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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
35/301

34 確執の一戦

 

「今度は私よ!」

水際の砕衝(アクア・デュラン)


 マリーに向けて一直線で飛んでくる水の塊を、彼女は難なく躱した。地面にぶつかった水は少量の土を掘り返し、溶け込んでいった。


(詠唱破棄だからあまり威力は無い)


 詠唱破棄は魔法発動の速度が増すが、難易度が上がって威力が落ちる。下級魔法ならば強めのシャワー程度の威力。


(何かに魔力を使っているということ? でも何も見えないし)


 サシャが何らかの方法で魔法発動に魔力を回せないことを考えた。しかし、マリーにはそれを知る術はない。


(私に魔力探知が出来れば……)


 何度も試みたその技は習得できなかった。イクトにもコツを聞いたが結果は同じ。それが才能なのだと気づいたのは年齢が二桁に達した直後のことだった。


(《落ちこぼれ》か……)


 マリーの胸中にはそれがある。サシャに言われたときが最初ではない。それを最初に言われたのはまだ幼い頃だった。明確な時期が思い出せないほど小さな頃。

 故にマリーは、レイジーの名が嫌いだ。


「“轟け雷鳴、奏でよ閃光”」

雷撃(サンダー)


 手先に力を込めて魔力を解き放つ。直線的に出した魔法は一直線にサシャへと向かった。しかしその魔法もサシャには当たらない。


(今の、何かに弾かれたような……)


 既にイクトならば彼女の持つトリックに気づいているかもしれない。リュウならばそんなことはお構いなしに殴っているかもしれない。ティナもアルも、解決策は講じているはず。

 しかし自分にはそれだけの実力がない。何故ならば《落ちこぼれ》だから。レイジーの恥だから。


「“轟け雷鳴、奏でよ閃光”」

雷撃(サンダー)


 この日までに教わったことは、魔力コントロールのイロハと、マリーの魔法武器『マギ』とのシンクロ向上だ。

 魔法の扱いは飛躍的に安定し、マリーの三丁の魔法武器とも上手くシンクロ出来ている。その結果、レイジーの伝統とも言える銃と体術の共演「銃闘術」の完成度が高まった。


(また弾かれた。“何か”があそこにある)


 それは魔法の類いでは無い。下級魔法を詠唱破棄で出せるようなサシャだが、空間に作用させるような魔法を扱うには未熟だ。マリーもそうであるように、その線は早々に捨てた。

 直線上を遮る何かがあるとすれば当然防御魔法だが、前述の通りそれはない。だとすると、考えられるものは一つしかなかった。


「そこにあるのは魔法武器だよね」


 銃口を向けて問いかけてみる。安い挑発だとも思ったが、彼女はマリーを、さらには貴族を良く思っていない。乗ってくるのは当然だった。


「ご名答。これが私の魔法武器『ダークブルーローズ』。死の森に生息するスケルトンカメレオン由来の盾。透明化することで存在さえ隠してしまう最強の盾なのよ」


 現れたのはサシャの身体を完全に覆うほどの大きさを誇る五角形の盾だった。野球でよく見るホームベースに似た形で、中央部に薔薇の装飾が施されている。可視化させてしまえば少し巨大な盾。すぐに透明に戻りその存在は隠された。


「あなたはこれから見えない壁に恐怖しながら戦うことになるのよ」

水際の砕衝(アクア・デュラン)


 サシャは水魔法を二つ放った。左右からマリーを狙うが、マリーは前に走り出すことで躱した。

 向けた銃口をブレさせず標的を確実に狙う。それは走りながらも変わらない。銃闘術の基本だ。雷属性の魔法弾をすぐさま撃ち込むが『ダークブルーローズ』がそれを防ぐ。その間にも迫り来る水の波動を避け続けなければならないマリーは少しの焦りを抱えていた。


水際の砕衝(アクア・デュラン)


 マリーの胸中を見透かしてサシャは水の下級魔法を放つ。勢いよく吹き出す水の攻撃は、脳で考えてしまったら最後避けることはできない。


「うっ」


 マリーは対処することが出来ず、水に足をとられ転んでしまう。


「どんどん行くわよ!」


 サシャはそう言うと盾の陰に隠れながら、マリーに次々と水を放っていく。マリーもなんとかそれを躱し、魔法弾で反撃を試みるが、サシャの『ダークブルーローズ』にいく手を阻まれてしまった。


「このままじゃ……」


 マリーは焦燥感を払拭できぬまま、魔力を高めることしか出来なかった。魔法弾にするか魔法にするか、選択肢もその二つしか思い浮かばない。


『マリーは自信が無いんだね』


 個人練習になり、交代制で回ってくるロイが初めて来たときの言葉だった。集中していたため、不意にかけられたその言葉に、跳ねるほど驚いたことを思い出した。

 自身の胸中を見透かされただけでなく、その中でも一番のつっかえを刺激されたような気がした。マリーには不快感にも似た懐疑心が最初に襲ってきた。


『私は強くないんです』


 貴族というだけで、あらゆる事柄において常に上位にいなければいけないという重圧。貴族だから。レイジー家だから。

 この言葉がどれ程の重りになったか。

 しかし、どんなに努力をしても、せいぜいこの程度。ちょっとした天才など出ようものなら直ぐに抜かされる。故にマリーは《落ちこぼれ》と呼ばれた。そう呼ばれる内に自分に自信が無くなってしまったのだ。


『もっと自信を持たなきゃ駄目だよ。君は才能があるんだから』

『でも、私、才能なんか……』

『大丈夫。マリーはすごいよ』


 この時、どこか温かく優しい言葉が救いになっていたことをもう一度思い出す。

 優しく微笑むロイの姿はゆっくりと消えていき、変わりに嫌らしく笑いながら水を撃ち出すサシャの姿が目に映る。マリーは即座に魔力を銃に込めて、魔法弾を放つ。サシャの盾に阻まれはしたものの、現在のそれの位置は記憶した。


『いいかい? 戦いと言うのは正々堂々やるのもいいが、そうでないものもまた良しだ』

『ひ、卑怯な手とかは……』

『それは攻め手と守り手との解釈が異なることで生まれる概念だ。そんなもの、勝ってしまえば意味はない』


 いたずらっ子に共通することは、あの企みがたっぷりつまった嫌らしい笑みだ。その後に教わった一つの技は、確かにこの状況を打破できるかもしれないものとなる。


「魔力装填“thunder”」


 黄金の短銃『メルキオール』に雷を注ぐマリー。敵へと向ける銃口には徐々に稲光が集まっていった。


「そこに盾があるなら躱せばいい!」


 撃ち出した先には盾がある。しかし、マリーは真正面に魔法弾を放った。目視の難しい圧倒的速度の魔法弾は盾にぶつかる。サシャはそう過信した。


「え?」


 撃たれたのは二発だった。盾にぶつかることはなく、その二発は互いに反対方向に曲がった。盾を避けるように左右に曲がり、サシャ目掛けて飛んでくる。さながらブーメランのように飛んできた魔法弾は、サシャに直撃する前に地面に不発した。


「曲射の技です。結局は私の魔力だから魔法弾も曲げることくらい出来る。次は当てるよ」


 銃口は下がらない。


「……は? あれであんたが強いとでも言ったつもり?」


 しかしサシャは気にくわなかった。嫌悪する貴族に少しでも手加減をされたことが許せなかった。


「ふざけないでよ! あんたみたいな温室育ちの落ちこぼれなんかに負けるわけないでしょ! 親のコネと名前だけでいい気になってんじゃないわよ!」

水際に連なる砕衝アクア・リオ・デュラン


 盾から体を出し、水の魔力を両手に集める。先程までに見せていた水魔法の強化版を発動させた。両手から連続して放たれる攻撃用の水は岩をも砕くほどの威力。

 マリーは走りながら躱すが次第に狙いは澄まされる。


「何が二大貴族よ! あんた達のせいで私の家は潰されたのよ。ろくに能力のない肥えた奴らが弱いものいじめをしてるだけじゃない! あんたらがいなければ、いなければ……!」


 サシャの放つ水魔法には想いが込められていた。

 イデア王国に存在する貴族は、王より与えられた領地を取り仕切る。貴族が治める土地で税や待遇は異なるが、中には圧政に近い場所も存在する。王政とはあるが王が影響するのは首都に近い部分までなのが実情で、郊外の町などは貴族の好き放題。

 二大貴族レイジーもその例外ではないが、だからといってその誇りは捨てていない。少なくとも領内の民を奴隷のように扱うことはないし、重い税を課しているわけでもない。


「貴族はみんな腐ってる!」

水際の砕衝(アクア・デュラン)


 渾身の一発だった。マリーは足に受けてしまい大きく転んだ。サシャの過去がどのように悲惨だったのかが流れ込んでくるようだった。


「言い返してみなさいよ。大好きなお家様が侮辱されてるのよ! さっさとパパに言いつけて私を殺してみなさいよ!」


 サシャの心には既に貴族だとかマリーだとかの区別がない。


「悲しいね……」


 マリーは土埃を払いながら言う。


「悲しいですって?」

「悲しいよ。この学園に入学して友達もできて楽しく過ごせる機会は沢山あったのに、今までずっと苦しんできたんでしょ?」

「あんたに何がわかるのよ! 自分の家を滅ぼされる気持ちが、あんたみたいな奴にわかるわけないじゃないの!」

「わからないよ。私はレイジーだけど、レイジーの名前が嫌いなんだもの」

「落ちこぼれなんてレッテル貼られるから負け惜しみを言いたいのもわかるけどね……」


 サシャは何をも聞き入れない。魔力の高まりがただひたすらに続けられていた。


「私はあんたを倒せればそれだけでいいのよ!」

水際の連なる砕衝アクア・リオ・デュラン


「だから、嫌いなの」

雷撃(サンダー)


 共に詠唱破棄。勝ったのは雷だった。


「もうやめよう」


 マリーは再び魔法弾を撃った。二発の弾はサシャの盾の前で急激に方向を変え、左右両方向から狙い込んだ。それで決着する。そうなるはずだった。

 『ダークブルーローズ』はその瞬間、透明化の能力を消してしまった。そして、二つに分裂した。真ん中から縦に割れて二つとなり、両方向に移動する。


「え……?」


 その瞬間、マリーとサシャとの間に遮るものは無くなった。


水撃(アクア)


 最速の水魔法が、遮るものなくマリーへと放たれた。たったの数秒のうちにマリーは結界壁に叩きつけられた。


「そこまで。勝者、サシャ・リンド!」


 審判の声がマリーの耳にも届いた。


「盾を二つに分けることくらい出来るのよ。透明化は解けるけどね」


 勝ち誇った笑み。


「これでわかったかしらレイジーの《落ちこぼれ》さん。結局何をやっても、実力はそんなものなのよ」


 ようやく、激しい初戦は幕を下ろした。

 

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