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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第三章【新入生クエスト】
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19 不思議な静寂と赤い石


 翌日早朝。それは、奇しくもリュウにとっての最悪な時間となってしまっている。


「リュウ、おい……」

「うああ……うっ!」


 リュウはうなされていた。お世辞にも質が良いとは言えないベッドだったがぐっすり眠っていたはずだ。


「起きろぉ……起きろぉ……起きろぉ」

「ううう……、うああ!」


 しかし、悪夢を見始めてしまった。天気が良いからと二度寝をしたことがいけなかったのかもしれない。


「アル、どうして君は朝からそんなに暗いんですか。リュウがうなされてます」

「あ、いや、そんなつもりは……」


 外は気持ちのいいほどの快晴。リュウにとっては睡眠日和。そんな寝坊助にかかる呪いの呪文。もっとまともに朝を迎えられないのかと、イクトは呆れ返っていた。

 朝から血圧の上がらないイクトは自分で淹れたモーニングコーヒーを片手に窓の外を眺めていた。新聞は一通り読み終えたが、決してこの村に隠された謎については近づけなかった。


「おっはよー!」


 一陣の風と共に、ティナが扉を開けた。ズカズカと男子部屋まで入ってくると、予想通りうなされているリュウを発見する。


「相変わらずリュウを呪うのは上手ね」

「だからそんなんじゃ……」

「わかるよアル君。私もイクト君が起きないっていう時は大変だもの」

「え、マリーとイクトってそんな関係なの? やだ~」

「違います」


 一気に騒がしくなったこの部屋の音でさえもリュウは起きない。アルの呪いの呪文が収まったことで再び安眠を手に入れていたのだ。


「いい加減に……」


 ティナが少し魔力を高める。本当にリュウを起こしたいときは手加減無用だ。


「起きなさいよ!」


 新入生クエスト二日目が始まった。


「ふぉうぃへは、ほおふぁほほふぃうんふぁ?」

「そういえば、今日はどこいくんだ?」


 アルはこの道のプロだ。リュウの考えなど手に取るようにわかる。


「今日は村周辺で魔物に襲われた場所の調査と、昨日の地鳴りの調査との二つです。二手に別れたいですが、すみません僕ちょっと休んでいいですか?」

「ふぁいへんふぁふぁ、いふほ」

「大変だな、イクト」


 イクトの低血圧を案じたリュウの意思をアルが伝える。肝心の突っ込み役が体調不良なのだから収集がつかなくなっていた。


「そうね、今回は私とマリーで魔物に襲われたっていう場所に行くわ。イクトはこの村にいた方がいいし、アルはその状態イクトに着いていてあげて。リュウはあの魚屋さんから魚をもらわなきゃいけないしね」

「ほうはっは!」

「そうだった」


 流し込むようにして朝食を済ませ、五人は二手に別れた。


 * * *


「にしても、すっげー静かな村だな」


 比較的小さな道を辿ってきた三人。リュウは中央付近を避けたとはいえこの静けさに驚いていた。


「確かに、民家の中にすら人がいませんね。まあこの時間は仕事に行っている可能性もありますが、にしても随分無用心です」

「さびしい」


 五大国として名高いイデア王国に存在する村だがそこは辺境。人口は二百人にも満たず、平均年齢もつり上がっている。

 およそ三十年もすればこの村は無くなってしまうかもしれない程に廃れてしまっている。そのような村に活気を求めても仕方ないかもしれないが、それを差し引いても静寂に包まれている。それは既に不自然と呼べる域だ。


「よっしゃ、そんな時は……っと!」


 リュウは自分の制服のポケットをまさぐり始めた。まるでいたずらっ子のように目を輝かせる。


「“ヒソヒ装置~”!」

「ぱふぱふ」

「バッカそこのBGMはもっと派手に飛び出すようなイメージだって言っただろアル! ぱらぱぱっぱぱ~んだよ!」

「ごめん」


 リュウが喉を潰す勢いで繰り出した声と、覇気のないアルの掛け声と、取り出される小さな魔晶石と、イクトにはもはや収拾がつかなくなっていた。


「おほんっ。これは、遠くにいるやつとヒソヒソ話が出来る秘密道具なんだよのぴ太君」

「僕のぴ太じゃないですけど」

「こまけーこたぁいいんだよ。ほれ、これでシエラに色々聞いてみよーぜ」


 新入生クエストでは一度だけ教師の助言を受けることが出来る。もしリタイアするならばその時に伝えてもいい。特別な魔法を込めた魔晶石なだけに、およそ目が飛び出るほどの高額品だというが、流石は王国一の魔法学園だった。


「……つっても使い方わかんねーんだけどな」


 イクトとアルが同時にため息をつく。リュウを相手にすることがどれだけ苦労するのか、二人の仲はそびえる障害を前に深まった。


『……お、お前達か。どうだ順調か?』


 ノイズの混じった特徴的な音声が流れた。イクトの魔力を電気変換することで、遠くのシエラに繋がったのだ。一応時間制限などは無いが、それは使用者の魔力が永久にもつ場合のみ。早めに話は切り上げたい。


『なるほど、昨日まではもう少し人がいたんだな?』

「はい。いかに辺境の村とはいえこの時間に人一人見かけないのは不自然です」

『確かにな。う~ん……』

「こ」

「くだらない」


 途中でリュウが入り込むも、アルがそれを押さえ込む。


『このクエストは中止した方がいいかもしれん。お前達では荷が重い。クエストランクを一つ上げて軍に戻そう』

「はあ? んじゃこれからどうなるんだよ!」

『これは受注前の学園側のミスだ。お前達の成績に影響が出ることはないから、普通に戻ってくれて構わないさ』

「そうじゃなくて! リーマスの父ちゃんと母ちゃんはどうなるんだ!」

『そいつを知らんが、軍へ依頼するのだから最悪の事態は避けられるはずだ』


 リュウは思い出していた。父と母が居なくなっても、必死に強がっているリーマスの姿を。父も母も覚えていないリュウにとってそれは放っておけるはずもないことだった。


「リーマスとの約束は必ず守る!」

『勝手な行動はよせ。すぐに学園に戻るんだ』

「うるせー!」


 リュウは怒りに任せて“ヒソヒ装置”を踏み潰した。


「やっちゃった」


 アルが呆れる素振りを見せるが、しかしそれはいつものこと。長くリュウの問題行動の被害に合っている者にとってはたいしたことはなかった。


「リュウ! リュウ~!」


 丁度その時だった。

 汚れを知らない茶色の髪を目一杯揺らし、汗にまみれた小さな背丈の少年が走ってきていた。


「どうしたリーマス。今は俺達お前に構ってる場合じゃねーんだけど」

「今日、僕あの魚屋さんに行ったんだ! そしたら、そしたらね! どこにもいないんだよ!」

「はあ? どういうことだよ」

「わかんないよ! 明日も来いって言われたから行ったのに。今日は誰にも会わないし、みんな約束破ってリュウ達も帰っちゃったのかと思った」

「ちょっと待てリーマス。お前どこ通ってきた?」

「どこって魚屋に寄ったから中央通りをぬけて、こう、こんな感じにスゥーって」

「んで、人は?」

「だから誰にも会わなかったの! びっくりしたんだよ、皆消えちゃったんだから」


 人がいないのはここだけではない。どうせなら調べてみようと思っていた中央通りは、イクトの想像通りだった。


「アル、君の見解を聞いても?」


 イクトはアルに質問をする。

 事の始まりはトルク村に来る途中に対したグリーンゴブリンだった。縄張りを荒らしたわけではないのに、不可解な襲撃を受けた。本来群れでの行動を本能的にしているはずなのに。

 続いて訪れたこの村には見張り台に人が居ないような村だった。廃れた村の村長は隠し事をしている。そして、この村で起こる大人の失踪。

 総じて考えればこれはすべて繋がっていると言える。


「……俺には魔力探知が出来ない」


 話を聞いていたリュウには訳の分からない答えだった。しかしイクトは、その答えを待っていたのだった。


「心配ご無用です。僕が今終わらせました」


 イクトは両手の人差し指を下に向けた。何故アルが魔力探知という結論に至ったのか、何故それをイクトが行ったのか、何故イクトは下を指差しているのか。


「なあ、どういうことだよ」

「お~い、みんなぁ~!」


 ティナとマリーが走ってきた。村の外にある魔物襲撃の痕跡を調べていた彼女達が戻ってくる。それは何らかの収穫があったからだった。


「お前らどうしたんだ?」

「村の周りを調べてたんだけどね、かなりまずいことになってるの」


 ティナが持っていた木の枝を皆に見せる。数枚の葉がついた何の変哲もない枝にも思えたが、そこには誰のものかは分からない血が付いていた。


「結構新しいの」

「これはどこに?」

「すぐ近くよ。もっと遠くの方には血溜まりもあったわ。でもこれ人間のじゃないみたい」

「考えられるとすれば昨日ですね」


 四人はいよいよ結論へと向かっていた。


「なあ、だから何がどうなってんだよ! なんもわかんね~」


 リュウだけが置き去りにされていることを除けば。


「それとこれ見て」


 ティナはポケットからさらに別のものを取り出した。

 それは手のひら大の赤い石だった。リュウが着けるネックレスの石にも似ていたが、それとはことなる部分がその色である。

 その石の赤は毒々しく、まるで怨念が籠っているかのようにくすんでいる。見るだけで不快な気分になるような石は、誰も見たことがないものだ。


「魔力が込められているようですね。一応証拠品として持ち帰りましょう。これはシエラ先生の言う通り僕達には荷が重すぎるかもしれません」

「なんだよお前まで帰るとか言うのかよイクト」

「いえ、ただ……」


 イクトが喋っている途中で、突如地面が揺れた。


「何っ!?」

「地震か?」

「これは……」


 視界が揺れ、地面が揺れ、建物が揺れる。

 木に止まっていた鳥達が一斉に飛び立ち、長閑だったこの場所には不気味な静寂が訪れた。

 そしてさらに、二度三度と地面が揺れていく。


「昨日の夜中に起きたものみたいだね」


 リーマスが言った。


「でしょうね。もはや一刻の猶予もありません。元々軍に通報する時間も無さそうでしたがいよいよ危険です」


 イクトは既にこの一連の事件の真相にいる。そしてティナ達もそこへと近づきつつある。リュウのみが置き去りにされ、不可解な事件に巻き込まれている。

 しかしそれもいよいよ終盤。イクトがうっすらと魔力を高めていた。


「新入生クエストを、クリアしましょう」

 

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