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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
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37 強者の四戦(前)


 アルの勝利は確定し、勝者の歩みを彼は見せていた。しかしその決定に一人だけ不満を爆発させる者がいる。


「俺出れねーじゃん!」


 結界が完全に解かれてアルが向かって来ようとした時には既に遅かった。耐えきれず噴火する。


「ごめん。つい」

「つい、じゃねーよ。出れねーじゃん。せっかく皆と同じで強くなったのによ……」


 現在リュウ達Aクラスは二勝一敗だ。勿論まだ試合終了にはならないが、次に控える選手がティナだからこそリュウは沈んでいた。

 学年首席だけでは甘んじず、テストは全教科で首位を誇り、さらにクラスでも指折りの美貌。胸の辺りが若干寂しいが、例え壁だとしてもご愛嬌。

 学年首席とはすなわち、同年代において上はいないということ。


「まだ始まってもいないですけどね」

「そうよ、まだ私の勝ちが決まったわけじゃないわ」

「本当は?」

「絶対そんなのあり得ない」

「ほれ見ろ」


『第四戦を行います。四番手の選手は中央結界へと移動してください』


 連絡担当のリサの抑揚の無いアナウンスが聞こえた。


「よし、行くね」

「おうおう行け行け」

「がんばれ」

「頑張ってください」

「……頑張って、ください」


 リュウは追い払うように、アルは小さく、イクトは丁寧に、そしてマリーは俯きながらも、歩みを進めるティナを送り出す。


「負けろ! 俺を出せ!」


 やはり出てくる裏切り者。ティナはそんなものを意にも介さず、決壊中央へと歩み寄った。その直後には歓声が遮断され、外には映像のみが伝わっていた。


「ティナ・ローズさんか。よろしく」

「よろしくね」


 名前を言われたのだから返してあげたかったがわからない。とりあえずの返事はするが会話は続かない。

 Bクラスのクラス色でもある山吹色。その色の戦闘服に身を包むその男子生徒は同年齢とは思えないほどに体躯の大きい少年だった。日々背の高いイクトの近くに居てもなお大きく感じる背丈は百九十センチを超えるかもしれないほど。鋭い目付きを装備しているその男子生徒は、威圧感を見せつける。

 ティナは、微かに冷や汗をかいた。


「ゴツい奴出てきたな」


 結界の外で悠長に観戦を決め込むリュウ。横に座るイクトとアルと共に開戦の時を待っていた。


「彼は……」

「イクト知ってんの?」

「確か……ううん、思い出せない……」


 イクトは必死に記憶を辿るが思い出すには至らない。


「まあ、ティナより強い奴はタメにいねーけどな」


 例え相手がどのような者だとしてもそこには差があるのだ。何故ならばティナは学年首席。一学年においての首席なのだから、一学年の戦いに負けはない。


「ティナさんには、負けてほしくない」


 その時マリーが小さく口を開いた。勝ちたいという強い思いが込められた小さな言葉。マリーの応援は小さいながらも力強く放たれていた。


「だな」


 ついに、学年首席ティナの戦いが始まる。


「魔闘祭第一試合第四戦、ティナ・ローズ対ヒューズ・マルコフ。試合開始!」


 試合開始の合図がかかるものの、それは始まらなかった。両者共に身構えて様子をうかがう。

 大気に混じるように発せられた魔力がぶつかるのがわかる。既に戦いは始まっているが、それを目視することは叶わない。

 ただひたすらに過ぎる時間。しかし、動くに動けない。


(嫌な圧力……。魔力量はリュウと同じくらいね)

【次元転送・ホワイトアンブレラ】


 同年代とは思えないほどのリュウの魔力。多いうえにタフなそれは、魔法の才がリュウには宝の持ち腐れだと思っていた。ようやく人並みに近づき始めたリュウの魔法だが、それでもあの潜在能力は未だに潜んだままだ。

 ヒューズと呼ばれた相手の魔力はそれに匹敵するほどの量だ。魔力探知が出来ずともぶつかる魔力の端々からわかってしまう。


「よろしく、ティナ・ローズさん。学年首席の君と戦えるなんて光栄だ」

「こちらこそよろしくね。でもごめんなさい、他のクラスの人はよく知らないの」

「俺は君のことを知っている。筆記テストでは全教科トップ、実技との総合でも勿論トップ。貴族が多く集まる王国一の学園で平民の君がその実力。さすがだ」


 ティナは『ホワイトアンブレラ』を胸の前に構えた。ヒューズの魔力が高まったからだ。


「君はまさに才色兼備だ。天は二物を与えないと言うが、デタラメも良いところ。ただ……」

【次元転送・鈍天(どんてん)


 ヒューズの呼び出した魔法武器は、ヒューズと同じ長さを誇る斧だった。巨大な両刃が長い棒状の鉄の先に付けられた武器。一般的に戦斧(いくさおの)と呼ばれる物だった。

 重量感のある太い刃に見入っていたが、気づけばそれは、目の前で振り上げられていた。


「それだけだ」


 一瞬にして詰められた距離。強化魔法は今まで見た魔法の中でも屈指のクオリティ。すぐにその戦斧は落ちてきた。ゆっくりと、しかし力強く降ろされる戦斧。当たれば一溜まりもない。

 ティナは足を強化し、右側へと飛んだ。元いた場所では、真上から振られた戦斧が地を抉っていた。

 それも生半可なものではないその威力。腕が強化されていたのか、周り一メートル程は足場の悪い岩海岸のようになってしまった。


「なるほど、実技試験が“三位”でもこれは避けるか」


 ティナは眉をひそめた。

 ティナは筆記試験で全教科トップの成績を誇り、なおかつ筆記と実技の成績を総合した総合点でも首位をキープしている。だからこその学年首席だが、実技の成績は三位。王国一の学園で三位の実力に入ることは大層だが、二人の人間が上にいるということは変わらない。

 そして魔闘祭に、筆記は関係ない。


「思い出しました」


 それを観戦していたイクトは顔をあげた。あれから記憶の隅々を探し回りようやく答えに辿り着いたのだ。


「ヒューズ・マルコフ。実技試験においてその順位は“一位”。代々隊長格も輩出する名家マルコフの跡取りです」

「……スッゲーんだ。……ティナより?」

「単純な試験ではティナの方が上です。ですが実技、つまり実践形式の魔法戦においてはそうでもないです。幼少の頃より訓練を受けていたとするならば……」

「強いだろうな」


 イクトとアルには一抹の不安がよぎっていた。リュウもようやく事の重大さに気がつき始めたようだったが、ピンとは来ていない。


「ふん!」


 『鈍天』が叩きつけられ、地面が砕かれる。刃の部分に保護魔法は掛けられているがそれでも並みの威力ではない。重たい戦斧を傘ごときでは防げない。ティナは躱す他に対処法を見いだせないでいた。


「逃げ回るだけでは勝敗は決しないぞ!」

炎撃(フレイム)


 ヒューズが持ち得るは炎属性。肉を焼き骨を焼く業火の魔法は、下級といえども侮れない。


「開け『ホワイトアンブレラ』!」


 ティナの声で開く傘。縁のフリルがはらりと揺れて、炎とティナとの間に広がった。詠唱破棄と言えどもヒューズの魔法は完成されている。炎の熱は一気にティナを焼きに掛かった。

 しかし、ティナは水属性の魔力を持つ魔導師だ。

 開いた傘にも水の膜はひろがっていき次第にそれは厚くなっていく。業火も冷やされ消され、気づいた頃には水蒸気になっていた。


「なるほど、その傘は水魔法を強化するものか。常時解放型の中でもかなり良い質だ」

「それはどうも」


 水蒸気も晴れた頃合いでヒューズはティナに語りかける。詠唱をさせないことも目的の一つだが、居場所の確認も兼ねていた。その隙に魔力を高めて、ヒューズは詠みあげる。


「だとすればその水魔法をも凌駕する炎魔法が必要だな」

「たいした自信ね。まるで簡単にそんな炎が出せるような言い方」

「ああ、そう捉えてくれて構わない。“紅蓮に燃えし帝の炎、遮るものなく焼き尽くせ。縦横駆ける走りの(ほむら)。我が前に立つは朽ちる者、焼き尽くされし消し炭と化したもの!”」

暴君飛炎撃フレイム・フラストレーション


 ヒューズは戦斧『鈍天』を地に刺し、両手から完全詠唱の中級魔法の炎を放つ。

 それは一直線に伸びる炎の砲弾だった。レーザービームのように凄まじい速さを誇り、周りの光景を歪めるほどに熱を帯び、ティナを狙い澄ました。


「開け『ホワイトアンブレラ』!」


 再び傘を開いて炎を防ぐ。単調だと言われようともティナにはこれしか方法がない。それを見透かすようにして放たれた炎の魔法は、ティナが高めた水の膜をも蒸発させていった。


「くっ……」


 派手に爆発し、ティナの体は傘ごと後ろに流された。辛うじて体勢を立て直すが、ヒューズは未だに狙いを定めている。


(なんて強い魔法なのよ。あんなの次撃たれたらヤバいじゃない!)


 リュウに匹敵する魔力量。そしてリュウを凌駕する魔法のセンス。今まで見てきた炎の魔法とは比べ物にならないほどの完成度。ティナは徐々に不利な状況へと追いやられていた。

 しかし、あの魔法はヒューズでさえも完全詠唱しなければ発動できないような強力なもの。詠唱時間は、隙と等しい。


「今がチャンス!」


 ティナは走り出した。しかし、


「所詮、格下なのだな」

暴君飛炎撃フレイム・フラストレーション


 その魔法は放たれた。ティナの眼前には数瞬のうちに炎が迫ってきた。


「きゃああ!」


 全く威力の落ちない第二撃。ティナは完全に押し負けてしまい結界壁ギリギリまで追い詰められた。その爆風は視界も遮り、巻き上がった砂ぼこりと体へのダメージが極限に高まる。


「まだ立つか。もう負けでいいだろう」

「はぁ……あんたそれ、継続詠唱ね……?」


 継続詠唱。一度目に放った魔法の詠唱を利用し、次の魔法を詠唱破棄で放つ高等技術だ。ある程度の時間は、詠唱破棄の魔法も完全詠唱として使用することが出来るようになる。

 しかしこれには弱点もある。

 詠唱を持続させるわけだから、少量とはいえ魔力を放出し続けなければならない。魔力の多いヒューズだからこそできる技だ。魔力量の多さにセンスが付くとこうなるのだ。


「俺は残り三分間この魔法を放つことが出来る。もう戦り合う意味はない。いい加減負けを認めたらどうだ?」

「……いやよ」

「確かに君は学年首席だ。だがこと魔法戦においてその実力は俺よりも下にいる。これが全て。これが現実。いい加減思い上がりはよせ」


 ヒューズはさらに魔力を高める。既に両手をティナへと向けていた。


「……はあ、わかった」


 ティナはゆっくりと息を吐いた。


「そうだ負けを認めろ」

「本気を出してあげるわよ」

「……何だと?」

「嫌だったの。だけど仕方ないもん、あんた強いし」


 ティナは、ゆっくりと顔をあげる。


「口、聞いてくれなくなるから嫌だったの!」


 同時に高まったのは、爆発的な魔力だった。


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