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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第三章【新入生クエスト】
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14 新入生クエスト


 一通りの記録を終えたシエラは、続いて近くにいたアルに視線を移した。常に周りを把握し、“見つかりにくい”位置に完璧に移動していたアルだけに、すんなり目が合うとは思っていなかった。


「次はお前だ。武器を出してくれ」

「持ってません」


 だから、そうしていたのだ。アルは端然と立ち尽くしたまま静かに返した。ただでさえ目立つことが嫌いだというのに、いつも数人で固まっている中で自分だけが持っていないとなると、それは目立ってしまう。


「そうか。強制適合という形であれば学園の低ランク品があるが、まああまりオススメはしないな」

「いらないです」

「わかった。ではその通りに記録しておく。では次は魔法武器を使って……ん?」


 シエラは途中で言葉を切った。頭に片手を当てるようにして数十秒動きが止まり、何事かと周りは驚く。


「……なるほど時間も時間だ」


 再び動き始めたシエラは紙をしまった。


「今日の授業はこれにて終了とする。余った時間は学年集会とし、全員すぐに講堂に集まれ」

「え、何があったんだよ」

「ああ『念話』が急にな。本来はプリントを配るだけの予定だったがやはり全体に説明をという方針に変わった」

「はあ? 何の説明?」

「まあ行けばわかる。遅れるなよ、リュウ」


 そう言い残すとシエラは修練場から出ていってしまった。残されたAクラスの面々は状況が理解できぬまま仕方なく講堂へと足を運んでいく。


 辿り着いたそこは学年の集まりや大規模な座学などに使われる場所。大きなステージに向かうように机と椅子が配置され、丸々一学年の生徒が収まるように設計されている。

 リュウ達が着いた頃には他のクラスは皆揃っており、それぞれの担任の教師も一同に会していた。


「そろそろですかねえ」


 そう言葉を発する一人の教師。毛髪が少なく、丸い顔に丸いお腹のその教師は汗をかきやすいのか首にタオルをかけている。シエラは頷き、ステージに上がった。


「これより新入生クエストのオリエンテーションを始める!」


 シエラの言葉に一学年の生徒のほとんどがざわついた。その誰もが不思議そうな表情を見せている。入学前にも後にも聞かされなかったその言葉は、余計に理解できない。


「まずは概要の説明だ。新入生クエストとは文字通り、学園が課す新入生を対象にしたクエストだ。数人でチームを作り、期間内にクエストをクリアするというものである。臨機応変の対応が出来るよう事前連絡は無し、またクリアまでの期間についても一週間となる」


 シエラの説明に講堂内がざわついた。しかしそんなものに構うことなくシエラは話を続ける。


「クエストとは、依頼主からの救援要請でありその内容は多岐にわたる。例えば魔物退治、犯罪者の捕縛など。今回はこちらで全て仲介しお前達に合ったレベルのものを見繕う。これはお前達の経験値を貯める意味合いが強いが、少なからず成績に反映される。不慣れだからと言って腑抜けた対応は取らないように!」


 その直後、一人につき一枚ずつ紙が飛んできた。魔法によって手元に届いたそれには氏名を書く欄が五つあった。


「今年は一チーム五人編成とし、出発は一週間後。クエスト内容については学内掲示板および寮に届く学園新聞にも掲載する。六日後までに受注クエストを決め担任にその紙を提出しろ!」


 シエラはマイクなど必要ないのではと錯覚させるほどの声量で情報を叩きつけた後、ステージを下りていった。途端に出入り口の扉が魔法で開かれ、終了の合図を出した。


「言い忘れたが、今日はこの後全授業を休講とする」


 そう言い残し教師達は一番に講堂を後にした。シエラの説明が完全に終わり、各クラスの生徒達は一斉に動き始めた。

 仲の良い友達同士で組む姿や、仲間外れになってしまった生徒達の姿が見えてくる中で、リュウはまるで獲物を狙う虎のように狙いを定めていた。


「皆急にどうしたんだよ」

「馬鹿ね早くメンバーを揃えて提出しろってことよ。恐らく人気のクエストは競争も激しくなるわ。そういうのもこの課題の内の一つなのよ」

「へえ、じゃ組もうぜティナ」


 既にその数分で何グループかは出来上がっていた。簡単なクエストや報酬が貰えるようなものについては既に競争率も上がっている。


「アルも組もうぜ!」

「痛い」


 すっといなくなりかけたアルを、無理やり捕まえる。肩を組み完全に逃げられなくなったところで、アルは渋々頷いた。


「確か一チーム五人だったよな」

「あと二人ね」

「痛い」

「あ、わりぃ」

「ねえねえ、マリーは? マリー誘おうよ」


 ティナがリュウ達の返事も聞かぬうちにマリーの元へと駆けていた。ようやくリュウから解放されたアルが首をぽきぽきと動かしていたところで、二人はやって来た。


「あ、あの私で良かったの……?」

「モチのロン。んで、最後の一人どうするよ。俺の知り合いはもういねーし」

「俺も」

「私もかな~」


 四人までは揃ったがそこから先は進まない。他の生徒達は既にクエスト選びに移っているというのに、リュウ達はそこにすら行けないのだ。


「あの……」


 しかし意外にも、そこで手を挙げたのはマリーだった。


「えっと、いいかな?」

「おう」

「気にしなくていいよ。私達はチームなんだから」


 ティナの優しい言葉に後押しされる。少しの自信と勇気が湧いてきた。


「えっとね、一人誘いたい人がいるの。私のとも……友達っていうか知り合いっていうか……」

「ナイスだぜマリー! 呼んできてくれよ」

「う、うん!」


 思いの外軽い反応。悩んではいたがそんな自分がバカらしく、すぐにマリーは呼びにいった。

それから一分と経たぬうちに、マリーは一人の男子生徒を連れてきた。


「お待たせ。ええっと、彼はイクト君です。で、この三人がリュウ君にティナさんにアル君」

「よろしくお願いしま──「あー、お前!」


 現れたのは、艶のある黒髪に色素の薄い白い肌の、この場の四人とはどこか違う雰囲気を醸し出している、少し不思議な青年だった。

 他の三人よりも高い位置にある顔には、茶色い瞳が輝いている。艶のある黒髪、綺麗な白い肌、さらには鋭い切れ目と、彼を美青年と呼ぶには相応しい材料が揃っていた。


「何よ人の自己紹介邪魔しておいて」

「ああ、お前あれだろ。武器解放出来るやつ」


 シエラが魔法武器の説明中に『解放が出来るか』という質問をした。そこで手をあげた内の一人だと、リュウが気づいた。もう一人であるティナも言われてようやく気づいた。


「初めまして。ソ……イクト・ソーマです。宜しくお願いします」


 一瞬言葉に詰まったイクトだが、その言葉はとても流暢だった。


「イクト君ね東洋出身でね、すっごく頭がいいの!」

「やめてくださいマリー。それより、五人揃ったので紙に名前書いて提出してきますね。ついでにクエストリストも貰ってきます」

「ありがとう。でもクエストリストは掲示板と新聞でしかわからないんじゃ……」

「それら“にも”と言っていたので恐らく直接貰えます。見に行くよりも早く選べるので、すぐに取ってきますね」


 イクトは手際よくプリントを取ってきた。リュウとは対称的な実力に、ティナもアルも目を輝かせていた。


「──で、どうする?」


 プリントの束を持って来てから最初に口を開いたのはティナだった。何枚にも渡るプリントには書かれたおよそ数十個のクエストが記載されていた。


「俺ドラゴンの退治とかがいい!」

「はあ? そんなの出来るわけないじゃない!」

「うわ、ドブ掃除とかもある」

「アルは? 何かいいのある?」


 ティナに訊かれたアルは少し迷った後に一つ選んだ。書いてある内容は「夢見る老婆の無駄毛処理」。


「……うん、ソーマ君何かある?」


 ティナは華麗にスルーし、イクトに救いを求めた。


「僕達の実力も特にわからないので、これは如何でしょうか」


━━━━━━━━━━━━━━


ナンバー6 「トルク村の魔物退治」

ランク   ★☆☆☆☆

報酬    一人、一万二千(ゴールド)

詳細

 イデア北西に位置するトルク村。最近その周りに、魔物が群れを作り住み着いているらしい。畑や、民家が荒らされることもあり被害届が出された。ぜひ学園の生徒に解決してもらいたい。


━━━━━━━━━━━━━━


「トルク村ってどの辺?」

「確か【アルテミス】六番隊管轄の小さな村ですね。馬車で半日とかからない近くの村だったかと」

「へえそんな村があったんだ。ならここでいっか」

「そうね近いし」


 同じくリュウも賛成した。


「報酬が高い」

「な! これならかなり食材買い溜めできるぜ」

「ランク1にしては報酬が高すぎる」


 アルは真剣な表情で紙を見ていた。よく考えてみれば他のクエストのランク1のクエストの報酬は、ざっと見ただけでも二千~四千G程度。このクエスト一つだけが突出して報酬が高かった。


「そんだけ困ってるってことだろ」


 リュウが手を頭の後ろに組みながら言う。


「だといいがな」


 五人はそのまま「トルク村魔物退治」のクエストを受けることにした。

 

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