29 見えてくる課題
魔闘祭優勝を目指し、リュウ達の特訓は始まった。初日とは言えリュウ達は魔力についての扱いを学んだ。早速コントロール訓練からのスタートだ。
「よし」
数秒と間もなくアルはクリアした。その手には明滅を繰り返す光の魔力が存在している。
「僕も出来ました」
次はイクトだった。アルと違い手には強弱を細かに変える風が生まれていた。床の砂を巻き込むことで視認しやすくなっている。
「二人はオッケーだね。となると問題は……」
「俺だろ。わかってるよ!」
本日三度目の暴発の直後に、ロイの冷ややかな目は向けられた。
「何度やっても爆発しちまう」
「何度も爆発に耐えられる君がすごいよ」
黒煙が上がるほどの盛大な爆発を、耐炎体質によって受けるリュウ。そんなことが続き、進歩したことと言えば服を焦がさない工夫が出来るようになったくらいだった。
「ちっくしょー見てろよ」
再び魔力を手先に集中する。開いた手のひらの上に灯った炎をまずは小さく。消えないようにと願いつつ今度は大きくする。ここでいつも爆発してしまう。
「何でだよ!」
嫌気がさしたリュウは大の字になって寝そべった。一向に進歩しない自分の魔力に苛立ちが募る。
「まあまあ、落ち着きなって」
「落ち着いてる!」
見かねたロイが助言する。そのためにここにいるのだ。
「言っただろ、魔法は『イメージ』だって。例えばこの炎を鳥だと思うと……」
ロイの右手に灯った炎が鳥の形を為していく。刹那、力強く羽ばたく不死鳥のように姿を変えて天井へと飛んでいった。
「すっげ」
「特別なことは一切してないよ。ただ鳥の形を思い浮かべながら、そのまま炎に表しただけなんだ」
「けど俺そんな細けーこと出来ねーもん」
「別に鳥を作れとは言わないさ。リュウにはリュウの得意分野があるだろ?」
「俺の得意分野」
ロイのヒントで頭が動く。
六歳までの記憶がないリュウにとって、自分の本当の親は顔さえ知らない存在だ。実在するのかもわからない両親の愛情は受けられなかった。拾い主であるステラは優しかったが厳しい一面もあった。
最初に教えられたのが、食に関しての能力だ。リュウは料理と言うものを覚えた。
「強火と弱火……」
「よしそれでいこう。強火と弱火は何が違う?」
「肉に焼き目を入れたり、炒め物なんかは強火でやらねーと失敗する。煮物やハンバーグの仕上げには中まで火を通せる弱火にする」
次第にイメージが膨らんでくるという実感があった。リュウの中での炎の明確なイメージが差別化していく。自身の属性である炎とは、物に熱を与える力だ。戦闘ばかりに気を取られてしまったが、それは生活にも応用できる。
「もし苦手な壁にぶち当たったら回り道をして身近なところから考えてみよう。案外その壁に似たものが見つかるはずさ」
「そういうことか!」
リュウは立ち上がる。特大の魔力を今まで込めていたが、今回は料理をするときのイメージを頭に置く。
「まずは弱火だ。リュウは今何を作ってる?」
「んじゃシチュー。まだ夜は冷えるから温かいもん食う」
リュウの右手に集まる炎がとろりと揺れる。空間に満遍なく火を通せるように優しく仄かに現れた。その炎に雄々しさは存在しない。
「次は強火。ステーキとかどう?」
「いいね。サシの入った高級肉はよく油が溶けてとろけるし、赤身肉は少し寝かせて旨味を引き出しておく」
天高く火柱が上がった。焦げ目を付けるように強烈に伸びた炎だが、決して爆発はしない。ミディアムに仕上げられるような火加減はリュウの十八番だ。仕上げのフランベもお手のものである。
「さあ、弱火と強火を交互にやってみて」
「シチュー、ステーキ、シチュー、ステーキ……」
それでも最初は不安定だった。得意な料理ならば誰にも負けないという自信も後押しし、リュウの手のひらの炎は大小を繰り返していった。
「出来た!」
「さっすが。じゃあリュウも合格だね」
「天才だな、俺」
リュウは鼻を高く調子に乗る。それでも苦手だった魔法発動への一歩を順調に歩み始めたのだ。今まで出来なかった事が出来るようになる喜びは、よく知っていた。
(まさか、あのリュウが出来るようになるとは……)
ロイの魔法に関する指導者の資質に脱帽したのはイクトだった。同時にロイとの力量差を僅かばかり痛感してしまった。そして同時に、リュウの才能の一端を目の当たりにしたのだった。
「さあ、どんどんいくよー!」
ロイの発破で、三人の修行はさらに加速していく。
* * *
「そうなのよね、どいつもこいつもまだ子供なのよね」
そう言い捨てるティナの言葉にうんうんと頷くそぶりを見せたのは、こちら側で魔法を教えるミルナだった。
頷きながらに胸を大きく揺らすミルナの姿を見て、顔を下に向けるだけで足元まで見渡せる体型でお馴染みのティナはいい気がしない。会話の中でどうにか欠点となるものを見つけようとしていたが、結果惨敗だった。
先程、魔力コントロールを完璧にこなしたティナは、ミルナとの『ガールズトーク』に花を咲かせていた。
「良い? 女の魅力はエロさじゃないわ。そんなのは勝手に男が見つけ出してくれるもの。そのための隙をいかに作るかが本当に大事なのよ」
「急にそんなこと言われても、私にはわからないわ」
「あなたもそろそろ恋愛する時期じゃなくて? ほら、リュウは面白い子よねぇ?」
ミルナの瞳には毎回の如くピンク色がまとわりつく。そこに存在する色気はティナには無いものだ。
「そんなんじゃ……無いし……」
耳まで赤くなったことが自分でもわかった。早速見破られてしまったという屈辱も少しある。
「そんなことより! 私に魔法を教えてください。魔力コントロールが出来るようになったんだから、次の段階でしょ?」
「そりゃ新しい魔法を覚えることも大事ね。だけど人には向き不向きがあるわ」
「私はどうなんですか?」
「そうね……ティナの魔法はもしかしたら私に似てるかもしれないわ」
「え?」
何かを見透かしたような目をしていた。答えになっていない答えをどう追求しようか考え始めた時、マリーも駆け寄ってきた。
「ミルナさん私も出来ました!」
「良いわ、上出来ね。マリーは繊細な部分で力を発揮するタイプね。あなたはある程度魔法の数を増やせると思うけど、戦闘スタイルのこともあるから慎重に選びましょうね。とは言ってもレイジーのお家柄なら選択肢は絞れるわ」
「分かりました」
一瞬だけ、レイジーという言葉に表情を曇らせたマリーだったがすぐに笑顔に切り替わる。
「ティナには少し面白いものを見せてあげるわ。それを見てこの先あなたがどこへ向かっていくのか、あなたの魔法がどう変化していくのか。楽しみにしてるからね」
「え?」
ひどく含みのある内容なだけにティナは首を傾げるしか無かった。
「──じゃあ皆注目!」
数時間経ってから、ロイが再び五人を集めた。
「今日から三週間、つまり魔闘祭当日までの練習メニューを発表します」
大きなホワイトボードまで持ってきていた。案外乗り気で教鞭を取っているのだ。
「ということで今から君達には一人一人個人で練習してもらいます! もちろん、新しい魔法も教えるからね。とはいっても期間は少ない。一つ一つの質を上げることから始めよう」
「おお!」
新しい魔法と聞いてリュウが反応しないわけがない。既に頭の中では、ありとあらゆる魔法の姿がリュウから放出されている。もしリュウの頭の中の出来事が現実となった場合、まず間違いなく灼熱地獄となり得てしまうだろう程に。
「君達の特訓内容を発表する。まずはリュウ。君は近接戦闘はすでに合格レベルだから、中距離で戦えるように一つ魔法を覚えてもらうよ。次はアル。君は魔法の種類も威力も申し分ない。だから魔力コントロールをさらに極めて、下級魔法は全て詠唱破棄で出してもらう。次はイクト。君は風の操作の向上と、戦術を組み上げる頭脳を養ってもらうよ」
ロイが一通り説明を終えると、今度は隣に立っているミルナが口を開く。
「ティナはさっき私が見せた魔法の感想文を提出。その後は魔力コントロールの続きをしてもらう。マリーは優先順位としては、魔法武器とのシンクロ率アップが先ね。そのあと攻守に使える補助魔法の習得って感じ」
そして、本格的に五人の【アルテミス】での修行が始まった。
広い修練場に散らばる五人は、ロイとミルナが交替で、なおかつローテーション式で教えるという形で魔法の練習をする。
コントロール力は身に付いたものの、相変わらず魔法の苦手なリュウは必死に魔導書を睨み付け、アルはひたすら使える魔法の発動。
イクトの周りにはホワイトボードが何枚も置かれている。そこには、ありとあらゆる戦術記録や戦争記録が付けられているのだが、それを囲むように周りに吹く突風により、見ることは出来ない。
ティナはアルと同様ひたすら魔法の発動を繰り返す。水を操り、球から龍までありとあらゆる形を作り出している。マリーはと言えば、雷を付与した魔法弾をティナの作り出した水の造形物に向け放っている。
「あら~、最近の魔導師の卵たちは筋がいいわねぇ」
ミルナは豊満な胸の下に腕を組み、隣でリュウ達を見つめるロイを見る。どことなく嬉しそうなロイの表情を見て、ついからかいたくなっていた。
「これなら、魔闘祭でしっかりと戦えます」
ロイの瞳は輝いていた。自身の教え子達の晴れ舞台を応援するその様は、まるで子供達の運動会を見る父親のようだった。
「珍しいわね。柄にもないことしちゃって」
「あはは、興味深いですからね」
ミルナはぼそりと呟いた。ロイは苦笑で返す。それから、その日は延々と魔法発動の反復練習繰り返し、修行を終えた。寮に戻ってからも、筋トレや魔力コントロールをしているリュウ達。
日々出されたメニューを順調に成し遂げていき、ついに三週間という短い修行を終え、魔闘祭の前日はあっという間にやってきた。




