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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第三章【新入生クエスト】
21/301

20 対峙


「クエストクリア? いや俺何もわかってないんだけど」

「反応があったのはここです」


 イクトは後から来たティナ達にわかるように地面を指差した。リュウに関してはスルーだ。


「何の反応?」

「魔力探知です」

「え!? イクト魔力探知が出来るの!?」

「だからさ! 魔力探知ってなに! ってか今何してんのお前ら!」


 ついにリュウは爆発した。イクトの口調は完全に理解の先を行っているし、アルは喋らないし、ティナとマリーは証拠品らしきものを持ってきた。

 まるで自分だけが蚊帳の外に置かれたような状況がついに許せなくなった。


「いいですか? よく考えてみてくださいリュウ。僕達はこの村に来る途中でグリーンゴブリンに襲われました」

「おう」

「しかし奴らは基本的に縄張りに侵入したものしか襲いません。さらに、自分達から襲うことはありません。敵を認識してから自衛するからです。それが群れで暮らす彼らの習性です」

「お、おう」

「つまり、彼らは僕達“人間”を最初から敵として認識しているんです。何故だと思いますか?」

「う~ん……前に人間に襲われたから?」

「その通りです」


 最初は嫌な予感程度の軽いものだった。魔物の出現に困っているという“人間側”の依頼を受けていたのだから、それは真実なのだと思っていた。

 しかし、実際に調べた結果から紡ぎ出す事実は、そうではなかった。


「人間を襲うのは人間に襲われたから。群れでの行動にイレギュラーが起こるのは統率者がいないから。そして、僕の魔力感知に引っ掛かったものがいるのが、この真下だから。全ての謎がようやく繋がったんです」


 あらゆる生物の持つ、あるいは鉱物などにも含まれる魔力を、「感知する」という特殊技術。それは熟練の魔導師のみが会得できるもので、学園の一生徒が使えるようなものではない。イクトは、もしかしたら学園生徒の実力を凌駕しているのだと、ティナは驚いていた。


「この真下には何かがあります。正確にはわかりませんが地下道のようなものが作られ、その通路に魔力が充満しています」


 下は地面。地下への階段も無ければ、からくり仕掛けも存在しない。イクトはそこで手を詰まらせてしまっていたのだ。


「いや~わりぃよくわかんね」


 リュウは入試で全教科赤点を叩き出した男だ。まともな論理的推理を理解できるはずもない。五割程度しか明かされていないイクトの推理ならば尚更だ。


「けどあれだろ? 要は地下に何かあるからそこに行ければいいんだろ?」

「そうですが、それを今から……」

「なら早くそう言ってくれよな~!」


 リュウは得意気に笑っていた。そして、その魔力を高め始めていた。イクトが継続している魔力感知で読み取れるリュウの魔力は、既にこの場の誰にも勝る質と量。


「えっ、ちょっと何をしてるんですか……」

「リーマス! お前は家に戻ってろ! 父ちゃんと母ちゃんさっさと見つけてくっから、出迎えてやれ!」

「う、うん!」


 イクトの不安げな質問を流してリーマスを走らせる。リュウの魔力は赤く色づいた靄を生み出すほどに高密度に顕現(けんげん)されていた。


「この下に行けば全てわかることだし、クエストもクリアできる! そこに間違いはねーよなイクト!」

「まあ確かにそうですね」

「なら任せろ。アル、久々に“オペレーションAS”やるぞ」

「何ですかそれ?」

「オペラハウス?」


 イクトの返事を受け、アルに視線を向けるリュウ。アルが静かに頷いたが、そのやり取りを見てもイクトとマリーにはピンと来なかった。

 しかし、一方で血の気が引いていくティナと、魔法発動の詠唱を始めたアルの姿が視界に入る。


「待ちなさいリュウ! まさかここでアレをやる気じゃないでしょうね!」

「そのまさかだよ」

「ふざけないでよ、そんなことしたら私達は……」

「もう止まんねー」

「ちょ、ちょっと待って!」


 ティナは慌ててアルの後ろに避難する。まるでアルを盾にしてリュウから隠れるように、その動きは俊敏だった。


「アレって何?」


 イクトもマリーも知らないものには対処のしようがなかった。そして出遅れてしまった。


「イクト、マリー! 早くこっちに──」


 刹那に高まる魔力。間に合わぬイクトとマリー。

 リュウは途端に閃光を解き放ち、圧倒的なまでの量の魔力を全て爆発させた。

 

人間爆弾(ボム)


 時たまに起こる奇妙な地鳴りを上回り、リュウの爆発が大地を轟かせた。ひっくり返るような魔力を全て爆発に充てる爆弾魔法は、リュウが唯一詠唱を破棄できる魔法だ。リュウの耐炎性を最大限に生かす事のできる便利なものだが、


「アル早く! 盾!」

瞬盾(プロテクション)


 ティナの声と同時に詠唱を終えたアルが盾を呼び出した。ティナ達をまるまる覆う円盤が地面と垂直に現れ、爆風を全面カットする。


「やだ、地面が……」

「二人はだいじょぶだろうか」


 周りは地獄絵図だ。突如として起こった爆発が辺り一面を巻き込み、状況の飲み込みが終わらないまま、地面が崩れ始める。アルの妙な落ち着きも、結局は慣れだから。


「いやあああぁぁぁぁ~!」


 爆発の衝撃ですっぽりと空いた穴から、五人は落ちていった。


 * * *


 騒ぎが終わった頃には、五人は各所を地面に打ち付けていた。


「いった~」


 腰を強打したティナは軽い方だ。イクトとマリーはいまだに飲み込めないこの状況から、放心状態になっていた。


「“其が儚げに詠み比べ、黄泉より出づる陽炎の血。眩い閃光が頭を垂らせ、さも理をねじ曲げん”」

治癒(キュア)


 ふんわりと包み込むようにアルの魔力が解き放たれた。落ちた地面に為す術なく、イクトが感知した通りの地下道に落下した。地上から三メートル強の深さなのだから、それぞれがダメージを負った。

 アルが無属性の回復魔法を使ったのはそのためだ。そして、体の傷が治り始めたことでようやくイクトの頭が働き始めた。


「な、何なんですかこれは!」

「“オペレーション(アルの)(尻拭い)”だよ。ほら、俺魔法苦手だからコントロール出来ないし、使える魔法も変なのばっかなんだよ。だからとりあえずやってみる。後はアルがなんとかしてくれる。そんな感じの作戦!」


 イクトとマリーは呆れて言葉も出なかった。それと同時にリュウの見方を改めようと決心していた。


「いんや~派手にいったけど上手くいって良かった。継ぎはこの倍くらいでやってみようか」

「うん」

「「「ふざけるな!!」」」


 この日イクトとマリーとティナは初めて意気投合を果たした。


「それにしても、この通路はどこまで続いてるのかしらね」

「右から大きな魔力の反応があります」


 五人が落ちたのはトルク村の地下。そこには、木の柱を支えに洞窟の様なものが掘られていた。

 人が横に三人くらいまでなら並べる広さで、天井も屈む必要が無い程に高い。湿気が多く少し肌寒い洞窟のような通路の壁には、等間隔でランプが掛けられている。

 そのまま五人は、おぼつかない足取りで洞窟のようになっている村の地下通路を歩き出す。


「本当にこっちであってるよな?」

「はい、魔力が強くなっています」


 何が起こるかわからないため、ハイキング気分のリュウを除き、密集して進んでいるイクト達。徐々に探知できる魔力量が大きくなっていく事がイクトには判っていた。


「怖い」


 マリーが立ち止まる。気がつくと手が震え膝も震え、俯いていた。


「どうしたのマリー? 早くいこ?」

「私……行きたくない……」


 ティナの差し出した手を取らないマリー。その瞳はずっと地面へと向き続けていた。


「だって、もし何かあったら……」

「大丈夫よ。五人もいるんだし……」

「でも皆が死んじゃうような目にあったらどうするの!」


 マリーが荒げた声が地下道内に反響する。


「行きましょうマリー」

「イクト君ならわかるでしょ! このクエストはやっぱり止めようよ!」

「マリー、今は“あの時”とは違います。それにリュウ達も、“彼”とは違います」


 意味深長に告げたあと、イクトは再び先頭を歩き始めた。その時だった。


『ウオオォォォォォォ!』


 明らかに人間のものではないで咆哮。リュウ達の耳に届いたそれは、“目的地”が近いことを意味していた。不安と焦りの念が募る。


「ヤバイわね」

「早くいかないと」


 五人は暗い道を走り出した。


『ウオオォォォォォォ!』


 一本だった道の先。徐々に明るさは増していき出口とも入り口とも言える空間を抜けた。

 目に入ったのは文字通り悲惨な光景だった。反響する叫び声に充満する血の臭い。五感に強く働きかけてくるそれらの異常に、ティナとマリーは言葉も出ない。そして、全ての元凶も見えてくる。

 一面に取り付けられた雷の魔晶石に照らされ、はっきりとその姿をとらえることができる。深緑の体に、鋭い目と耳。何度も何度も教科書で見て、さらに一度戦った魔物グリーンゴブリン。

 半円状の、高さ四メートル程の地下空間ギリギリまである背丈から、まさしくそいつこそ親玉だと悟らせる。土でできた壁を抉り、手足を縛る太い鎖を振りほどかんと必死にもがいている。


「そこ、力を緩めるな!」

「早く魔法撃て!」

「うわああぁぁ!」


 地獄と化したその空間は、明光に満ちた空間だった。グリーンゴブリンの手足を縛る鎖も、それを壁に取り付ける固定装置も、現実を突きつけるものははっきり見える。

 鉄でできた鎖の固定装置は壁に二つ、地面に二つ取り付けられている。一方のグリーンゴブリンも、己の四肢に着いた固定装置から伸びた鎖を、引きちぎるために一心不乱に暴れている。


「なんだよこれ……」


 唖然とする五人。次々と薙ぎ倒され飛ばされていく村民の中で、それに気づいたのか近くにいた村長が近づいてくる。


「お、お前達、何をやっているのじゃ!」


 かなり焦っている様子のヴァナードがそこにいた。彼自身もこの場をどうにかしようとしたのか切り傷が目立っている。


「何してるじゃねーよ! なんだこれは!」


 ヴァナードは黙り込んでしまった。


「とにかく今はアレをなんとかしましょう」


 イクトが指差す先には暴れるグリーンゴブリン。どう見ても人為的に捕らえられ抵抗しているのだ。右に左にと暴れまわり、人が次々に飛ばされる。


「アレ、倒しても構わないですね?」

「……うむ」


 イクトの問いにヴァナードは暗い顔で頷いた。


「アルはここに残っている全員の誘導を、僕達で援護です。その後二手に別れて左右から攻めます!」

「皆、そいつから離れてこっちに来て! 私達が何とかしますから!」


 ティナが叫ぶとその声に反応した大人は、思わぬ増援の声に耳を傾ける。既に限界を迎えていた大人達には、たとえ子供でも頼らざるを得ない。すぐにこちらに向かって走ってきた。

 しかし、抑えられていた鎖が弱まったことで、簡単に鎖を固定装置から千切ったグリーンゴブリンは、大人達に気づき追いかける。


「“聖なる水よ、我が命に従い敵を討つ球となれ”」

魔水球(アクア・スフィア)


 ティナは水の球をグリーンゴブリン足下に放った。ダメージにはならなかったが勢いが足の動きを殺し、結果としてよろめいた。その隙に大人達はリュウ達の入ってきた、唯一の出入り口から避難していった。


『ウオオオォォォォォ!』


 しかし負傷した数人と老体を引きずるヴァナードは未だ避難できていない。体勢を崩しただけのグリーンゴブリンは立て直します、鋭い爪を彼らに向けた。


「アル!」

「“慈悲深き神の盾よ、我を守りたまえ”」

光玄の晰盾(ミラ・バリア)


 ティナの声に反応したアルは光属性の防御魔法を展開する。下級ではあるものの完全詠唱。爪程度ではびくともしなかった。


「負傷者を治療する。案内しろ。それと、いくつか質問がある」


 アルはヴァナードと共にこの場を去った。


「アルの防御はスゲーんだぜ!」

「何であんたが得意気なのよ」


 この場にいた全員が脱出できたことで少しの安心感が広がった。リュウとティナ、イクトとマリーは、遂にグリーンゴブリンと対峙する。

 

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