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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第三章【新入生クエスト】
24/301

23 それは、そういうこと


「あとでイクトに謝りなさい。でなけりゃ絶交ね」

「わかってるよ」


 リュウの瞳の先にはグリーンゴブリンがいる。既にマリーとティナの魔法は効果が切れはじめていた。もう間もなくグリーンゴブリンが自由の身になってしまう。


「俺は魔法が苦手だ」

「知ってる」

「知ってる」

「知ってる」


 咳払いを一つ。


「さっきみたいに皆を巻き込んじまうし、ロイさんの言った『本当の強さ』もわかんねー」

「知ってる」

「知ってる」

「知ってる」


 誰もリュウを励まそうなどとは思っていない。打ちのめされた心を、涙一つでリュウは取り留めた。


「だから、協力してくれ。俺だって魔法を苦手なままにはしねーよ。策がある」

「あ、いまのイクト君の真似だね?」

「似てなさすぎにも程があるわね」

「……ウケる」


 もはやリュウのメンタルは豆腐のごとく崩れ落ちそうだった。


「確かにリュウ君は弱いし頭は悪いし単純だよ!」


 純粋にけなしていくマリーの真っ直ぐさに傷ついていくリュウだが、それに気づきながらもマリーは続ける。


「けど、私なんかを助けてくれるような優しい人」


 その言葉だけは、周りから聞こえる雑音よりもはっきりと聞こえた。


「出会ってから日も経ってないのにそれは嫌というほどわかるもん。大丈夫だよ」


 マリーの小さな体は震えていた。ここへ来ることを拒んだことと関係があるのかもしれない。リュウにそれを知る術は無いが、震えながらにも背中を押してくれる。それがマリーの優しさだ。


「一言いいですか」

「イクト!」


 ふらふらになりながら寄ってきたイクト。額から流れた血が惨状を思い起こすが、リュウはそれでも目をそらすことはしなかった。


「弱点は恐らく胸です。僕の石つぶてが当たった場所であそこだけ強化魔法が分厚かった。つまり、そこを重点的に守らなければいけないんです」


 イクトはそのまま座り込む。すぐにアルの治癒魔法が施された。それがチームなのだと、リュウは気づいた。一人では出来ないことを皆で協力してやる。だからこそ不可能を可能にできる。

 『本当の強さ』というロイの言葉。じめっとした空気のようにまとわりついていたそれは、皆の言葉によって徐々に消えていく。


「やっぱ、わかんね」


 でも、という短い接続詞が付随する。


「このまま深く考えたってもっとわかんねー」


 覚悟を決めたその時だった。突如、胸の奥が高鳴った。脈打つ鼓動と、熱くなる血潮がストレートに気分を高めてくる。


「な、なんだ?」


 今まで感じたこともない攻撃的な何かだ。それはすぐに魔力ということが分かるものの、違和感に満ちている。大きく脈打つ心臓の鼓動がリュウの体内の魔力を呼び起こしていたのだった。


「どうしたの? なんか……熱いよ……?」


 まるで、間欠泉のように勢いよく溢れ出てきた魔力は、リュウの周りを赤く照らす。それは暴れん坊のやんちゃな、今までのリュウのものではない。

 静かにその場を制し、掌握する、まるで魔王のような威風堂々とした魔力だ。


「すげー、力が湧いてくる」


 リュウの表情は自信に満ちた清々しいものに変わり、さらに魔力は上がっていく。

 魔力探知ができないマリーですら、魔力が跳ね上がったことに気付き、ただただ驚きを隠せない。一体どうしたのか、そう聞くことすら叶わない。そして少年は覚醒する。


「俺は世界一の魔導師になるって決めてんだよ。こんなところでつまずいてられっか! “聖なる炎よ……我が命に従い敵を討つ球となれ”!!」


 溢れ出す謎の魔力によって、これまで現れることのなかった大きな火の球が、リュウの掌に作られる。

 神々しく燃え盛るその炎球は、地上を照らし時には恵みを、時には裁きをもたらす天の象徴『太陽』を思わせる。荒ぶる紅蓮の太陽はついに、リュウの背丈をも越してしまった。直径四メートルは下らない莫大なる炎の塊が出来上がった。


「いっけえええぇぇぇぇ!!」

魔炎球(フレイム・スフィア)


 掌から放たれた太陽は、一直線にグリーンゴブリンへ向かっていく。そのまま、雷のおかげで身動きの取れないグリーンゴブリンに直撃した。

 天が一体となって落ちてきたかのような轟音に加え、空間そのものが吠えるかのような地響きが、五臓六腑すべてに伝わってくる。

 圧倒的な熱量と光量に魅せられるマリーは、顔を覆う事を忘れた。砂煙が晴れ、見える着弾点。そこには巨大なクレーターが出現していた。


「お……おお……やった。やったー!」


 やっとその状況を理解したリュウは、その場で喜びの舞を披露し始める。順応の速さは天下一品だったのか、マリーの方が驚いていた。見えるクレーターのどこにもグリーンゴブリンの姿は無く、緑の魔物は炭も残っていなかった。


「今の、魔法球だよね……?」

「は、はあ?」

「ビビった~」


 リュウはその後ケロッとしていた。何事もなかったようにまりょくは落ち着き、周りはクレーター。状況を理解できるものはいなかった。


「魔法、苦手じゃなかったの?」

「……わかんね」

「何よ今の」

「……わかんね。でも何か急に胸が熱くなった。気づいたらあんなことになってたんだよ」


 出来上がったクレーターの中心地は焼け焦げていた。地面さえも焦がす熱量を、魔法を苦手とする少年が呼び出したのだから不可解だ。


「ってか俺【魔炎球(フレイム・スフィア)】完成させたじゃん! よっしゃー!」

「ねえ、もしかして今のが策ってやつ?」

「え、ああ、いや、俺が突っ込むから何かしてもらおうかなって思ってた」

「何か!? ……本当に馬鹿ね」

「なんだよ結果オーライだろ! それに人のこと馬鹿って言ったら自分が馬鹿なんだよ!」

「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよこの馬鹿!」

「あーまた言った。はい馬鹿が倍になった~」


 このまま放っておいたらどこまでも続きそうなので、マリーが仕方なく話題を変える。


「そうだ、リュウ君ここから出ないと。一応クエスト終了じゃない?」


 マリーに声を掛けられ披露していた喜びの舞を中断しし、リュウはアル達のところへと駆け寄る。治療を施されていたイクトは、傷や骨折こそ治ったものの絶対安静の状態からは脱していない。


「悪かったよイクト。俺のせいで……」

「本当ですよ。まだ歩けないんで、肩を貸してもらってもいいですか?」

「おう」


 リュウとイクトを先頭に歩き始めた。


「……ん?」


 後少しで出入口までたどり着くという時、リュウは急に立ち止まる。イクトも連動して止まった。


「どうしました?」

「あ、ああなんでも無い。行こう」


 そう言うとリュウは何事もなかったかのように、若干のスキップを混ぜ出入口へと向かう。おぶさる形で乗っているティナが、苦しそうに呻いた。


(……誰かに、見られてた?)


 視線を感じたがそこには何も無い。後には少しの謎が残るだとなった。


 * * *


 その後リュウ達は村長と合流し、全員で村人の手当てを手伝った。

 三十人を越える負傷者の手当ては終夜続き、途中動けるようになったイクト達も協力しながら看病にあたった。気がつけば翌日夕方にまでなっていたこの騒動も、ようやく収束。

 続いて待っていたのはさらに一晩中続く宴だった。リュウ達は村人たちの開く盛大な宴に呼ばれ(未成年なのでお酒は飲めないが)楽しく騒ぎ踊った。


「改めて礼を言う」


 ドンチャン騒ぎだった宴も無事終わり、ヴァナードは改めて五人を家に上げた。ついに真実を明かすことを決めたのだ。リュウ達を椅子に座らせ、どこから話せばよいのかを考える。

 この部屋は、他の部屋より少し広めで灯りもしっかりと付けられた部屋だ。ヴァナードはリュウ達意外は部屋に入れず、戸をゆっくり閉め自分も椅子に座った。


「……じゃあ、あの魔物はじっちゃん達が捕まえたってのかよ」

「うむ、まさにその通りじゃ」

「これがそんな石だったとはねぇ……」


 ヴァナードは真実を明かした。村の外の魔物の異常と、それの原因と思われる赤い石。さらには村の存続をかけた惨劇とヴァナード自身の決断。

 リュウは自分の首元で赤く光るネックレスを見つめる。赤い石という共通点はあるが、リュウのネックレスには毒々しさはない。


「ボスが居ないことで村の外のグリーンゴブリンは混乱しています」

「それでは、また奴らは襲ってくるのか!」

「いえ、すぐに新しいボスを選びます。もうそうなってもおかしくない時期だと思いますよ」


 魔物の恐怖からの解放にヴァナードは深く息を吐いて安堵した。イクトがそこまで話した時、意外な人物が乱入した。


「そんちょーを責めるな!」


 後方から響く声色の高い怒声。その声の主の方向にその場にいた全員は顔を向ける。そこには大粒の涙を流して立っている、リーマスの姿があった。


「リーマス……」


 突然の入室者に思わず声を漏らすリュウ。すぐに戻らせようとリュウが小さく息を吸い込んだ瞬間、


「お前達何やってんだよ! 父さんと母さんを助けてくれるんじゃなかったのかよ!」


 リーマスはただ両親に会いたいだけなのだ。急に居なくなってしまったことで、彼がどれだけの不安に陥ったかなど計り知れない。

 この村で何が起こっていたのかを説明しても納得しない。そしてわからない。


「アル……」

「まだ絶対安静だ。すぐに軍の医療隊を呼んだから何とも言えないが、死にはしない」

「そっか」


 しかしリーマスにも知る権利がある。例え望まなくてもいずれ耳に入る。その時に両親の思いを知ったのでは遅いのだ。

 リーマスは部屋の中に入り椅子に座るヴァナードの腕を掴んだ。リーマスはそのまま引っ張ろうとするがヴァナードはそれを許さなかった。


「そんちょー、父さんと母さんはどこ?」

「今はまだ会わせられんのじゃ。大丈夫、すぐに会えるようになるじゃろう」

「やだよ。リュウだって約束してくれたじゃないか!」

「……そうだよな」


 リュウは何かを決意したように溢す。


「え?」

「確かにアンタのしたことは、一応は村を守った。けど、アンタのことを慕ってた村人を裏切ったことに変わりはねー。だから村人全員に謝んなきゃ駄目だ!」


 リュウはリーマスが掴んでいる腕をさらに掴む。二人の人間に引かれたヴァナードは、その力に耐えられる筈もなく無理矢理立たされる。

 リュウは、そのまま二人を連れて部屋を出てしまった。後に残されたのは唖然とした表情の四人と、しんと静まり返った空気だけだった。


「あ~あ、行っちゃった。もう止められないね~」

「リーマス君? ……は、両親に会いたがってたのよね。だけど両親は絶対安静。だから村長は村のみんなに謝りに行く? 私全然着いていけないんだけど」


 ティナは諦め半分に呆れて、マリーは頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。


「昔からそう。一度決めたことは何があっても最後まで諦めないし、だから真っ直ぐすぎてほんと迷惑なやつ」


 ティナはそう続けた。そんなティナの、誉めているのか貶しているのか分からない言葉に今度はイクトが答える。


「僕はついこの間知り合い、そのままここ何日かをリュウと共に行動しました。確かに、リュウはうるさく単純で迷惑ですね」


 けれど、と、その場を静かな優しい空気が包み込むかのように言葉は続く。


「真っ直ぐだからこそ出来ることがあるのだと思います。彼の真似は僕には出来ません」

「まあ、それがリュウの良い所なんだけどね」


 ティナは上を向き、顔は少し紅潮させ呟く。そのティナの表情と行動に、マリーはいち早く反応した。後から気づいたイクトとアルも少し笑う。


「ティナさん、それって…」


 ティナは自分を見つめる三人を見つめ返し、そして自分の言動と行動と表情を振り替える。そして、さらに赤くなる。


「違うよ! そんなんじゃなくて、その……。ほら、私達もリュウを追いかけなきゃ!」


 ティナは駆け足で部屋を出てしまう。勿論、その整った顔を熟れたリンゴのように赤らめて。

 

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