落ちこぼれなんかじゃない。自信を持ってください」


 イクトは『メルキオール』をギュッと掴んでいるマリーに優しく語りかける。


「ありがとう」


 小さく返したマリーは、魔力を高め始める。棒の真下に佇むマリーの前には、魔力を高めながら遠く先にそびえる城壁を見つめる四人の姿があった。まだ攻撃は来ていないが、マリーには何となくわかる。


(来る……)


 ピリピリとした重苦しい空気へと変わった。直後、乾いた銃声が響き向かってきたのは、先程の魔法弾。城壁の上から伸びた茶色い銃口が盛大に火を吹いた。

 マリーも『メルキオール』の引き金を引く。向かってきた二発の魔法弾に完璧なタイミングでマリーの魔法弾は当たった。


「マジか」


 小さな爆発音とリュウの声と共に魔法弾は消え、それが合図だったかのように四人は走り出した。


 * * *


 流れの止まった試合が再開する少し前。ライフルで狙撃し続けるチームメイトを見ながら、エリックは出方をうかがっていた。


「エリック本当にまだ攻めなくていいの? あ、決してリュウに会いに行こうとか、そういうこと思ってる訳じゃ無いからね!」


 後ろから声をかけたのはネリルだった。


「そろそろ、あのイクトのことだから気がつく頃合いだ」

「何に?」

「この競技の本質だ」


 遥か先を一人見つめるエリック。ネリルの言葉など、聞くものでもなかった。


「結局棒倒しって言っても棒の上の旗を落とせば勝ちでしょ? 上級の魔法が掛けられてても、それを壊せるだけあそこに狙撃すれば私達の勝ちじゃない」

「君は本当に三流だな」

「何ですって!?」

「今現在もそうしているが、奴らの防御魔法に防がれた。狙いや位置がわからないからこそ狙撃は有効なんだ。撃つ場所も狙う場所もバレているとなれば対策は容易。それを躱しながらでは上級魔法は壊せない」


 鳴り止まぬ銃声は聞こえているが、一向に防御魔法が割れる音は聞こえてこない。まるでリピート再生でもしているかのように状況が変わっていないのだ。


「つまり、あの防御魔法は餌のようなものなんだ」

「餌?」

「目の前に下げられた餌を追って走る馬のように、あそこを狙うように仕掛ける。当然あれを壊すことは出来ないのだから、時間が掛かる」

「……あ!」

「そうだ。時間が掛かれば僕らのように本来の意図に気づくものが出てくる」

「先に棒倒しそのものの競技に戻った方が勝てるってわけね!」

「この競技は「棒倒し」であって旗落としではない」


 エリックは、にたりと口角を上げた。その表情を見た瞬間に、楽しんでいることがネリルには伝わった。


「三流貴族の君ならわかるだろう? あのチームはマリーと君の想い人以外全員強い。特にイクトはここまでの間に行動まで起こしているはずだ」

「は? おおも、想い人? な、ななな、何バカなこと言ってんのよ!」

(…………は!)


 完全に自爆だと気づいたネリルは、咳払いを一つし、落ち着いたところで頭にあった疑問をぶつける。「三流」という言葉の否定は、忘れている。


「マリーってすげーな」


 上方で鳴り響く爆発音を気にも留めず、ただひたすらに前を走る背中を追いかけるのみのリュウ。その爆発音は、全て魔法弾と魔法弾とのぶつかり合いだ。


「いいですか? 必ず二人一組になってくださよ?」

「なんか分かりにくいな~。結局さ、倒せばいいんだろ? あいつらを」


 既に、とはいえ簡単にだが、作戦を三回も話している。中々しっかりと説明できたと、イクトは満足していたのだが、結局はこれだった。

 もう作戦として成り立たなくなってきていることに呆れたイクトは、小さくため息をつきつつ視線を土の城壁へ戻す。流れ星のように飛び出してくる魔法弾を、視界から外し一点を見つめた。

 その直後、リュウとティナは走るスピードを上げ、アルを追い越す。リュウとティナの頭には、先程のイクトの言葉が何度も繰り返し再生される。


『まずは第一段階。リュウの圧倒的なパワーと、ティナの完璧な補助で、城壁の真ん中を壊してください』

「うおおぉぉぉらあ!」

魔水球(アクア・スフィア)


 炎の拳打と水の魔法という、息の合った攻撃によりそびえ立っていた城壁のちょうど中央の部分が崩れ去る。ひどく耳障りな轟音も、邪魔なだけの砂煙も晴れた頃、アルは魔力を高め、詠唱を開始した。


『第二段階。壁を壊すことはすぐにバレます。真ん中を壊すことも必ずバレます。だからこそ彼らは、左右に散っているでしょう。──そこを叩く!』


 イクトの読み通り、リュウ達から見て右側にはエリックとネリルの姿が、左にはドートともう一人の男子生徒の姿がある。


「右だ!」


 リュウはそう叫び右へ駆け出す。とっさの判断にもしっかりと対応するティナはリュウの後を追う。


「まったく。どうしてちゃっちゃと行ってしまうんでしょうか」

「リュウだ。仕方ない」


 走りながら呆れる二人。なんとも意味のわからない解答に行き着いてしまった。


(僕もエリックには用があったんですけどね……)


 思いを心中で留め、イクトは冷静に頭を回す。


「僕たちは左ですね。そろそろ準備は宜しいですか?」


 イクトのその言葉にアルは無言で頷いた。背中からひしひしと伝わってくる魔力が、返事のようなものだった。


「詠唱いくぞ」


 今度は小さく答えたアルが小声で詠唱を始める。ちょうどその時、イクト達二人も城壁の前へと到着し、左に進んだ。

 城壁を越えて入ったところには、ドート・メインともう一人の男子生徒。驚いた表情を見るところ、イクトの作戦は上手く嵌まっているようだった。最後の仕上げが始まる。


『第三段階。あとは簡単です、おそらく狙撃手は棒の後ろにでも隠れているでしょう。これで邪魔は入りません。相手の位置も把握できます。ここで、アルは魔法を使います』

「“──仮面に渦巻く転となれ”!」

銀貨面の円盾(シルド・エルメラーダ)


 アルが完全詠唱で発動したのは、先程と同じ現時点最強の防御魔法。しかし、その形状は防御のための円形ではない。


「箱?」


 ネリル頭上に現れたのは箱だった。横四面と上部一面を盾に囲まれた箱は、当然意味などわからない。よく見ると自分とエリックがいる場所と反対側、もう二人のチームメイトがいる場所の頭上にも同様の箱があった。

 このスタジアム内に作られたのは二つの箱だ。

 中級光属性魔法のそれだが、なぜ発動したのかわからない以上下手に手出しは出来ない。


「何よこれ……」


 ネリルがたじろいだ。隣のエリックは沈黙を貫き、この状況を伺っている。その時になってようやく目の前には敵が現れた。


「何をしてるの!」

「アル! いいぜ!」


 ネリルの質問を無視して、リュウは叫んだ。アルの魔法である二つの箱がついに地面に落とされた。


「なるほどな……」


 ようやく言葉を発したエリック。目の前のリュウを睨み付けていた。


『分断させた相手と自分達、それらをアルの出した盾で囲みます。意味はわかりますよね?』


 そうしてスタジアムの中には、召喚された二つの白い箱と二人の狙撃手だけとなった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ