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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第三章【新入生クエスト】
22/301

21 グリーンゴブリンの長


「よし! やるぞ!」


 リュウは気合いを入れて両の拳を合わせる。グリーンゴブリンもリュウ達が臨戦体制に入ったことに気づき向かってきた。


「僕の考えでは、アレはここらの群れの親玉だった魔物です。気を抜かないでください!」


 これといった弱点は無いものの、学生ならばかろうじて倒せるレベルに位置するグリーンゴブリン。それは教科書でも最初の方にくわしく載っているポピュラーな魔物だ。

 しかし、今目の前にいるのはそのグリーンゴブリンが作る群れのボスである。グリーンゴブリンというゴブリン族の中でも、高い戦闘力と知能を持った魔物だからこそのボスだ。

 体長は三メートル程ととても大きい上に、戦闘力は二メートル弱だった普通のグリーンゴブリンとは違い、例外なく跳ね上がっている。


「“聖なる雷よ、我が命に従い敵を討つ球となれ”」

魔雷球(サンダー・スフィア)


「“天駆ける言の葉、集いし破魔の刃と化す”」

天空戦刃(ブルーム・ウォルサー)


 まず手始めにマリーが雷の魔法を放つ。油断を取り止めたグリーンゴブリンは簡単にそれを弾くが、続けてイクトが魔法を放った。前方に吹く風の中に無数の刃を紛れ込ませる魔法だ。

 再び素手で弾こうとしたグリーンゴブリンに、風が吹く中で無数の切り傷を負わせたのだった。


「スゲーな二人とも!」

「雷属性は中級以下の効果無し、下級魔法自体は素手で弾けるレベルでしょうね。僕の魔法で傷を与えられるということは、肉体強化の魔法はそれほど上手ではないと見れますね」

「だとしたら、スピードはあれ以上にはならなそうね」

「彼らの弱点属性は特にないと言われてます。だとすれば本当に効果のある魔法は上級以上かもしれません」


 徹底的な分析能力。それがイクトの持つ長所だ。ティナやマリーが協力することで得た情報を正確に読み取り、戦術に変えて場に投入する。

 未だ知り合って間もない即席のチームではあるが、攻略方針はブレずに進みそうだった。


【次元転送・銀龍】

【次元転送・メルキオール】


 リュウは両手に『銀龍』を喚んだ。逞しい龍の装飾が淡く光り魔力を高める。マリーも黄金色の短銃『メルキオール』を構える。それぞれの魔法武器を手に、グリーンゴブリンを見据えた。


「リュウとティナには右足を。僕達で左足を狙います。バランスを崩したら総攻撃の後に捕縛魔法を重ね掛けします」

「りょーかい!」


 まともに話も聞かずリュウが走り出した。グリーンゴブリンが持つ鋭い爪を難なく躱し、遂に懐に忍び込む。


「オラァッ!」


 右手にありったけの炎をまとわせ殴り付ける。しかしグリーンゴブリンには効いていない。蚊が止まった程度の反応でリュウを蹴り飛ばした。


「バカリュウ、あんた一人でボス倒せるわけないでしょ」

「イテテテ、けど惜しかっただろ?」

「何て馬鹿なんだ……」


 ティナとリュウのやり取りを遠くで見ていたイクトは呆れて言葉も出なかった。

 相手は仮にも群れを率いるボス魔物だ。知能が人間以下ではあるが力も速さも、そして経験までがリュウよりも上なのだ。成績は最下位といい勝負、おまけに魔法が苦手なリュウは本来足手まといだ。


『ウオオオォォォォ!』


 雄叫びと共に、リュウを追うグリーンゴブリン。完全に標的をリュウ達へと絞っていた。

 格上の相手と戦うこの状況で、一番に大切なのは敵との位置取りだ。地下空間という限られたスペースで、身を隠せる遮蔽物は一切ない。拘束具をも壊す相手のパワーとまともにやりあうことは得策でない分、倒すための戦略はより慎重に練らなくてはいけない。

 そういう意味では、ちょっとやそっとの刺激では自分達の方に来ないこの状況をイクトは好機と見た。


「マリー、足元に」

「うん」


 黄金の短銃『メルキオール』を静かに構えるマリー。リボルバー式のそれの激鉄を倒し、射線上にグリーンゴブリンを見据えた。

 清みきった空気を切り裂くように、あるいは血生臭い戦場を闊歩するかのように、相反するような二つの景色を彷彿とさせ、マリーの魔法弾は解き放たれた。

 時速に直せば百キロ超。グリーンゴブリンは避けるまもなく足元への着弾を許し、地面に倒れこんだ。


「今です!」

天空戦刃(ブルーム・ウォルサー)


「“聖なる雷よ、我が命に従い敵を討つ球となれ”」

魔雷球(サンダー・スフィア)


「そういうことね!」

悪戯妖精の水鉄砲(ウォーター・シュート)


 イクトとマリーが魔法を放つ。ティナはすぐに二人の意図を汲み、魔法を重ねる。

 バランスを崩した直後のグリーンゴブリンには防御手段がない。学生ごときとは言え三人の魔法が合わさればまともな威力にもなる。

 イクトの作戦によって、グリーンゴブリンに全ての魔法が直撃した。


「すっげ……倒したんじゃね?」


 何が何だかわからぬうちに、リュウの目の前でグリーンゴブリンは砂煙に包まれた。間抜けな顔で勝利を目前としかけたが、しかし勘違いだった。


『ウオオオォォォォ!!』


 その咆哮は、村全体に響き渡った。


 * * *


 咆哮が轟く先にアルはいる。地下空間でグリーンゴブリンを捕らえようと傷ついた者達への治療を担当していた。ヴァナードの案内で比較的安全な場所への避難は完了したが、彼らの容態は一刻を争うものだった。


「痛ェよ……痛ェ……」

「うああっ!」

「おいしっかりしろ! 誰か、こいつが……返事しなくなっちまった!」


 概算で三十人。重軽傷は幅広く、とてもアル一人で診きれるほどの数ではない。ただでさえ魔力を持つ人間がこの村には少ないというのに、治癒魔法を扱えるものは居ないに等しい。


「“其が儚げに詠み比べ、黄泉より出づる陽炎の血。眩い閃光が頭を垂らせ、さも理をねじ曲げん”」

治癒(キュア)


 アルの治癒は無属性の下級魔法。詠唱を完璧にしても、瀕死の患者に施すには魔力が足りない。


「この人はすぐに専門治療が必要だ」

「じゃ、じゃが……」

「俺は応急処置しかしてやれない。早く連れていけ」


 村の力自慢の数人を使い、手際よく患者をさばいていくアル。この時ばかりはいつもの数倍喋っていた。


「最初に俺たちを襲ったのは、人間を敵だと認識していたから。そしてそれは群れのボスを“拐われた”から。ようやく謎が解けた」


 アルの目の前の男が最後の一人だった。全身傷だらけの男に応急処置の治癒魔法をかけながら、彼はヴァナードに問う。静かにヴァナードに迫るその言葉には怒気が込もっていた。


「……そうじゃのう。答えねばなるまいな」


 隣でアルの手伝いをするヴァナードは、頭と腕に包帯を巻き、他にも腕や足を怪我している。しかし、今治療を施している男性や、それより前に運ばれた人達に比べれば軽傷だ。

 無造作に伸び血も付いている髭を揺らし、テキパキとアルの手伝いをする中でヴァナードは口を開いた。


「儂たちの村は、隅々まで栄養の行き渡った土のお陰で、毎年豊作じゃった。その作物を食べて育つ家畜も、丸々太った良質なものとなった」


 しかし、という接続詞を付け加えヴァナードは続ける。下を向き肩を落とし、こぼれ落ちるような声量で。


「そんな食糧を欲するのは魔物も同じじゃった」


 ヴァナードのその話を、アルは黙々と作業をしながら聞いている。


「何度も儂らの村へ襲撃し、その度に儂らも抵抗した。儂もかつては魔法を操りし者。儂らが劣勢に立たされることは殆んど無かった」


 それは自然界でよくある光景だ。強いものは食に困ることなく生活できる。しかし弱いものはその日生きるだけでも難しい。知能の高い人間は、頭を使って今日まで生きてきた。


「じゃがある時、一体の魔物が現れた」

「アイツか」

「左様。儂らの策をことごとく破り、しまいには人語と戦術を操るようになったのじゃよ」


 アルは目を見開いた。人の言葉を話す魔物はとても高貴な者たちだ。しかも彼らは、魔力を使って人と会話が出来るというだけ。話すということは出来ない上に、そもそもグリーンゴブリンはそのような位の高い魔物ではない。


「不意を突かれたとしか言いようがなかった。お陰で我々は多くの被害を出し、彼らは村へと攻め入った。しかし儂らも順応する。奴一体をどうにかすれば群れをどうにか出来ると思ったんじゃ」

「だから、グリーンゴブリンのボスを地下に捕らえたのか」

「儂らでは手に終えない以上それしか無かった。でなければ、辺境のこんな村はすぐに滅びてしまう! それほどまでに、あの赤い石の力は強大なのじゃ!」

「赤い石?」


 アルには思い当たる節があった。

 ここへ落ちてくる直前にティナ達が見つけてきたものが赤い石だった。不気味なまでに毒々しい赤色だっただけによく覚えていた。


「あの石がボスに付いてからじゃ、知能が急に上がったのは」


 全ての始まりの赤い石。それはまるで誰かに仕組まれた事件のようだと、アルの背筋に悪寒が走った。


「不自然にも程がある」

「だからこそ儂らは軍に依頼した。ボスがいなくなったことで村の外はどうなっておるのか……」

「あのグリーンゴブリンを倒せる奴らを、呼んだというわけか」

「じゃがやって来たのはお主らのみ。もはやこの村は終わりじゃよ」


 全てはこの村を守るため。群れのボスを捕らえれば群れは不安定になる。リュウ達が急に襲われたことは、それが引き金だった。

 村に捕らえたボスを倒そうにも人手が足りない。だからこそ、村の見張りや魚屋に至るまで大人達は地下に集まった。そしてその結果がこれなのだ。

 赤い石が引き起こしたのは、一つの村を壊滅にまで追い込む悲劇だった。


「つまりあのボスを倒せばいいんだな」

「無理に決まっておるじゃろ! 儂らで相手にならぬ奴が、あの者達にどうにか出来るわけがない!」

「それはどうだろう」

「な、なんじゃと?」

「直にわかる。それよりも、そろそろ治療を終える。あんたは全員が地上に出たと確信したら逃げてくれ」


 アルがそう口にした直後だった。

 まるで大きな建物が倒壊したような重低音を響かせ、地面が大きく揺れた。先程から何度か聞こえていた小さな音とは違い、明らかに不可解な音だ。

 大きな建物どころかそもそも地下であるこの場所に何かが倒れるということは考えにくい。しかし現に地響きを起こすほどの何かが起こっているのだ。部屋中に響くその音に、意識のある者は皆不安の表情に包まれた。


「今のはなんじゃ!」


 ヴァナードも話の事は忘れ、恐怖のあまり立ち上がる。


「落ち着け。早く治療を終えたい」

「う、うむ」


 しかし、アルは焦りを見せるどころか、より一層魔力を高める。元来この魔法は魔力の扱いが難しい上に、魔力消費量も生半可なものではない。

 ヴァナードは、自分達が引き起こしたこの悲劇に真剣に向き合うアルの言葉に従うほかなかった。何十歳も年下の少年が、何もかもを悟ったように冷静でいる。狂気にも似た感情が、心の奥底から少しだけにじみ出た。

 

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