表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
45/301

44 決勝戦③


 フルスロットルのリュウは走り出す。その背中を見つめるティナとイクトは苦く笑ってから次なる一手を打ち出す。


「“風よ、吹け”」

風撃(ウィンド)


 相手が防ぐことを見越してのイクトの攻撃。一見無意味に見える風だが、相手の防御手段を見るための調査用の魔法として、その意味は為されていた。


「“風よ、吹け”」

風撃(ウィンド)


 イクトの魔法に対抗して出されたのは、イクトのものと全く同じ魔法だった。その魔法は下級に分類されるのだが、魔力コントロールは寸分の狂いもなく、イクトの魔法を消し去りながらも無駄に力を込めすぎない。その魔法の発動主ネリルは、口元を薄く上げ笑っている。


(……なるほど)


 イクトはたったの一当てでネリルの実力を見抜いた。魔法に込められた魔力を正確に見抜き、同量の魔力によって相殺させる。防ぎきるわけでもなく押し負けることもない。完全に打ち消したその魔力コントロールは本物だ。

 計ったその横から、今度はティナが駆け抜けていく。


「あの女の子か、やるわね! “聖なる水よ、我が命に従い敵を討つ球となれ”」

魔水球(アクア・スフィア)


 ティナは器用に早口で詠唱して大きな水の球を放った。完全詠唱のそれは中級魔法本来の力を存分に発揮する。ティナもイクト同様相手の手の内を知るための魔法だが、棒を倒すことも視野に入れ中級魔法を放った。


土壁(サンドウォール)


 それに対し下級魔法の土の壁をくりだしたのは、準決勝で一人勝ちを成したドート・メインだった。

 試合開始直後から魔力を丁寧に高め、詠唱もしっかりとしていた魔法。さらに、土魔法は他のどの属性よりも詠唱が短く、また発動速度も断トツに速い。

 これは単純に土というものが古くから人に身近な存在としてある、一種の慣れ。強度の面から、そして優劣の関係から見ても、これ以上の防御が無いことはティナの予想通りだった。


「防御力は上々ね」

「堅いですね」


 水は止められ、風は止められ、進む先に訪れる壁の大きさを今一度笑った。そんなものは関係なしに、リュウの炎は止められない。


「邪魔だ!」


 戦いに飢えた赤髪の少年の勢いは止まることを知らなかった。リュウの目の前には、ティナの水を防ぐために土の壁が現れた。瞬時に足に力を入れてそれを駆け上がり、Eクラスの棒の真下に飛び出す。


「小せーけどっ。“聖なる炎よ、我が敵を討つ球となれ”」

魔炎球(フレイム・スフィア)


 ティナの魔法球より二回りも小さい炎の球を生み出したリュウは、それを思い切りエリックへと投げつける。


「これで一人目!」


 凝縮された炎をエリックに当てて、すぐに戦闘不能へ追い込み転移させる。負ければ即退場のこの試合、リュウは当初からエリックを狙っていた。

 完全に棒への攻撃だと油断した相手チームの一人の男子生徒は、棒を守るために唱えていた魔法を出してしまう。空回りをニヤリと笑ってからかうリュウだが、既に炎は消されていた。

 エリックは無表情のまま炎を消していた。さらに掌に魔力を集中させ、次の攻撃に繋げる。僅か数秒、未だ空中にいるリュウは何をされても防ぐ事は出来ない。


「これはチーム戦。低能の愚民は扱いやすい」


 手に宿るは雷の魔力。エリックはそれを静かに押し出した。

 連携のとれたエリックの反撃。リュウは本能から魔力を纏った腕で弾き、足元に落とした。さらに、巻き上がった砂煙を利用し後ろへ飛ぶ。先程現れた土の壁を踏み台とし、さらに前に飛んだ。

 目指す先はエリック達の守る旗。標的の変更を余儀なくされたという事実に苛立ったリュウは、炎を纏った拳を振り抜いた。

 それでも、衝撃で少しの傾きはあったものの、旗を守る結界にも棒自体にもダメージは無かった。


「堅ェな……」


 言いながら、着地をしようと下を見るリュウ。その視線の先にエリックを発見した瞬間、表情は変わる。


雷撃(サンダー)


 詠唱を飛ばし速い魔法を撃ち込むエリック。リュウは間一髪体を捻って回避するがピンチはまだ終わらない。

 続け様に他のメンバーからの魔法に狙われる。回転の遅い頭でも、このときばかりは単身での突撃を後悔していた。


「貸し、一つ追加ね」


 透き通る声は、その瞬間女神のようにやって来た。


突発水簾アクア・フォールダウン


 リュウの頭上に水色の魔法陣が展開。水が落ちるというだけの魔法だが、その水が落としたのはリュウだった。リュウは地面に叩きつけられたが、元いた場所には今頃攻撃魔法が数種類通りすぎていた。


「痛ってー!」

「感謝ぐらいしなさい。退くよ!」


 簡潔に言ったティナは、落ちたリュウの襟を掴み強化した足で地面を強く蹴る。相手の魔法に狙われながらも、イクトの補助を受け、一度自分達の棒の場所へと戻りマリー達と合流する。


「あ~、危なかったー!」

「何のんきに言ってんのよ。誰のせいで余計な魔力使ったと思ってんのよ」

「いや、エリックにムカついたから……」

「この馬鹿」

「馬鹿は余計だろ!」


 また始まった、と、イクト達は呆れた。


【次元転送・ブラウンライフル】


 間髪入れずに、相手チームの次元転送の魔法が発動される。そして、先程盾として使用した小さな土の壁は消失していた。

 土の壁が元々あった場所に現れたのは、木と鉄で作られたライフルを持つ男子生徒だった。リュウ達の位置から詳しくは確認できなかったが、それは銃であり、魔力を込め始めていた。

 それから数秒後、その男子生徒は魔法弾を撃った。狙いは、旗だ。すべてを理解する頃には、放たれた魔法弾は旗を守る上級防御魔法に当たっていた。


「まずい!」


 ライフルという狙撃性能の優れた銃を使いこなすだけに、腕は確かなものだった。それこそリュウには届かないものの、込められた魔力も芯の通ったもので、王国一の学園のレベルをティナは今一度思い知らされた。

 『ブラウンライフル』から放たれた魔法弾は、個々の威力は低かった。しかし、正確に同じ場所を連続で攻撃し、更に貫通力のある風属性が付与されているとなれば話は別。既に旗を守る上級防御魔法に亀裂が入り始めている。


「そうか、上級魔法に匹敵する手数にすれば出来てしまうのか、くそっ」


 イクトは、魔力探知を怠った自分を胸中で責めながらもアルに指示を出す。


「“名も無き聖歌に固まる剣格。名も無き謳歌を憂う跡。左近に仕切る鏡の興、右近に仕切る剣の刃。忘れるなかれ銀の宮。仮面に渦巻く転となれ”」

銀仮面の円盾(シルド・エルメラーダ)


 嵐のように迫り来る魔法弾をやっと防いだのは、円盤状に展開された中級魔法の光の盾。壊れながらも魔法弾を防ぎきったその盾が消えるのと同時に、イクトはマリーに合図を出す。

 それを受け取ったマリーは、瞬時に黄金の短銃『メルキオール』を出し、Eクラスの棒に向かって魔法弾を放つ。正確に狙いを定め、マリーの放った弾は棒へと被弾する。芯をとらえることが出来たのか、少し棒が傾いた。


「もう一回!」


 自分自身を奮い立たせ、更に引き金を引くマリー。二大貴族レイジー家の得意とする速射だ。しかし、その魔法弾が棒に当たることは無かった。


「「“大地を守護する数多の精霊よ、我は願う。その大いなる守護の力を!”」」

土壁(サンドウォール)


 リュウ達の耳には詠唱など届かないのだが、イクトは魔力探知を行っていたためにそれを感じとることができた。そのすぐ後には、他の四人の目にもソレは映った。

 息を完全に合わせた多重詠唱を成功させるドートとネリルは、土の壁を召喚した。しかし、先程のものとは違い、横に長い作りになっている。

 まるで、国を守る巨大な城壁のように。城壁が現れたことでマリーの魔法弾は塞き止められた。

 四十メートル程の距離があるスタジアムの中央より、少しEクラス側の位置に現れた城壁は、悠然と構えたまま消えようとはしない。その時、ビクともせず魔法弾を受けきった城壁の上から、何やら茶色い筒状の物体が伸びた。


「さっきのライフル!」


 ティナがそう叫んだときにはもう、乾いた音が響いていた。しかし今度の狙いは棒ではなく、同じ遠距離攻撃の名手、マリーだった。


「きゃっ!」


 突然の出来事に、目を瞑り屈み込むマリー。防御魔法を出すことも叶わない。撃ち込まれた一発を、恐怖から見なかったものとする。

 魔法弾はマリーを目掛けて迫っていたがしかし、間に現れた銀色の龍によって進行を止められた。


「……なあ」


 金属が軋む音と、少年の微かに漏れた声をやっと聞き取ったマリーは顔を上げてその目に映ったのは、両手に炎を灯らせ必死で魔法弾をいなしているリュウの姿だった。


「誰でもいいからさ! 早くどうにかしてくれよ!」

魔水球(アクア・スフィア)


 ティナは【魔水球(アクア・スフィア)】を城壁の上の銃口目掛けて放つ。距離こそ離れてはいるが、狙われたという事実だけでライフルは土の城壁に隠れた。そのお陰で、マリーへの攻撃は無くなった。


「見た見た!? 今俺弾丸止めてた!」

「魔法弾ね。マリーに怪我がなくてよかったわ」

「俺の心配は?」

「はいはい、よかったよかった」


 ティナの注意は既に他に向いていた。

 Eクラスの攻撃は、最大の威力をピンポイントに狙って放ってくるもの。顔には出さないが、あれはリュウに相当なダメージだったのだと、ティナは気づいている。


(棒倒し、旗を追加する理由、Eクラス……)


 いつのまにかエリック率いるEクラスの攻撃は止んでいた。大きな城壁に身を隠すことで、魔法の詠唱はおろか、魔法武器の召喚も見ることができない。この時、完全に出遅れたとイクトは後悔していた。己の考察不足だったことも、潔く認めた。しかし、イクトも男だ。


(棒倒し、これは……単純に棒倒しなんだ)


 負けっぱなしではいられない。何より、エリックを許せない。


「……あの、少しいいですか?」


 ついに軍師が動き出す。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ