表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
28/301

27 VS.《皇炎の支配者》


「やあリュウ。皆でショッピングかい?」

「今度魔闘祭があるんだ。で、それに出ることになったから特訓しようと思って」

「へえ、なるほどね」


 リュウはロイと話すとき、少しだけ身構えるように反る癖がある。ゴールデンパインウィークの時以降、何故か畏怖してしまうのだ。


「……よし、ならうちにおいでよ」

「うち?」

「家?」

「はは、違うよ【アルテミス】本部のことさ。あそこなら特訓にはもってこいの施設が揃ってるしね」


 ロイはリュウの背中を無理やり押しながら言う。既に決定事項なのか身体は【アルテミス】の方へと向かっていた。


「いやいや、だって俺達部外者だし……」

「ああ気にしなくていいよ。俺ならそういうの関係無いしね。今日はゾット君もいないしうるさくないから」

「ゾッちゃんも大変だな」

「そうだ、【魔炎球(フレイム・スフィア)】出来るようになった? この前、狼煙みたいなのしか出来なくて困ってるッスって言ってたよ」

「あんたゾット副隊長に魔法習ってたの!? どうりであの時自信あり気だったわけね」


 たまの休みに会うリュウとゾット。学園の図書室で読んだ魔導書の魔法特訓に付き合ってもらっていたおかげで、「ゾッちゃん」の愛称を知った。新入生クエストに間に合わせるつもりだったが、結果は前述の通りである。


「それよりよろしいのですか? 急に私達みたいな部外者が行って」


 マリーがロイに問いかける。


「大丈夫だよ」


 ロイが笑顔で語り、道角を曲がった瞬間それは現れた。


「え?」


 見えてくるのは古本屋のはずだった。そこをさらに曲がり、くねくねとした道を行くことでようやく【アルテミス】本部に着くはずだった。

 しかし、もう現れてしまった。それはこの街の人間ならば誰しもが見覚えのある【アルテミス】本部の正門だった。


「……転移」

「うん。ちょっと使わせてもらったよ」


 ロイは笑顔で門番のもとへ向かった。程なくしてリュウ達五人は中へ入ることを許可された。


(気がつかなかった。あんなに速い魔法展開なんて出来るのね)


 最初にティナが身を持って知ったのは、軍人の本領の一片だった。

 見覚えのある建物を通過して案内されたのは半円状のドーム施設。リュウ達は言われるまま中へ入ると、とてつもなく広い空間が視界全体に全体に広がる。

 土で出来た地面だけでもサッカーコートと同じくらいの大きさをほこり、天井は見上げるほどに高い。


「【アルテミス】第一修練場。貸し切りにしちゃった」

「すっげー!」


 ついに言葉として出てしまったリュウの興奮。


「ここなら良いだろ? 早速魔法の特訓を始めよう」


 ロイが淡々と進めていく中で、イクトとアルだけは沈黙を貫いていた。しかしその沈黙も、イクトによって破られる。


「どうしてですか?」

「君は初めましてだね。俺はロイ・ファルジオン、ここで軍人をやってる」

「イクト・ソーマです。僕達を指導して貰えると言うところは有難いのですが、理由がわかりません。ロイさんにはメリットがありませんから」

「何を企んでいる?」


 イクトの質問と、アルの疑い。二つを受けたロイは絶やさぬ笑顔で返した。


「企んでなんかいないよ」

「…………」

「ただね、この前は頭ごなしに怒っただけで俺達は何もしてあげられなかったから、そのお詫びかな」


 ロイはリュウのことを見ながらそう語った。


「『本当の強さ』に気づいてもらいたいからね」


 ロイの微笑みが一層優しくなったその時、


「あなた達が魔法学園の生徒ね?」


 声色の高いそれがやって来た。リュウ達の後ろに彼女は立っている。


「紹介するね、彼女は四番隊隊士ミルナ・ホーキンスさん。今日は助っ人で来てもらったんだ」


 紺色に近い深い青色の髪の毛は背中まで伸びる程に長く、肩から腰にかけてのくびれを強調していた。ふくよかな胸からするほのかな良い香りは、こころまで落ち着かせて、さらな紅潮させるような誘惑的なもの。

 長くすらっとした足とそれを艶かしく支えるヒールに、うっすらと混じっていた妖艶な冷気。

 まるでフェロモンの塊とも呼べそうな女性だった。


「焦れったいのは嫌いなの。かわいい坊や達に逢いたいから出て来ちゃったわ」


 リュウの胸に人差し指を当て、心臓の位置を優しく指差す。リュウの胸の周りを、指は這うように動いていった。手つき一つ一つに(あで)を添えて、ミルナは誘っていく。どんな男でも悩殺するほどの必殺テクニックの内の一つだ。ミルナはここから飼い慣らしていく。


「あっははは! くすぐって~、やめてくれよぉ」


 しかし、リュウにお色気は通じない。飼い慣らすどころかじゃれあってしまう。冷や冷やと見ていたティナが安堵していた。


「面白いわねぇ」

「いやだ、やめ、ぶわっはっはっは!」


 いつしかおもちゃにされていたリュウの傍らで、ロイが進める。


「じゃあ特訓に移ろう。そこで早速だけど、“模擬戦”だ」


 その場に走った雷のようなものを受信するリュウは、涙目を拭きながらロイの方に視線を向けた。心なしか、さらに気分は高揚してきた。


「まずは特訓の前段階。君達の今の実力を見させてもらう。時間は五分、俺は魔法を使わない。君達は全力でかかってくる。ルールはこれだけだ」

「これだけってそんなの楽勝じゃん」


 五対一に加えて魔法の差。模擬戦とは言えどリュウ達は全力を出しても良いとする。リュウは負ける気がしなかった。


「三分間だけ相談していいよ。僕の合図でスタートだ」


 ロイは計り始めた。その様を見て、やはりロイという人間が軍人なのだと五人は痛感する。喋るロイの表情がまるでおもちゃを与えられた子供のように、楽しそうだった。


「俺が一気に攻める!」

「バカ!」


 勢いよく立ち上がり、堂々と室内全体に轟かせた作戦は作戦と呼べるものではない。そんなリュウを、ティナは肉体強化した手ではたく。


「まず、僕らは完全にナメられています」


 イクトが意見を言っていく。


「この状況でも勝てる策が彼にはあるからです。だとすると僕達はそれをも上回るほどの動きを見せなければなりません」

「なるほど」

「僕とリュウとティナとで攻めましょう。アルは補助魔法での援護、マリーは遠距離攻撃をお願いします」


 どのような事態でも冷静にイクトは作戦を練り始める。自分の得意分野なだけに、しっかりと今の状況の確認をしている。


「……さあ、三分だ」

「おう! ロイさん! 思いっきり正面から行くからな! 覚悟しろよ!」

「ほんと馬鹿」

「ははは。それじゃ、始めようか」


 ロイは苦笑いのまま魔力を高め始める。一段と上がった魔力に気づいたリュウ達は、各々臨戦態勢に入る。


「殺す気で来てね」


 口調は優しい。しかし、行動もそうとは限らない。気がつくと目の前にはロイの姿があった。闘気を携えて、リュウへ剣を掲げている。


(マジかよ)


 いつ出したかもわからない剣がリュウに振りかかる。乗せられた殺気から、リュウの足は動かなくなっていた。


「“──せん”」

瞬盾(プロテクション)


 目の前に半透明の、人一人分をカバーする大きさの円状の盾が現れた。剣はそれに阻まれ跳ね返る。


「“罪は縛、罰を縫う”」

連錠(チェーン)


 続けざまに現れた鎖がロイの剣に巻き付いて自由を奪った。


「さすがだね」


 剣を上に引き上げられたロイは苦笑いを見せる。

 詠唱の正確さと速さは天下一品。補助魔法に限れば、学年首席であるティナをも凌駕する。それが、アルだ。完璧な防御魔法でリュウを救い、そのままもう一種類の鎖魔法で敵の行く手を阻む。


「マリー」


 アルは魔力を高めながら、マリーに小さく合図する。


「あ、うん」

【次元転送・メルキオール】


 マリーは即座に魔力を高めて黄金の銃口から魔法弾を三発放った。器用にリュウ達の間をすり抜けるように放たれた弾は、ロイの刀と、右肩、さらに左足を攻撃した。

 止まりかけた戦況を覆すマリーの一手もロイには効果がない。魔法を使うまでもなく躱して見せたのだ。鎖をほどき剣を引き抜くと一度後ろに引く。ロイは出方を窺うことにした。


「リュウ、しゃんとしろ」

「ああ、悪い!」


 軍人の力の片鱗を見せつけられた。足がすくむ程の強烈なさっきを目の当たりにして恐怖が先行した。それでも、立ち直りの速さがリュウを奮い立たせる。

 ロイ目掛けて拳を振るう。ロイもまた剣で斬りかかろうとするが、そこはアルに止められる。


魔水球(アクア・スフィア)


 斬りかかった隙をついてティナが魔法を放つも、読んでいたと言わんばかりに華麗に避けられた。おかげでリュウの拳がロイの顔面を捉える。


「オラァッ!」


 肉体強化の魔法と籠手本来の硬度を利用して殴るが、手応えがない。リュウの拳はロイの左手に止められていた。たったの片手に全力を止められたのだ。


「なるほど」


 瞳が濁ることなく、ロイは剣を振り下ろす。しかし今度はイクトの刀に阻まれる。


「君はてっきりブレーンとして動くものと思ってたけど、案外ファイターなんだね」

「取れるものは取る主義です」


 一切の迷いなくロイの剣を弾く。金属音と共に放られたロイの剣には亀裂が入っていた。


「僕達の勝ちですね」


 イクトが斬りかかる。誰もがこの勝負の勝ちを確信した。しかし、手を止められないイクトが見たものはミルナの視線。それは獲物を狙う狩人の目でもなく、色恋に溺れる熱気の瞳でもない。それは、憐れみだ。

 直後、イクトの刀は止められた。

 ロイの武器である剣は奪ったはず。完全に丸腰の相手に遅れを取るなどありえない。左手はリュウの拳を抑えている。自分は油断などしていない。だからこそ刀で斬りかかっている。

 結論は簡単だった。ロイは右手でイクトの刀を止めていた。親指と人差し指と中指の三本の指で、イクトの刃は止められた。


「ほっ」


 重心を変えるスピードが分からなかった。気がつけばイクトは腹を蹴られ、リュウも同様に二人仲良く宙を舞っていた。

 マリーの銃声とティナの魔法で、どうにか追撃は免れるが自分達も体勢を整えるまでは攻撃に移れない。


「“罪は縛、罰を縫う。語り部狂わす鬼気暖簾”」

飾連錠(チェーン・ラブラタ)


 四肢の動きを奪う鎖魔法。中級に位を上げたアルの魔法はようやくロイの動きを止めた。


「うん。アルは合格」


 そして、ロイの猛攻は終わりを告げた。途端に今までのアルの魔法を嘲笑うように、鎖を弾き飛ばした。


「まあ君はサポート役に徹するようだけど、どうせなら攻撃にも参加してみなね。戦況を見渡せるんだから」


 飛ばされた剣を仕舞い、リュウ達の方へ向く。


「あとはティナも良いかな。魔法の扱いに関してはもう一年生レベルを凌駕してる。それとイクト、君もだが君は押し殺す思いとは裏腹に結構変なの漏れてるよ」


 ティナは喜び、イクトは俯く。イクトへの言葉が何を指しているのか分からなかったが、それは当人にしか分からないものなので当然だった。


「不合格なのはマリーとリュウ。このままだと初戦敗退だね」


 直後に空気は変わった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ