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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第十二章【英雄の再誕】
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158 いざ、その一歩


 その日、朝日はただ一つ世界を照らすということだけに集中した。

 澄みきった冬の寂しい空気を切り裂くように、光を伸ばしていく。それを背に、リュウ・ブライトは遥か西へと青き瞳を向けていた。

 イデア王国首都アルティス。

 三つの山に囲まれ、それと街とを分けるための壁がそこには存在する。そこに取り付けられた二つの門は、イデアの王門と呼ばれる巨大なもの。

 城そのものを出し入れできてしまうほどの両扉の前に、リュウ達は立った。門を背に見ていた西の彼方から視線を戻す。

 見送りにやって来たのは、《人間国崩》として世界最強の称号を持つジオフェルだった。後ろに控えるのは、イデアの矛《元帥》の称号を持つ者、ミルナとクロツグだ。


「ティナ、帰ったらイイことシましょうね」

「はいミルナさん。行ってきます」

「そこはほら、突っ込むべきところだよ」


 ミルナは、大きすぎる胸の中へティナを抱き抱えた。長い時間抱擁をして、ただその身の安全だけを願う。緊張はようやく解れた。


「ふむ、筋肉は世界を救う。頑張りたまえよ。筋トレあるのみだ」

「私、絶対それを言われる役じゃないんですけど。私のどこをどう見ればそうなるんですか」


 クロツグはマリーと固い握手をしながら言った。体をのけ反るようにしてドン引きしていたマリーを、イクトとアルが笑う。


「リュウ、気を付けてね」

「おう、俺がいない間は部屋守っといてくれよ」


 朝早くに寝ぼけ眼を擦りながら、アッシュはリュウに頭を撫でられる。完全に寝ているタヌキのダイちゃんのいびきが、徐々に緊張を解いていく。


「リュウ、お主の運命はお主が決めるものじゃ。決して儂らや奴らが決めるものではない」

「おう、ジオフェルのじっちゃんには色々世話になってるから、堂々と言ってやる」


 リュウの燃えるような赤髪が風で揺れる。己が決めた意思を、叩きつけるがために。


「俺はあんたを超えて世界一の魔導師になる。『本当の強さ』ってのを見つけてだ。だから、待ってろよ。俺達なら、この仲間達とならやれる」


 朝日がしっかり昇った。


「良いか皆の者、今からお主らはこの世界に戦を仕掛けようとしておる。この戦に負ければ、お主らは世界最悪のテロリストにだってなりかねん。無事を、ただただ祈っておるよ」

「勝てば英雄、負ければ大悪党。燃えてくるぜ!」


 リュウの言葉で発破がかかる。その拳は太陽を射抜くが如く、高らかに突き上げられた。


「行け、次代の英雄達よ!」


 ジオフェルの鼓舞で、一歩を踏み出した。


「うん、俺は今すこぶる好調だ」

「ロイさん浮かれるのはいいッスけど、足手まといは勘弁ッスよ」

「まったく、誰に言ってるんだよ」


 その余裕は驕りではなく。


「マリー、ぬかるみには気を付けてください」

「もう私だって子供じゃないよ! そのぐらいわかって……きゃっ」

「私が水魔法で綺麗にしてあげるねマリー」

「ありがとうティナさん、ぐす……」


 時には気も引き締まらず。


「リュウ、そのリュックはなんだ」


 アルが目を丸くしながらリュウに聞いていた。


「ん? レジャーシートが人数分無かったから、デッケーの入れてんの。それに弁当をさ、アッシュと一緒に作ってたんだけど作りすぎちゃってよ。もう重箱並みだぜ!」

「遠足じゃないんだぞ」

「おっと、おやつは三時過ぎねーと分けないからな。皆で交換しようぜ!」

「ははは、今日は喧嘩にもなりませんね」


 イクトは二人のやり取りに呆れていた。


「あ、私部屋の電気消したのかな……」

「僕も部屋の鍵掛け忘れたかもしれません」

「皆してそういうこと言うと私も忘れた気がしてくるじゃないの」

「ティナは馬鹿だからな!」

「ア"ア"?」

「ははは、こんなんで大丈夫かな~」


 ロイの苦笑いを受け、たった七人の戦いは幕を開けた。


「さて、今から転移するよ」

「え、歩きじゃねーの? そのために色々準備してきたんだけど」

「ごめんねリュウ。十五分後には作戦開始の予定だ」

「マジかよ……。俺の力作の弁当は? レジャーシートでのうふふなお菓子パーティーは?」


 リュウの重たいだけのリュックが、力無く地面に落ちた。


「ウフフなお菓子パーティーは帰ってきてからにしようか。……じゃあゾット君よろしく」

「やっぱり俺ッスか」


 ゾットがやれやれと言いながら一歩前に出る。

 転移魔法はA空間とB空間を互換することによって移動する、取り替えの魔法だ。転移の先に大きな質量物があっても、取り替えのためその影響を受けない。

 しかし、二ヶ所を同時に動かすという魔法には変わりなく、移動のための魔力消費は常に二倍。故に、魔力を全員で出し合うようにして転移をする。


「転移魔法陣は展開したッスけど、国際条約は大丈夫ッスか? 転移した瞬間あちらさんが攻撃してくるとか無いッスか?」

「まあ書状はあるし大丈夫でしょ。なんかあったら皆頑張ってね」


 光り輝く魔法陣の上に立ち、出発から五分で国を跨いだ。本格的に作戦が始まるが、実感は沸かなかった。


 * * *


「それじゃ、俺達の目的をもう一度確認するよ」


 ゼロス帝国の片隅にある小屋で、ロイの一言。

 転移で国を越えることは本来禁忌であるが、ゼロス帝国からの許可が正式に下りたため、たったの数分でリュウ達はゼロス帝国領内へと侵入できた。

 場所は首都ノームの入り口付近の森。

 ここは数年前まで木こりが仕事で使っていた場所だったが、今では廃墟になっているために転移場所になったのだと、ロイは語った。


「リュウを狙う組織【メガイラ】は、何らかの計画を実行しようとしていた。それは【バッドエンド】という魔法の発動だ。命というものを奪う魔法ということがわかり、その発動を阻止すべく俺たちはゼロス帝国へ来た」


 リュウを狙う理由、そして、【バッドエンド】で世界を終焉へと誘う理由がわからない。幾度となく考えたがわからない。それはロイでさえも当てはまっていた。


「【メガイラ】のリーダーを仮に《ジョーカー》と呼ぼう。《ジョーカー》が全ての元凶であるため、そいつから何もかもを聞き出さなきゃいけない。そこでこの作戦は戦闘を最低限に抑え《ジョーカー》の捕獲を第一目標とする。ここまではいいね?」


 ロイ以外の全員が頷いた。


「無駄な戦闘はせず、《ジョーカー》のいる場所を目指す。シンプルな円筒状のメルフォイロス城では、皇帝が最上階に鎮座している。恐らく既に《ジョーカー》はゼロス帝国そのものを乗っ取っている筈だ。となれば最上階に《ジョーカー》がいる可能性が高い」

「それを外しても、全ての部屋を通らなければ最上階までは行けない仕組みッス。関係ない」

「そういうこと」


 ロイの話をそれぞれが頭に入れ、頷く。


「この作戦で不明瞭なことは三つ。一つは“リュウを狙う理由”、二つ目は“拠点がゼロス帝国の理由”、最後に“何故【バッドエンド】という魔法を使うのか”。それらがわからない以上、出来ないことは多くなる。各自の判断の正確さも求められるから覚悟しておいてくれ」


 今一度の確認が、緊張感を高めていく。


「これは、俺個人の願いだ。この任務の成功よりも、全員生きて帰るということだけを頭に置いてほしい。変な重荷を背負わないでほしい」

「勝てば英雄、負ければ大悪党。そういうの燃えるぜ」


 リュウの、やはり今一度の楽天的な言葉が、良い意味で全員に発破をかける。


「そういうところが馬鹿なのよ」

「呆れた」

「まあまあティナさんもアル君も、馬鹿だなんて今更なんだからやめてあげようよ」

「マリーのはクリティカルヒットですね、リュウに」

「大丈夫ッスよリュウ! 馬鹿は風邪を引かないっていう取り柄があるッスから!」

「今風邪の話をしてもねえ?」


 元からこの面々に緊張感など似合わなかった。少しの笑いに包まれながら外に出て、ゼロス帝国首都ノームの巨大な正門を見つめる。目指すは巨大な都市の中央、帝国城。


「いざ、メルフォイロス城へ!」

 

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