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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
41/301

40 怖くてめんどくさい

 

「なんであいつら全員パーなんだよ」


 文句を垂れながら燃えるような赤髪を揺らし歩くリュウは、ジュースを買うための金を手に【アルテミス】内を歩いていた。


「マリーンゴ、イクトマト、レモンティーナ、俺コーラっと。アルは何だっけな」


 忘れぬようにと何度も復唱しながら一人歩く姿を、周りの選手観客は不思議そうに見ていた。


「クソ、どこだよ自販機。喉がカラカラだってのに」


 広い場内をぐるぐると回りながら、リュウは自動販売機を探していた。先程から探してはいるものの、中々それは見つからない。


「お、あった」


 やっとのことで見つけた自動販売機。

 製鉄技術に秀でた他国のそれは【アルテミス】内のものとしても最新式で、動力源である雷の魔晶石も小型化がなされている。雷属性を持たぬものでも扱うことができるという利便性ゆえ、五大国を初めとして広く普及している。リュウの探していたオアシスは絶賛稼働中だった。


「まずはマリーンゴ」


 お金を入れ、リンゴジュースのボタンを押す。しかし、目的のリンゴジュースは出てこない。


「あれ」


 もう一度ボタンを押すが、しかし出てこない。


「出ないの?」


 三度目の正直として押してみるも、やはり出ない。


「なんで出ねーんだよ!」


 深刻な喉の渇きと空腹感から、その苛立ちは一気に沸点を超え、リュウは自販機を蹴飛ばした。自販機はリュウの気持ちを受け取ったのか、けたたましい音を上げ小刻みに揺れ始める。

 文字盤もボタンも光が点滅し、細々とした機械の隙間から火花が飛び散ってくる。壊れてしまっていた。


「やっべ……」


 一瞬なにが起きたのかわからなくなったリュウだが、すぐに状況を把握することができた。自業自得の何物でもないことは、認めたくなかった。しかし、そんなことに気づいたところで後の祭りで、自販機を直せなければ飲み物も出てこないことに変わりはない。


「あーあ、やっちゃった」


 ビービーと自販機とは無縁のはずの音が響く中で、透き通った綺麗な声が、リュウの耳に入る。リュウが振り向くよりも早くにその声の主である少女は自動販売機に手を添えた。


「魔力供給が狂ったのね」


 春に吹く風のように強い口調なのだが、なぜか優しく響くその声が、再びリュウの耳に届いていた頃にはもう、自販機の耳障りな音も小刻みな揺れも収まっていた。


「君が変なことするからよ」


 リュウの目の前に立った少女はリュウを指差しながら怒っている。そこで初めてリュウの視界に、しっかりとその少女の姿が入る。

 顔以外の全身を黒のローブで覆い、出ている顔にはまだ幼さが残っている。ぱっちりとした目でリュウを睨み付け、淡いピンク色のツインテールの髪を少し揺らしている。思わずリュウはその変わった髪型と、似合う少女の容貌を見つめていた。


「なにジロジロ見てんの、変態」

「前に立ってるんだから当然だろ。変態じゃねーし」

「その目が嫌らしいって言ってんの!」


 少女は、思いきり振りかぶって拳を放ってきた。喧嘩に慣れているリュウは、当然のごとく躱す。しかし、この狭い場所でコードのこんがらがったこの場所で、リュウは当然のごとく足を絡めバランスを崩してしまった。


「ぐへ」


 柔らかい支えを借りて何とか堪えるも、次に見たのは黒色だった。


「やわらけー、助かったー」

「ちょっと……」

「へ?」

「どこ触ってんのよ!」


 年相応でふくよかに育った少女の右胸を鷲掴みにしていたリュウ。感触と形と柔らかさが、一瞬にして頭に入ってくる。


「げ、おっぱ……」

「喋んな!」


 数秒前には当たらなかった右拳は、リュウの鳩尾をクリーンヒットした。


「わ、悪かったよ! そんな怒んなって」

「うるさい!」

「大丈夫だよ! お前ティナよりあるから!」

「誰のこと言ってんのよドスケベ!」


 さらに二度殴られる。

 先程の自販機よりも迷惑だとリュウは胸中で思う。やっとのことで冷静になったリュウは、どこか心当たりのあるその少女の格好を見て、言葉をかける。


「そういえばお前……、ああ、Eクラスの代表メンバーか」


 リュウの納得したような表情に、少女は眉をよせた。不機嫌だった内心はさらに不機嫌になったのだ。


「そうよ、それがなによ! あんな試合をしたチームの奴に助けられたなんて知られたら恥ずかしいとか? そう言いたいわけ?」


 リュウに思い切り毒を吐く黒ローブのその少女は、怒りを全面に込めて反論していた。


「は? ナニイッテンノ? 確かにクラスカラーとか若干被ってるけど」


 機関銃の如く放たれた言葉に、無表情の極みとも呼べそうな表情で返したリュウは、自分と相手の服を見比べながら自販機に歩み寄る。黒と紺は、どこか似ている。ガコンと、独特の音が五回鳴るとリュウはその少女に一つのジュースを差し出す。


「一応は助けてもらったから。コレ、礼と詫び」

「えっ?」

「……炭酸飲めるだろ?」


 明るく笑い、リュウはジュースを持ちその場で止まっている。邪気の無いその姿は少女にとって、幼い子供のように見えていた。


「い、いらないわよ」


 一瞬の間が空き、やはり黒ローブの少女は鋭いナイフのように言葉を返す。心なしか魔力も高まっていた。


「なんでアタシがそんなの貰わなきゃいけないのよ! しかも今さっき知り合った敵に! 変態に!」

「いや今さっきじゃなくて、今だろ? 変態じゃねーけど、痛かったけど」

「アンタ本っ当に馬鹿ね! 会話が噛み合わないってどういうことよ」


 右手をヒラヒラと振り、その少女は呆れながら自分達の場所であろう所まで戻ろうとした。しかし、リュウはそれを引き止める。


「なんでそんなにキレてんだよ」

「この状況でそんなことがまだ言えるのね」


 少女は響く廊下の声を自身で聞き、かなり目立っていることを知る。途端に羞恥心が込み上げ顔を紅潮させる。色々な意味で話題のチームの一人が、大声で敵チームに喧嘩を売っているように見えているのだ。周りの視線はとても冷たい。


「とりあえずコレ。お礼だよ」

「いらない……」


 早く戻りたくて簡素な返答をする少女にリュウは小さく溜め息をつく。


「あのなぁ。俺は助けてもらった礼と、ああ、触ってしまった詫びをだな~」

「何よ、私の胸は触れないようなものなの!?」

「ええ……? お前めんどくせーな」

「もう!」


 ネリルは奪うかのようにリュウの手から缶を取った。この瞬間だけでは泥棒のようにも、リュウには思えてしまい笑いが込み上げる。そのまま逃げるようにして、戻ろうとした。


「ねえ!」


 瞬間、後ろからもう聞き慣れた声が壁に反響しながら聞こえ、振り向くリュウ。貰った缶を両手で持ち、顔を紅潮させながらネリルはかなり慌てた様子でリュウを見ている。目を合わせようとしないネリルに、リュウは首をかしげる。


「ネリル・オーン。そ、その……アンタも代表メンバーなんでしょ? だから、当たるかも知れないから、その、つまり……」

「なんだよ」

「な、名前教えなさいよ!」


 ネリルはあまりの恥ずかしさに缶を握りしめ、その手を大きく振ってしまう。

 少しの間が空き、何故か急にここまで焦りを募らせている自分にネリル本人が馬鹿馬鹿しくなってきている頃、リュウは堂々と声を張って返す。


「俺の名前はリュウ。世界一の魔導師になる男だ! 決勝で当たったときはよろしく。じゃあな、ネリル!」


 リュウはそう言い走り出した。ついに自分に降りかかっていた空腹も、限界点を越えていた。


「……リュウ、か」


 一人残されたネリルは、先程のリュウとの流れを再びを思い浮かべる。明るく無邪気に笑うリュウの顔が何度も何度も頭の中をよぎり、その度にネリルは訳もなく缶を振る。

 殴ってしまったことに罪悪感を覚えたのも、ネリルは見過ごせなかった。


(な、何よ、これはそういう意味じゃなくて……だから、これは……。てか、変態だし)

「ああーもう!」


 こんがらがったネリルは、リュウから貰ったジュースの蓋を開けようとする。

 やけ飲みをしようとプルトップを開けながら顔の前まで缶を準備。リュウのことで頭がいっぱいのネリルは気づいていなかった。そのジュースの中身がコーラだったということに。

 缶の飲み口より先に中のコーラが顔に当たった。ネリル自身も気持ちが良い程に、盛大に顔にぶちまけていたた。


「ああ、もう!」


 * * *


「遅い」


 戻ってきたリュウに声をかけるティナ。その隣ではイクトが、希望の品を楽しみにして座っている。


「ほらこれ。買ってきた」

「ありがとうございます」


 イクトはすぐに受けとる。ちゃんとトマトジュースを買って来れたのかと、十回ほど確認したあと嬉しそうに飲み始めた。


「俺、オレンジを頼んだはず」

「え、我慢して青汁にしてくんね。似てるじゃん」

「許さない」


 アルのものをとっくの昔に忘れていたリュウだったが、表情が鋭かった。だけに、青汁を開けないまま椅子においたアルは、何をしていたのかをリュウに訊いた。


「いや、なんかな。Eクラスの代表のネリルって奴に……謝りに行ったのか?」

「なんで訊き返すのよ」

「……Eクラス」


 アルはその言葉に反応した。あの、試合を見せた話題のチームだったからだ。


「何ともないの? 怪我とかしてない?」

「してねー……こともねー時もあるよ」

「は?」

「しかし、影で何をしているのかわからないチームの選手と会うなんて、何か企んでるとしか思えませんね」

「確かに、怖いかも」


 リュウの曖昧な返事に反応したティナを避け、イクトもマリーも心配そうにリュウの方を見る。


「うーん。上手く言えねーけど、そんなに悪そうな奴じゃなかったぞ? 怖くてめんどくさい感じ」

「結局どっちよ」

「とにかく、おれは飯を食う!」


 お弁当へと駆け寄り早速食べ始めるリュウ。仕方なく、この話題は打ちきりとなった。その後リュウ達も見学し、G対Hの試合はGクラスの勝利に終わった。二日目の四クラスが出揃ったところで、魔闘祭一日目は終了した。

 

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