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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第十二章【英雄の再誕】
176/301

173 攻防


「さて、どうせ終わる世界だ。お前達の“質問”に何なりと答えてやるよ」


 男は玉座に肘を乗せて体勢を変えるシン。

 マリーとティナは驚愕していた。イクトにとっても予想外だったその姿、見知った顔ではないだけに固まる。リュウも一歩後ずさった。

 何度見ても信じられないほど若い、少年だった。


「【バッドエンド】はどうい……」

「それは確認だろ? 死の魔法だが、わかりきったことを聞いてんじゃねーよ。“質問”ってのはそういうことじゃねー」


 しかし唐突に、質問はないなと見限って。


「リュウ・ブライト。オレの目的はただ一つ、お前の“中身”を奪うこと。だからそれさえくれれば世界の終焉までの残り時間を幸福で満たしてやる」


 今度はシンからのコンタクト。欲するは英雄の『何か』。


「どうしてでしょうか。リュウを狙う理由がわかりませんね。【バッドエンド】を発動させたいなら、勝手にやって勝手に世界を滅ぼせばいい」

「おいイクト!」


 心無い発言をリュウが止めようとしたが、イクトの質問に対してシンは笑いで返した。


「そこの馬鹿とは違って、多少頭の使えるやつがいるようだな」


 シンは楽しそうにイクトを見る。


「【バッドエンド】は英雄が封印した。それを解くためにはそこの馬鹿の“中身”が必要なんでね。さあ、“質問”はこれだけか?」


 リュウはようやく気がついた。


「……やはりまだ【バッドエンド】を発動させることは出来ないんですね。他の【メガイラ】メンバーが全員リュウを生け捕りにすることを語る理由がわかりました」


 終焉までの準備が整っていない。僅かに延ばされた希望の時間を、リュウは安堵した。


「まあ、“オレ”なら殺した後でも取れるからいいんだけどな」


 シンの姿が消えたと思った。リュウはそれから、反応を遅らせてようやく横へ飛ぶ。

 リュウが元いた場所には巨大な魔法の塊が落ち衝撃波を弾ませたが、封魔石の床にダメージはない。だからこそその分の衝撃がリュウ達に届く。

 ただ横へ飛ぶことに意味はなく、封魔石の壁にリュウは打ち付けられる。気づき周りを見渡せば他三人も同様だった。


「余所見してんじゃねーよ」

黒塗りの圧力(ダークロンド)


 丁度、先の魔法が落ちた場所に立ったシンが、全方位に届く闇魔法を放つ。シンを中心に起こる闇の衝撃が、壁にもたれ掛かる四人に届く。

 リュウは必死に踏み込み耐えるが、他の三人は壁に亀裂が生じるほどに押し付けられていた。封魔石に当たる背中は強化が出来ない分、ダメージが大きい。


「くっ……」

炎撃(フレイム)


 闇に対抗しようと炎を放つが掻き消される。


「なんだなんだお前ら真面目に戦えよ。何しに来たんだよ」


 両手の空いているシンは、右に両刃の剣を、左に巨大な(つち)を喚び出した。


「刺されるか? 潰されるか?」


 剣はティナへ、鎚はマリーへ。

 うっすらと目を開けていたティナは恐怖から身を屈ませ、マリーは防御魔法を展開する。しかしそれらの何よりも早く、目の前には大きな背中が現れた。


「ほう」


 途端に闇は退く。

 ティナの前に立ったリュウは剣を猛炎によって芯から溶かしていた。イクトは鎚の芯を捉え真っ二つに断ち斬った。


「俺が狙いなんだろ? 変に小細工キメてんじゃねーぞコラ!」

「心外ですね。僕達を差し置いて……いや、狙いを誤ったのでしょうね。未熟者ゆえに」


 その大きな背中が、共に魔力に包まれる。

 ティナは、リュウの荒々しくも清々しいまでの直線の炎に当てられる。暖かさはティナの冷たい水でも湯だってしまう。

 マリーは、イクトの暴風のような魔力に髪の毛を乱される。台風の目のような中心にいてもなお、怒気に満ちた風も全ては前を向いていた。

 リュウとイクトは、既にギアを全開にしていた。


「はっ、笑えねー。虫けらみてーなお前らがこのオレに楯突くのか……」


 シンは浮かべていた笑顔を消した。


「死んでから泣きわめいても知らねーぞ、虫けら!」

「考えはわかってる。イクトのやりてーようにやってくれて構わねーよ」

「そうですか。それはどうも」


【次元転送・銀龍】

風纏い(ウィンドフォース)



 イクト自身が風となる魔法を携え、最速となる。それに続く形でリュウは走り出した。


「第二解放追式【紫鳳蒼天加我国】」


 シンの後ろを取ったイクト。鋭く横に凪ぎ払う刀に風の刃を上乗せし、真一文字に斬りつける。反応の遅れたシンにそれが届くことは、しかし無い。斬りつけたシンは、闇魔法によって作られた分身体だった。


【魔力探知】


 イクトは瞬間シンを探した。しかし、この空間にいる筈のシンを探知することが出来なかった。


「何で……」

「いたぜ!」


 野生の勘でリュウの鉄拳は本物を捉える。炎をこれでもかと言うほどに纏わせた銀龍が、シンの体を打ち抜いた。


「僕の魔力探知に引っ掛からない人間がいるとは……」


 さらに強くなる風を続けざまに飛ばしていく。纏っていた風はそしてシンを傷つけ、再びイクトのもとへと戻る。


「ちっ」

練・魔影球(シャドウ・スフィア)


 体勢を崩し地面に手をつきながら、リュウにめがけて闇魔法を放つ。闇属性を含ませた上級魔法球だった。


練・魔水球(アクア・スフィア)


 それを相殺したのはティナの水だ。それは広がり闇は広がり。再びシンが最初に見たのはリュウの姿だった。


「ぶっ飛べ!」


 渾身の一撃を銀の龍と共にお見舞いする。炎と爆風と爆煙がその場を制した。


「さっきはありがと」

「おう、どういたしまして」

「ていうかリュウさあ、今ちょっと調子に乗ってない? それむかつく」

「なっ、今言うことかよ」

「だって今むかついてるんだもん」


 それが照れ隠しだと言うことに、ティナは気づくもリュウは気づかない。心のなかで二人に爆発しろと唱え終えたマリーが、銃を構える。


「今はアル君いないけど、私達なら出来るよ」


 決意の一発、シンは素手で弾いた。

 そして狙いをマリーへと移す。マリーの眼前に転移し、確実に顔を狙う。イクトも反応できずに、ただ右拳がマリーの顔を打つ。

 しかし、レイジー家の一人娘として育てられてきたマリーは、云わばレイジー家そのもの。蹴り飛ばされたのはシンだった。それも、マリーの顔面を狙った罰かのように、顔をぶち抜かれていた。


「触らないで」


 膝で蹴りあげ、逆の足で思い切り蹴り飛ばした。


「え……マリー、え……」


 レイジー家に受け継がれる銃闘術は、その間合いの多様さに分がある。中、遠距離に敵がいる場合、銃で蜂の巣にする。近距離の場合、相手の顔を判別できない程度にする。

 それが、マリー・レイジーだ。

 手本となるような膝蹴りで、シンは上に上げられる。空中で顎をそのまま上に向かせた状態で制止するなど、さらに蹴ってくださいと言っているようなものだった。

 だから、マリーは攻撃の手を緩めない。


「装填“thunder”」


 三発の魔法弾を狙い一つ外さず、さらに雷の魔力も徹底的に込めて撃ち出し、当てた。雷の属性によって痺れたであろう体に、強化魔法で彩った黄色いヒールを当てる。

 しかし、シンも強者の魔導師だった。マリーのヒールが当たる瞬間に飛び上がり、威力を殺す。


脱力(ダウン)


 体の力を一瞬だけ抜かせる感覚系魔法。シンのその魔法によってマリーは膝を地面につく。

 強化最大のマリーは、本来かかる筈のないその魔法に驚いていた。

 感覚系や催眠系の魔法は、体に魔力を纏って強化する【集中魔力纏】が対象になされている場合、ほぼその対象には効果がない。

 纏う魔力によって他者の魔力は掻き消されるからだ。

 マリーは全身に強化の魔力を纏っていたというのに、簡単に体の力を抜かされてしまった。それは、リュウ達にとっても同様だった。


脱力(ダウン)


 さらにマリーと、マリーのもとへ駆けつけたリュウにかけられる。


「そろそろ泣くか~?」


 リュウが一瞬膝をついたところを、シンは狙い済まして蹴りあげた。口を切り出た血が、空を舞う。リュウは痛みをこらえて、そして笑った。


時計仕掛けの炎カウントダウン・フレア


 総計七十。発射間隔コンマ二秒。狙いは勿論。


「ざまあみろ、シン!」


 飛ばされ際にリュウの炎がシンに放たれた。炎の雨あられは、シンに全て直撃した。


「神風流一刀術壱ノ型【神速】」


 倒せたとは思っていなかったイクト。追撃の手は決して緩めない。目視すら困難なほどの直線的な太刀が、風の魔力を纏ったままシンを斬り裂いた。

 筈であった。


「クク……」


 小さくこぼれ始める笑い。


「アーハッハッハッハ!」


 リュウの炎の煙も晴れ浮き彫りとなったシンの姿。服に小さな焦げはあるものの、ただの一つも傷がない。イクトの刀傷さえ無かった。


「なんで無傷なんだよ」


 口元の血を拭いながらリュウが言う。その瞬間、イクトの【紫鳳蒼天加我国】も解けてしまった。


「水、雷、風、炎か、悪くねー。だが、オレには効かない」


 シンは右手の手のひらを出した。指を四本立て、四を強調する。一番に灯った炎、水、風、雷。四本の指先に現れたのはリュウ達四人の属性を合わせたそれだった。

 込められた魔力も申し分ない、完成度も四人より上。四人が何より驚いたのはその数だった。


「他に土、光、闇。まあお前らには無理だけどな」


 シンの左手が石になり、光と闇が背中で蠢く。シンは一度に七つの属性の魔法を出していた。


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