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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
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38 強者の四戦(後)


「げっ……」


 ティナの姿を見ていたリュウはとたんに顔色を悪くしていった。急激に血の気が引いていき、乗り出すようにして見ていた体をベンチに任せてしまう。

 アルもまた同じようにして座り込み、遂には視線さえ向けなくなる。これによってティナへの応援は寂しいものとなった。


「どうしたんですかリュウ?」


 イクトは気になって質問するが、返事は一向にない。


「あの……」

「ままま、まあ、見てればばばば、わかるだろ……」


 リュウの血の気を一気に引かせたそれは“恐怖”だ。イクトは以降言葉を掛けるのをやめてしまった。同情からだった。


 * * *


「本気だと?」

「そうよ」

「馬鹿馬鹿しい。強がりも時と場をわきまえなければただの妄言だ」

「てかあんたさぁ、何なの? そりゃ私は実技では三位よごめんなさいねえ三位で! それだから何だって言うのよ!」


 ティナは苛立ちを抑えきれなかった。元々小馬鹿にされていたようなこの状況を良くは思っていなかった。


「この世は魔法が全て。魔法の扱いが上手い者ほど上へ行ける。三位よりも二位、二位よりも一位。この世で生き抜く絶対の法則だ」

「この頭でっかちのゴリラ野郎」


 ティナはあっかんべーとヒューズの言葉を遮った。


「まあでも大体あなたの言いたいことはわかったわ」


 嫌らしく笑って見せる。


「勝てば良いんでしょ、勝てば! 『ホワイトアンブレラ』解放!」


 ティナの持つ純白の傘が光り始めた。光量はどんどんと上がり眩しさのあまりヒューズは目を瞑るほどだった。


「【優美廻転(ゆうびかいてん)】」


 その瞬間、ティナには聞こえずとも会場はどよめいた。同じ試合、一年生という未熟な者達が続けて武器を解放したことによる単純な驚愕だ。観戦しているシエラも言葉が出ないほど。

 ヒューズも、見えないながらに驚いた。

 学年首席とはいえ実技は三位。そんな自分よりも劣るような人間が武器解放をする。それも、常時解放型だと油断した自分に向けて。


「なに!?」


 すぐに視界が晴れるもしかし、ティナの手には何も持たれていない。攻撃が来るわけでも無いので問題ないだろう、きっと空耳なのだとヒューズは考え直したのだが、途端に考えを改めた。

 ティナは持っていたのだ、先程まで。白を基調としてレースで飾られた可愛らしい傘を。


「どこへやった?」


 完全に丸腰になってしまった筈のティナに、問いかけるヒューズ。相手が武器を持っていないというのに、込み上げてくるのは焦燥感だけ。その時、ヒューズは気が付いた。


「上か!!」


 ヒューズは結界の天井部分ギリギリに浮遊する白い傘を見つけた。その傘は、まるでメリーゴーランドのように、されどもそれとは似ても似つかぬほどに高速回転している。


「へっへ~ん! 私の勝ち!」

「フン、解放したところで所詮は傘。雨が降っていなければ使えないような道具など恐れるに足りん」

「雨が降ってちゃいけないのよ。降らすのは私なんだから」

魔水球(アクア・スフィア)


 ティナは両の手を上方に伸ばし、水の魔法をその手に溜める。その手に溜められる水はみるみるうちに球体となり、中級魔法としての力を最大限に発揮する。ヒューズがそれを確認した頃には、既にその水球の直径はティナの身長を超していた。


「この期に及んで詠唱破棄か。継続詠唱で威力の落ちない俺の魔法に勝てるはずもない」

「いい加減口を閉じていた方がいいと思うよ?」


 ティナはさらに魔力を込めていく。


「後で恥ずかしくなるのはあんただから」


 ティナは【魔水球(アクア・スフィア)】を上へ放った。その先にあるのは空中浮遊している自身の傘。直撃した水の塊を、傘は丸々吸収してしまった。


「私の武器はお姉ちゃんに貰ったもの。だからお姉ちゃんが使っていた技しか使えないの」


 このティナの言葉が合図だったかのように、傘は更に回転速度を速めた。


「何をするかはわからぬが、もう手遅れだ!」


 ティナとの会話の間にもヒューズは魔力を高めていた。次第に魔力が形を成し、ヒューズの目の前には猛烈に燃え盛る炎が現れた。


暴君飛炎撃フレイム・フラストレーション


 詠唱のいらない完璧な魔法。ヒューズは己の鍛練の成果とセンスによって裏付けされた最強の魔法だと自負している。だからこそ、この一撃は決めなければならない。魔法戦において力こそ絶対。何物をも焼き尽くす業火を振るう己の強さを、見せつけなければならない。

 その炎は一直線に放たれた。三分間魔法を放ち続けることは勿論可能だ。先程まではそうしようと思っていた。しかしヒューズは、その三分間で放ち続けるための魔力を全て一つにまとめて魔法を放った。

 正真正銘全魔力だ。そしてその魔力で放った魔法は一つとは限らない。


「すごい数だな」


 観戦していたシエラは声を漏らした。

 ヒューズが喚び出した炎は総計三十。両手どころか両足を使っても数えきれないほどの炎を喚び出し、ティナを狙っているのだ。


「手遅れとか関係ないわ。あなたがいかに魔法が上手くても、次元が一つ違うのよ」


 傘から、水が放たれた。回転を利用して一粒一粒を広範囲に撒いていく。それは本当に雨のようで、すぐに会場はどしゃ降りの光景に変わった。


「そんなもので俺の炎を消せると思うなぁ!」


 ヒューズは全魔力を解放し、炎のレーザービームを放つ。三十の炎がティナを焼き尽くす、はずだった。

 淡い透き通った水は本来の美しさを際立たせる綺麗な雨となり降り注いでいる。綺麗に日光を反射させながら、虹と共に落ちてくる雨はまさに優美。いつしか雨足の安定した優雅な雨と変わっていた。


「な、な……」


 その優雅な一時を楽しむために、ヒューズの三十の炎は全て消えてしまった。


「何故……?」


 上手く、その状況が掴めないヒューズは徐々に強まってきた雨に打たれながらも、ティナに問いを投げる。


「雨に含まれているのは私の魔力。それを傘の力を借りて特殊な性質の水にした。「抑え込む」という性質よ。それで、あなたの炎ではなく“魔力自体”を抑え込んだの」


 ティナが口を開く頃にはもう、燃え続ける炎の矢は全て消滅していた。


「どんなに完成度が高い魔法でも元を辿れば最後は魔力に行き着くわ。そこを抑えたんだもの、消えないわけないじゃないの」


 ティナの雨は既に止んでいた。それは、戦闘の終了を意味するからだ。


「さらにね、私の魔力をたっぷり込めた雨は物体の熱をいつもより急激に奪うの。さすがに気化熱って言葉は聞いたことあるよね?」


 少しおちゃらけた表情でティナは笑う。気化熱は水が蒸発するときに吸収される熱のことだ。その部分は急激に温度が下がる。人体でも汗による体温調節などが気化熱を利用しているうちの一つだ。


「勿論、一滴でもこの雨に当たったあなたは体温を急激に奪われる。炎を出そうとしても私の魔力で抑え込まれ、暖を取れない」


 既にヒューズはティナの言葉をそれほど聞いてはいない。耳に届いている声も歪曲し反響していた。気化熱により奪われる体温。低体温により動かぬ身体。封魔の雨により魔法も使えず、ただただ震えるだけとなる。


「確かにあなたは実技一位よ。だけど私は学年首席。結局実力は私の下。これが全て。これが現実。いい加減思い上がりはよしなさい」


 震えながら何度も首を動かすヒューズ。それを降参の意と確認した男性教師は声を張り上げ、勝利の宣言を高らかと発する。


「勝者、ティナ・ローズ! よって魔闘祭第一試合勝利クラスをAクラスとする!」


 その声と共に防音防魔結界は解かれた。結界が解かれると、観客席にいたA組全員の歓声がティナにまで伝わってきた。そのほとんどがシエラの怒りの鉄槌を免れたことによる、安堵から来るものだ。


「待てーい!」


 そこに一人の少年が走り込んでくる。会場を埋め尽くすほどの歓声の中でもはっきりと認識できるその声の主は、大きく息を吸い込んでからさらに続ける。


「俺は? 俺の試合は終わり!?」

「君はちゃんとルールを聞いていたのか? 先に三回勝てば終わりなんだぞ?」


 走ってきた声の主、もといリュウの肩を掴み動きを止め、審判であった男性教師は口を開いた。


「知ってるよ! けどさ、お約束っていうの? 普通五回目まで引っ張るじゃん! 裏でコソコソ調整するじゃん!」


 一体彼の語るお約束というものが何なのか、男性教師はそう言いた気にティナやヒューズ、リュウを見つめるが急に馬鹿馬鹿しくなり小さく溜め息をつく。


「とにかく、もう終わりだ」


『これより十分間の休憩となります。次の試合を控えている、Cクラス、Dクラスの代表選手は十分後にスタジアム中央へお集まりください』


 抜群のタイミングでリサのアナウンスが入り、この試合は終了した。それを確認した観客席の人々は、トイレに立ったり、伸びをしたりと、休憩モードに突入した。

 敗れたBクラスはそのまま【アルテミス】闘技場を後にする。勿論、駄々をこねるリュウもティナ引きずられスタジアムを後にした。


 * * *


「あ~あ。結局あの子出なかったね」

「そうだな」


 深くフードを被った、声色からして少女であるそれは隣に座る体躯の大きい男に声を掛ける。

 男こそ少女と同じように深くフードを被っているが、大きな体躯はやはり目立つようで、観客席をまるまる二つ占領してしまっていることで、周りから不審がられていた。

 広い観客席の三つに座っている男と女は、怪しい雰囲気を浮かべながら、会話を続ける。


「なんかつまんないね~」

「今の段階のアレを見たところで、面白さを感じるとは思えないな」

「え~、でもさ~」

「お前より劣るが俺も探知をした。アレはまだ上級魔法すら使えないではないか」

「まあね」


 ここで話は一区切りつき、少しの間が空く。もう一度口を開き話を始めたのは、体躯の大きい男の方だった。


「ちゃんと準備は済ませてあるのか?」


 その言葉に少女は、フードで見えぬ顔を微笑ませる。魔力を極限まで抑えているも、その高揚から漏れてしまう程に。


「もちろん。次はAクラスの不戦勝だよ~」

「そうか。なら次はちゃんとしたアレの力を見ることができるな」

「あのヤローにも見せてあげたいね~」

「俺はあいつが苦手だ」

「私も~」


 次の瞬間、二人は今まで座っていた場所を離れ、場外へと出ていってしまった。不穏な空気と、謎の企みをその場に残すことなく、数秒後には姿を完全に消していた。

 

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