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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
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36 喧騒の三戦


『第二戦は、イクトの勝利だー!』


 試合終了の合図と共に結界が消えて出てくるイクト。大歓声に後押しされるかのようなリュウが、刀を鞘に終っているイクトの方へと駆け寄った。


「やったなイクト!」

「なんとか勝てました」

「余裕そうだったくせによぉ~」


 リュウはイクトの背中を、紅葉模様が浮かぶことも構いなしに叩く。イクトはフラりとリュウの歓迎を躱してからベンチに座った。


(まだこんなにもきついのか……)


 イクトはすり減った魔力に苦痛の表情を浮かべた。


『第三戦を行います。三番手の選手は中央結界内部へと出てきてください』


 放送席のリサが次の試合のメンバーの召集を掛け始めた。インターバルが短いとリュウには思えたが、イクトは風を操っていただけ。短時間の戦闘だった。その為、スタジアムの損傷が少なく直ぐに試合を始められる。


「ん、俺か」


 音もなく、アルが立ち上がる。


「がんばれよ。お前の次のティナの次は俺だからな!」


 それを真剣に見つめながらリュウは送り出す。しかし、胸中では、


(俺まで繋げろ! 俺まで繋げろ! アルが負ければ俺まで回る!)


 実に身勝手なことを考えていた。スタスタと歩いているアルも、それには雰囲気で気づいていた。

 もし、この試合にアルが負けたとすると三戦行ったことになるので一勝二敗。しかし、学年首席のティナは次は負けるはずがない。となると四戦目を終えた時点で勝敗は二勝二敗になり、リュウへと回ってくる。確かにリュウにとってそれはとてつもなく、当分の休み時間はその話題しか出ないであろう程に嬉しいことだと、アルはそこまで考えてから首を横に振る。

 しかし、それはリュウが勝てばの話だったからだ。負ければその話題を出すことがご法度となってしまう。魔法を上手く使えないリュウへと回すということは、シエラの鉄拳を自ら受けに行くようなものだった。


(リュウごめん。むり)


 歩きながらそれを決心するアル。ここ一番の気合いの入れようを背中に滲ませた。こうして、この試合でのアルの目標が定まった。

 リュウを絶対にスタジアムへ上げない。

 実に可哀想な話だと、声に出すこともなく胸中に仕舞いこむ。


「よろしく。我が宿敵(とも)よ」


 そんなことを考えている内に、中央まで歩いていた。つい考え事にふけっていたため、声を掛けられやっと気が付く。


「僕の名前はイアン・レルト。今から僕達は互いを高めあい、叱咤し合う最高の親友(とも)だ!」

(どうしよう、イタイ奴だ……)


 悠然としたガッツポーズを取っているイアンは、アルを見ながらも自分に酔いしれていた。アルは戸惑いのあまり、無言になっていた。


「魔闘祭第一試合第三戦。アル・グリフィン対イアン・レルト、試合開始!」


 その言葉のあと、イアンは距離を取りつつ直ぐに魔法を放つ。


「見せてやろう! “我が内に眠りし愛の稲妻よ、我が好敵手(とも)にその光をみせよ!”」

魔雷球(サンダー・スフィア)


(詠唱違うし、友達になった覚えなど無い……)

瞬盾(プロテクション)


 オリジナルの詠唱文を唱えるということは、実質詠唱破棄で魔法を放つということ。少し性格に問題はあるも、実力もまたそれなりにあるのだと感心したアル。イアンの出した【魔雷球(サンダー・スフィア)】をアルの盾は簡単に防ぐことに変わりはない。


「なに? 僕の魔法を防ぐだと? まさかお前、ツ、ツンデレか」

(帰ってしまおうか……)


 太陽のように暑苦しいリュウに慣れているぶん、アルは受け流すことに関して絶対の自信がある。それでも、折れかかっていた。


 * * *


「そういえば何事もなく送り出しましたけど、アルに勝機はあるのですか?」


 結界の外、Aクラス選手の座る簡易ベンチ。無音の試合を眺めているイクトが、立ち上がり際に呟いた。相変わらず黙って座っているマリーの隣で頭を撫でているティナに変わって、その問にはリュウが答えた。


「なんで?」


 取り付けられた柵に二人して寄りかかり、魔法戦の攻防を眺める。パワーバランスは特に偏りもなく、どちらが勝つともどちらが負けるとも甲乙つけ難かった。


「アルの魔法をしっかり見たことが無いですから。補助系魔法が得意なのはわかりますが、攻撃魔法がもしも使えないのなら、勝てはしないでしょう?」

「まあ、そうだよな……」

「まさか、本当に使えないんですか?」


 魔法の特性は攻撃、防御、補助など、それぞれの作用によって分類される。その名の通り補助魔法は使用者に限らず何らかの事象を補助するための魔法。強化などもこれにあたるが、それだけでは直接的な攻撃ができない。それを成し得るためには攻撃魔法が必要だ。


「いんや、授業とかで【魔光球(フォトン・スフィア)】使ってるし。あいつは魔法に関してはかなりスゲー奴だよ。ティナより使える魔法多いし」


 リュウは紺色の戦闘服の袖を捲り、頬杖をつき無表情で答える。魔法で劣っていることに、関心を示したくはなかった。


「だとしたら問題は無さそうですね。もしかしたらすぐに終わるかもしれません」

「う~ん……」


 アルが負ければリュウに順番が回ってくるかもしれない。次のティナは大体勝てそうなのが幸いし、緊張感はない。リュウは確かに戦いたいのだが、目下の悩みはそこにない。


「使えるっちゃ使えるけど……」


 どこか腑に落ちない様子のリュウ。原因はもっと根本的なところにあるような気がしていた。


「使えるけど、使わないんだよ。攻撃魔法を」


 どういう意味なのかわからず、イクトはまたアルの方を見始める。


「なんでだろうなぁ」


 それからしばらくは、沈黙が続いていく。

 リュウが話している間も、アルとイアンの戦いはしっかりと続いていた。しかし、戦況が変わったかと言えばそうではない。イアンが攻めアルが守る、それを繰り返すだけだった。


「ふん、中々やるな。さすがは我が盟友(とも)だ」

「いや、だから……」


 言い返そうとした時、アルはそれに気づいた。イアンの目の前に空間の歪みができているのだ。それは【次元転送】の証拠、魔法武器が出てくる時の典型的なパターンだ。


【次元転送・晶石ガシャポン】


 詠唱を終え出てきたのは、全長二メートルほどの大きさのガラスケースがついた台だった。アルの身長から見れば大きなそれは、とてつもない大きさに感じられる。

 ガラスケースの中には、様々な大きさの石が丸い容器に入っている。その下の台の中央にはダイヤルらしきものがついており、さらにその下には先程の容器が出てこれる程度の穴が開いている。


(……攻撃系武器ではなさそうだな)


 見慣れぬ物体にアルは身構える。


「これこそ我が魔法武器『晶石ガシャポン』。これを出したからには同志(とも)には負けんぞ!」


 少し笑ったイアンは残り全ての魔力を一気に高める。すると『晶石ガシャポン』の中央のダイヤルが回りだした。

 ダイヤルが一回転すると、その下の穴から丸い容器一つが飛び出し、イアンの手の中に収まった。容器の中は眩しく光っている。


「これは、俺の魔力を貯めている魔晶石を呼び出す装置。シンクロすればするほど良質のものが出る」


 イアンの言う通り、中から出てきたのは魔晶石だった。誰が見てもそれは目映いほどの光であり、魔力の内容量はかなりのものだとアルにはわかる。イアンはそれを手に取ると、自身の胸に近づける。魔力を還元し始めたのだ。

 数秒でその光は治まった。魔力がほぼ戻ったイアンは、【魔雷球(サンダー・スフィア)】を連続で繰り出す。

 対して、油断をしていなかったアルも素早く盾を出す。しかし、イアンは魔力を回復し勢いづいている。さらにそれは回復し続けるということにも繋がる。誰が見ても、アルは不利な立場に立たされていた。

 アルの魔力は減少の一途を辿っていくが、イアンの魔力は時が経とうと減りはしない。故にアルは盾による防御ではなく、最低限の魔力消費の強化魔法による回避へと、変更せざるを得なくなった。

 それを、待っていたと言わんばかりにしっかりと目に焼き付けたイアンは、さらに異次元から軍刀を取りだし、アルに斬りかかる。回復し続ける魔力。絶え間なく撃ち込まれる雷。合間に来る斬撃。

 完全に相手のペースへと持ち込まれてしまった。さすがは代表メンバーだと、少し関心しているアルは、とりあえず下級無属性魔法の盾を前方に出し、それを目隠しに後ろへ下がった。


「どうした、攻めてこないのか? 我が──「もういい」


 小さくため息をつき、アルは盾を消す。それと同時に、頭をフルに回転させる。相手は魔力が回復し、無限でないとは言えかなりの持久力となる。

 不利なこの状況でも負けることは許されない。もしも負けようものなら、宿題等という軽々しいものではなく、それはもう地獄の裁きのようなものが落ちてしまう。それだけは避けるべきだと、アルはただ無言で頷く。


「負けたくはない、負けない」


 アルは小さく呟くと魔力を高めた。


『どう? 魔力コントロールの成果出たでしょ?』


【アルテミス】での短い修行を終えた直後、ロイに言われた言葉だ。アルは確かに修行の成果を実感していた。新入生クエストの時よりも、遥かに魔法が出しやすいのだ。

 修行をしたことによってさらに強くなったという事実が、アルにとって背中を押してくれるものとなっていた。


(まずは陽動……)

連錠(チェーン)


 その瞬間、アルは無属性の鎖魔法をイアンに向かって飛ばした。下級魔法であるその鎖は、イアンの胸辺りを狙うように飛んでいく。そんな自分の急所に、それも恐るべき速さで伸びてきた鎖を防ごうと、イアンは軍刀を胸の前に構える。

 それを見たアルは微笑する。胸を狙う鎖の真の目的は軍刀を胸の前に構えさせることだったから。アルは鎖を器用に操り、イアンの軍刀に巻き付けると、それを宙へと投げ飛ばす。

 案外簡単に宙へと投げられてしまい、イアンは丸腰になってしまった。


「くっ!」


 しかし、イアンもその程度の逆転に降参をするわけは無かった。直ぐ様【魔雷球(サンダー・スフィア)】を撃ち出す。

 だが、アルはその先を行っていた。五人の中で完璧な魔力コントロールを出来た彼だからこそできる、高難度の技だ。


瞬盾(プロテクション)

連錠(チェーン)


 無属性の盾で雷を防ぎつつ、鎖でイアンを縛る。これこそアルが生み出した、魔法同時発動の奥義だった。種類の違う魔法の発動を同時に行い、魔法同士の連携を可能にする。

 下級魔法のため盾は壊れるものの、新しく出した二つ目の鎖はイアンを完璧に縛り上げた。その間に一つ目の鎖で縛り上げ奪った軍刀を、掌まで持ってくる。

 そして、軍刀をイアンの首に突きつける。軍刀に鎖を巻き付けてから、わずか十秒の出来事だった。


「さすが我──「うるさい」


 アルのぴしゃりとした態度に言葉を失った。戦意を失ったのはイアンだった。


『勝者、アル・グリフィン!』


 徐々に聞こえる観客の歓声に掻き消されることなく、審判の声はアルの耳にうるさく響いた。


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