41 二日目
翌日、魔闘祭も二日目となり準決勝へと駒を進めたリュウ達は控え室で待機していた。
珍しく二日連続で早起きに成功したリュウは、既に慣れてしまった豪華な控え室を満喫していた。緊張しているティナはひたすら一点を見つめ、マリーはパフェを流し込んでいた。現在七杯目だ。
リュウの散らかしたものを片付けるアルの姿を見ても、読書に神経を集中するイクトを見ても、意に介さない程だった。
「てかさ、なんか騒がしくね?」
気がついたのはリュウ。納得したのは他四人。
ここへ入ってから既に小一時間は経っているが、学園の教員達や【アルテミス】の隊士の、廊下を走る音がひっきり無しに聞こえてきている。漏れてくる声からは、誰か人を探しているような様子が窺えている。
「誰か寝坊でもしたんかな」
「リュウじゃあるまいし」
「なん──「入るぞ」
リュウとティナのお得意の不毛な言い争いが続くかと思われた矢先、それは一人の入室者によって打ち切られた。
勢い良く、もしかしたら壊れてまうのではないかというほどにドアを開けて入ってきたのは、リュウ達Aクラスの担任シエラだった。
「よく聞いてくれ。これから行われるお前達の準決勝は不戦勝という形で私達の勝利だ」
入るや否や爆弾発言をかましてきたシエラは、ふざけようなどとは微塵も思っていなく、引き締まった表情をしている。それを見て突っ込むことを取り止めリュウ達も真剣な表情になる。
「どうしてですか?」
綺麗に積み上げられたチョコレートバーのゴミの横で座るマリーは、食べるのを一時中断しシエラに問い掛ける。
「お前達の対戦相手であるCクラス代表全員が何者かに襲われたんだ。それで仕方無くAクラスの不戦勝という形で魔闘祭が進められることが決定した」
「代わりは出せないのですか? 補欠のような……」
「いたんだが、Cクラスの担任の先生が棄権すると言ってな。学園長も渋々認めたよ」
「誰が襲ったんだよ!」
リュウは立ち上がり激昂する。Cクラスは対戦相手だ。たとえ敵同士だとしても仲間であるのだというリュウの怒りに、ティナは感心しようとしていた。
「今日も俺戦えねーじゃん!」
おもわず、力が抜けてしまったティナ。周りも唖然としていた。リュウの頭には、戦いたいという欲求と目立ちたいという自己主張しか無かったのだった。
「そ、そうだな。すまんが明日まで待ってくれ」
「そんな~」
「物語の主人公には絶対なれないタイプね、リュウは」
「せいぜいモブキャラCってところかな」
後から追い討ちをかけたのはティナとマリーだった。
「今日の試合は昨日勝ったところ同士、E対Gだけで終了だ。日程の都合上決勝を今日やることは出来ないから 今日は一試合だけだ」
『只今より準決勝Eクラス対Gクラスの試合を開始いたします。尚、ルールの変更はありません。昨日と同じく五対五の個人戦となり、先に三勝したチームの勝利とします』
シエラの話が終わった直後、タイミング良く司会進行役であるリサのアナウンスが【アルテミス】闘技場全体に響き渡った。
「とりあえずそういうことだ。準決勝だからな、ちゃんと見ておけよ」
シエラはそう言い残し、部屋を出ていった。
「誰がやったんだろうな」
試合観戦の準備の最中、リュウは少しの怒りを込めて、独り言のように呟いた。
「普通は私達を疑うよね。次の試合相手だし……」
「え? ティナ、おまえ……」
「次その目で見たら明日の試合出られなくしてあげるから」
そう返すティナの瞳に映ったのは、目を細めいかにも馬鹿にしたような顔をしたリュウだった。いつもは綺麗に映える赤髪も、この時ばかりは憎らしい。
* * *
『さあ始まりました、魔闘祭一学年の部二日目!色々あったけどそんなのはパーンと忘れて盛り上がっていくぜ!』
『昨日に引き続き連絡及び解説を務めさせていただくリサです。よろしくお願いします』
『リサちゃ~ん、固いよ。もっとリラックスリラックス。ただでさえ色々あったんだからさ~?』
『……私がリサですぅ~。よろぴくぅ~』
『うん、じゃあ、進めるね』
会場の温度が二度下がった。リュウただ一人が腹を抱えて笑っていただけに、試合さえ止まりかねない事態となっていた。
『今日は既にAクラスの不戦勝が決定した! 見たかった人、本当すいません! なので今日は準決勝第二試合Eクラス対Gクラスの試合のみ行う!』
レイスが説明を終えると、会場中から非難の声が挙がりはじめた。しかし、何を言っても結果は変わらないことを知っている観客達はそれ以上の行為には移らなかった。
『さあ今日もどんどん実況してくからな!』
『皆様のご期待に応えて行きたいと思います』
ついに準決勝第一戦が始まった。前日同様、魔力を通さない防魔結界が張られ、さらに中を見ることのできる結界も張られた。
前日、相手チームを途中棄権という形で負けに追いやったEクラス。最初のメンバーはその日と同じ黒いローブで全身を隠したりせず、素顔のまま入場した。
「あんな奴いたっけ?」
観客席で見ていたリュウはふと疑問に思った事を口にする。
「たしかドート・メインじゃなかった? E組の学級委員長の」
「ふ~ん。知らねー」
「なら聞かないでよ」
ティナは軽く答えるとスタジアムに立つドートに目を向ける。茶色い短く切り揃えられた髪の毛が特徴の男子生徒だ。
『前回の試合たった一人で勝利を勝ち取ったのが彼、ドート・メインだ! Eクラスの学級委員長も務めるほどすごい奴だ! んでもってその相手もすごい。Gクラスの中でも一、二を争う実力の持ち主として俺達二年生の中でも評判だ!』
レイスの高ぶる気持ちが、どちらも強者なのだと分からせるのには十分だった。魔力も音も通さぬ特殊な結界越しでも、二人の実力はひしひしと伝わってくるほどだった。
それ故に、観客のほとんどが固唾を飲んで見つめている。未だスタジアムの中では何も起きていない。来るであろう先制攻撃を観客は待つ。
『これはどうしたぁ!? どちらも様子を伺って攻撃ができないのか?』
試合開始から三分が経ち、レイスの声が響いた直後、試合は動いた。
先に攻撃をしたのはEクラス代表、ドートだった。
異次元空間から武器を取り出す動作。ドートが勢いよく取り出した武器は、反った刃が特徴の小さなナイフだった。
『ドート選手、ナイフを取り出した! しかも一瞬で間合いを詰め斬りかかる!』
ドートは瞬間的に間合いを詰めナイフを軽く振る。相手には躱されてしまうが、追撃が可能だ。しかし、ドートは攻め込む素振りを見せない。それどころか、少し後ろへ下がっていく。
そんなドートの行動を不自然に思いながらも、相手選手は今度は自分だと言わんばかりに足を前へ出した。地を蹴り引き際のドートを追い詰めるべく、間合いを詰める。
観客を含めリュウは、そうなるであろうと予測をしていた。しかし、それはたった一つの中級魔法によって裏切られた。
『おーっと! ドート選手を追いかけ足を出した瞬間、なんと動きが止まってしまった! あの魔法は【奈落】だ! これは動けない!』
ハイテンションのレイスが解説する魔法【奈落】は地面に小さな沼を作り出す魔法だ。魔力の込め具合で深さが変わってくる。底無し沼という規模だということが、防魔結界越しにもリュウに理解できた。
去り際にそれを罠として仕掛けていたドート。まんまと引っ掛かってくれたことに対し喜びを覚えたのか、軽く跳び跳ねながら相手選手へと近づく。
動けずにもがいている所へ跳び跳ねながらやってくるドートは、そっと手を差し出した。それを勢い良く掴もうとする相手選手の顔は、安堵の表情で一杯だった。
しかし、次の瞬間、予想だにしない出来事が起こった。
手を引き助けたはずのドートは、再び相手選手を沼の中へと押し戻したのだった。この行為を見ていた観客からは唖然とした声が上がった。
『なんてこった! これはひどい! 助けてあげたのかと思えば、また沼の中へと沈めてしまった! まるで拷問だ!』
テンションの高い声が尚も響き続ける。そんな声すら聞こえぬ結界の中では、時折聞こえる小さな悲鳴と、粘着質の物体の独特な音しか響いていないのだった。
「ひっでーな」
こんな試合を見せられ、いい気分などリュウはしなかった。
「何で審判が止めに入らないの?」
「立派な家柄だから。郊外の方に領地を持つような名の知れた貴族だから、どうしても逆らえない人が多いの。勿論、先生達も……」
ティナの質問に、消え入りそうな声でマリーは答えた。同じ貴族として、マリーは罪悪感に似た感情を持ってしまっていた。
『ここで終了! 鳴り止まぬブーイングの中、勝利を納めたのはEクラス代表ドート選手だ!』
結局、その後何度かそれが続いたあと、審判が止めに入り試合は終了した。相手選手はすぐに担架で運ばれていく。
「あれが、私達の相手ね」
「まだわかんねーじゃん。まだ一戦目だぜ?」
「確かにティナさんの言う通りかもしれません。戦い方は誉められる物ではありませんが、実力は十分あります。一年生の中でもかなりの実力が」
遠回しにリュウでは勝てないと伝えているイクトなのだが、当の本人には全く気づかれぬまま、話を進めていくことになってしまった。
第二戦は直後始まった。
やはり、第二戦もEクラスが圧倒的実力で勝ち取り、その後の第三戦もEクラスが取ってしまった。
『明日はAクラス対Eクラスの決勝戦となります。対戦形式やその他諸注意などは明日の試合直前にアナウンスします。皆さま時間通りの集合をお願いします』
簡素なアナウンスによって、イレギュラーの怒った魔闘祭二日目は終わった。リュウ達は、一戦もすることなく闘技場を後にする。
「よっしゃ、ロイさんとこ行こうぜ」
その一言で、リュウ達は再びロイ達の元で作戦会議を開くことにした。来るべき決勝戦への闘志は、さらに高まっていく。




