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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第十一章【友として仲間として】
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146 導き出された答え


 王政イデア誕生からおよそ八百年。

 首都アルティスの街を初めとする多数の地域を守護しその治安と保安を務める軍組織、王国魔導軍隊【アルテミス】。魔力を持つ者のみが入隊し、王国の礎をも築いてきた。

 その軍を束ね、さらに世界最強の称号を獲得した魔導師ジオフェル・グラントハイツが、ゆっくりと思い腰をあげた。


「よくぞ来てくれた」


 ここは、窓や扉など何もなく、ただひたすら黒が続く巨大なのかもわからない空間。人工的に作り出された照明のみが灯りとなっている。

 ここが『賢者の間』だ。

 その空間の中央にある円卓にはリュウ達の姿があった。その他に隊長格とされる魔導師達に、仮面姿の元帥達。ここに、【アルテミス】の全てが集まっているといっても過言ではない。


「王族特務隊、空間機動隊、《天使と悪魔》様は欠席となります。それでは、始めさせていただきます」


 一人の女性がそう言った。胸に付いた「Ⅵ」の紋章が、六番隊隊長であると示している。


「てか私も~?」


 テオレルが、トレードマークである髪型をくりくりといじりながら呟いた。しかし、完全にこの場に呑まれ萎縮してしまっているリュウ達五人に、答える力はない。


「皆も知っておる通り、この少年リュウ・ブライトは【メガイラ】という組織に英雄として追われておる。じゃが、当の本人はその理由を知らない。やはり話さねばならないと思ってのう」


 ジオフェルの言葉だった。


「リュウよ、これからお主の全てを話そう。お主という人間が今の今までどうして生きているかを話すのじゃよ」


 より濃密に空気が重くなる。普段明るさだけが取り柄のリュウも、生唾を飲み込む。


「おいおい! もう言っちゃうのか! はー、ウケる!」


 笑ったのは、「Ⅰ」の紋章のつく女性。リュウと同じ真っ赤な髪の毛を短く切り揃えた、顔からして暑苦しい女性にリュウは笑われた。


「お、俺……」


 場に呑まれたリュウはやっと口を開いた。


「は、腹減ってんだけど……」


 時刻は午後一時。学校を抜け出してきた上に、急な呼び出し。リュウの無言は空腹と戦っていたがゆえだった。


 * * *


「何から話せば良いかのう……」


 ジオフェルはゆっくり歩き回る。一通りの食事を済ませ、場も落ち着いた頃の第一声だった。


「……ねえ」


 ティナがひそかに耳打ちする。リュウはそれに対し目線のみで返した。


「私達何されたの? さっきまで【アルテミス】に行こうってなってて、病室を出たら……」

「……俺が知るかよ。飯なら食ったじゃんか」

「あんたと一緒にしないでよ。そうじゃなくて、私達何で急にこんな所に来てるのかってことよ! だいたい何でこんな変な人たちに囲まれなきゃならないの!」

「【アルテミス】の隊長達じゃねーか。そのくらい知ってるだろ?」

「そうじゃなくて、……ねえなんでそんな順応してんの? おかしいの私だけ?」

「あっはっは、ティナが頭おかしくないわけ──「なんですって?」


 リュウは小さくなった。しかし、イクトもマリーもティナと同じように口をぽかんと開けていた。

 【アルテミス】への出頭命令が出たことにより、全員は本部へと向かった。鉄門を潜った瞬間場所は一変し、何故か円卓に座らされていた。


「ここって、禁煙っすか?」


 同じく呼び出されたフェルマも、動揺からここへ来た直後は煙草に手を付けなかったが、ヤニ切れの限界はすぐだった。


「構いません。そして、君の質問にも少しだけ答えるね」


 ロイがそう言うが、その正体は仮面に隠されている。その不気味さからティナは、名前を言うことは出来なかった。


「ここは『賢者の間』。【アルテミス】の隊長格以上が入れる会議室だよ。場所も出入り口も全部非公開。だから、君達もオフレコで頼むね」


 優しくそう言ったが、仮面越しの威圧感までは消せていなかった。


「さてリュウよ。お主は英雄と呼ばれておるのう。何故そう呼ばれるかわかるかの?」

「知るかよ、んなもん」


 ジオフェルの言葉にリュウが不機嫌そうに返したが、ジオフェルは笑って聞き入れた。


「お主も事が事なだけに混乱しておるのう。アルのことはいずれ彼から聞きなさい。あやつはお主らの友なのじゃろう?」


 その言葉で、リュウは冷静になった。アルの容態が気にかかっていたが、やはりジオフェルが言うと安心感が生まれるのだ。不思議な人だと、フェルマでさえも思ってしまった。

 そして、ジオフェルの口から語られる。

 八百年間語られる英雄物語、それに続く一人の少年の物語を。


「世界がまだ四つに別たれておった時じゃ。人々は魔の力を操り、何年も何十年も争っておった。そしてとうとう、始まった戦が百年の時を経ていたことに気づいた」

「百年戦争ですね」


 イクトの言葉に頷きで返すジオフェル。隊長格も、元帥も、周知の事だ。


「誰が起こしたのか、何を願ってなのかはわからぬ。ただ誰しもが己の正しさだけを信じ、人を、家族を、街を、国を、そして世界を、壊し続けていた」


 ジオフェルの言葉は当時を重苦しく知らしめる。


「そのことにひどく傷ついたアルティスは、仲間を集めた。たった四人の仲間しか集まらない。それもそうじゃ。五人だけで世界を救うなど夢にも思えまい。アルティスを慕う馴染みの者がなんとか仲間になってくれた。

 そしてリュウ、お主の使い魔カルデアを含めた五人と一匹となり、世界に語りかけた。しかし、世界は残酷じゃった。

 一度始まればやめることのできない麻薬のようなものだったのじゃ。戦争を止めるにはもはや、言葉だけでは足りんかった」


 時に立ち上がり徘徊しながら、時に座って両肘を円卓に置きながら、ジオフェルは語る。


「それから、アルティスは魔法を使った。ある時は太陽を操り大地を枯らせ、またあるときは国と国の間に海を作った。山を削り土地を増やし、戦のための鉄をすべて地に還すこともいとわない」


 その魔法がいかなるものかは、リュウにもわかった。それは、隊長や元帥とも圧倒的に違う。国を崩すことの出来る人間国崩とも違う、絶大なる魔法。

 天地を操り万物を静める魔導師なのだと理解できた。

 それはその時代にとってどれ程の驚異だったのか、リュウにはわからなかった。鈍色が世から無くなるということの虚脱感は、リュウには想像できない。


「そしていつしか、彼は全世界にその名を轟かせた。世界平和のみを謳い、たったの一人も殺すことなくやり遂げた世界への魔法を、人々は称賛した。……それでも、一歩遅かったのじゃ」


 アルティスの並外れた人外の力。魔法というものが、まだ広く知られていない時代の、云わば神の力の時代。

 アルティスは神にはなりきれなかったその瞳を、どこに向けたのかもわからない。ただ、その瞳がどれ程の悲哀に染まり、どれ程の涙で濡れたのかは予想できる。


「百年間にも及んだ戦争は人々を内から苦しめ、蝕んでいった。闇に毒された人々は、一つの魔法を生み出してしまった。それこそが【バッドエンド】じゃよ」


 ウェルダーは既にそれへと向かっていると言っていた。それが、人々が人々であるからこそ生み出した魔法だった。


「それを形容する言葉も足らぬ。天災、憎悪の固まり、災厄。世界を滅ぼす魔法など、“神”の怒りと言う他無かった。それもまた、言い表すには足りておらぬ。

 アルティスはひどく悲しみ、一度は諦めた。人々に何をしても自分達には何もできない、ただ滅びを待つ他ない、と。しかし、彼には仲間がおった。絶望に堕ちそうになる時に支えてくれる希望じゃ。

 アルティスはその時に決心する。そして、仲間の力を、自らの力を信じ、立ち向かった。その姿に人々が協力しないわけがなかろう? 全世界の想いがそうして、【バッドエンド】の封印を成功させた」


 アルティスはひどく喜んだ。偉業と讃えられ、四大国は一度一つになった。


「世界を救った彼は、最期にやり残したことに気づく」

「イデア王国」


 かろうじて着いてきているイクトが悟ったように口を開いた。ジオフェルは首を縦に振って肯定する。


「四大国から五大国とすることで、自身亡き後も世界を救おうと目論んだ。結果は言わずとも理解できよう。人々は理解し得るのじゃ」


 アルティスが如何にして国を造ったか。世界に語りかけ、ついに成し遂げた偉業は全てアルティスに救われた者達の恩返しだ。偉業は、その感謝の想いによって起こった。


「しかし、彼は語った。“それでも人々は必ず闇を生み出す。必ず無へと歩を進めることだろう”と。そうして、『予言の書』が書かれることとなった。闇はいつのまにか人々の心を支配し、侵食していく。必ず争いは起こり、再び人が死んでいくと。だからこそ、再び平和への戦いは起こるのだと」


 これから起こることを予言し、その解決法までを記したとされる『予言の書』。それによって、八百年のうちの巨大災害等にも何とか対応できている。


「そのことを記した予言の書には、さらに続きが書かれておった。それが、『英雄の遺産』じゃ」

「『英雄の遺産』?」


 聞き慣れない単語にティナは聞き返した。連れられてきた五人とは違い、元からここにいた全員には周知の事実。ジオフェルは一つ一つを丁寧に語る。


「訪れる闇を打ち払うべく後世に遺すとした『英雄の遺産』。彼は三つのそれを、時が来るまで隠すとした」

「もしかして、リュウに何か関係が?」

「近からずとも遠からずじゃ。言ったじゃろ? 時が来るまでは、と。ならば時が来たとき、どうする?」


 その問いには誰も答えられなかった。『英雄の遺産』というものの正体を知らないからだ。


「遺された『英雄の遺産』を正しく使える何者かがいなければならぬ。【バッドエンド】に立ち向かう為の先導者が必要じゃ。はて、適任者がおるとしたら、何者じゃろうのう」


 何故、リュウは英雄と呼ばれたのか。【メガイラ】が発動させたい魔法に立ち向かう『英雄の遺産』。【バッドエンド】を止める、次代の英雄。導き出された答えが、そこにはある。


「そうじゃ、英雄の子孫ならば適任。そしておるのじゃ、国王ではない本物の英雄。アルティスの血を受け継ぎ、その使い魔と共に世界を変えることのできる者がのう」

「国王は云わば仮初めで、王族として存在するがそれは英雄の血族ではないんだ。本物は隠されている。不可能であるはずの学園入学も、君が奴等から英雄と呼ばれたのも、全てはそこから始まった。奴等にとって、君は英雄に一番近い存在だからね」


 仮面をつけたロイの言葉が熱く胸に響いた。リュウの頭は混乱していたが、一言一句聞き取っていた。意味も理解し、そして真実を受け入れた。


「リュウ・ブライトよ。お主こそ、真の王族にして、世界を希望に導く英雄アルティスの子孫なのじゃよ」

 

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