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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第十一章【友として仲間として】
136/301

133 五大国「ゼロス帝国」


 * * *


「これ終わったら、すぐに期末考査だな。中学と違って留年もあるぞ、うちの学園」


 衝撃的な開幕だった。

 見渡す限りの大きな鉄塀を見上げながら、今から始まる超重大任務に向けて気合いを入れようとしていたときのフェルマの一言。これにはあのティナでさえ衝撃を受けていた。


「ハイ、と言うことで助っ人こと、フェルマ・クオルトで~す。二回目で~す」

「いらない紹介ね」

「ヌルッと入るんですね」

「特にリュウ・ブライト君よぉ。めんどくせえことにお前頭悪いし魔法実技も良く無ェだろ? このまま行くと補習なんだがよ……」


 レッドカードに一番近いのはリュウだということだ。


「補習? なんだ、それやればなんとかなるじゃん」

「その場合一日が三十時間じゃないと足りねえんだ」

「ぐっは」


 青空が惨いほどに澄んでいた。しかし、任務は任務であるために断ることもこの段階では不可能となってしまった。

 朝寝坊に、授業時間でのギルド通い、この間の0点のテストや、フェルマの酒を学園長に密告したことも原因かもしれない。最後のはとんだ逆恨みだ。


「アッシュの魔法は時間を操れるからそれで何とかして、最悪テスト問題はイクトの力借りて盗むから良し。や、でも寝ないと駄目だからそれも含めると……」

「ぶつぶつ言ったって事実は変わんねえからな。勉強しとけよ」


 かわいそうにと慈悲の言葉を投げることもなく、ただ自然に一蹴する。

 ゼロス帝国国境を越えて数日後、ようやく帝都ノームへとたどり着いたまさにその時、こうして地獄を突きつけてくるのだ。リュウはその神経を疑った。ノームへの門は曇天に身を打たれながら潜る、記念すべき門となった。

 『ゼロス帝国』。総人口は九百六十万人程度だが、幾度の統一戦争を経て数種類の人種によって構成される広大な帝国だ。その攻撃的な国民色を反映し、国民の一割は軍人となっている。世界経済もまた軍事産業を主体とし、魔法開発などが盛んな国となっている。

 百年戦争が終結した後も周りの中小国を配下に従え、領土を拡大し続けており、五大国間との戦争こそ起こしてはいないものの、互いの国境付近では頻繁ににらみ合いが行われている。

 特に隣国であるイデア王国とフォリット皇国とは、その国民色から何まで全てが異なるため、仲が良いとは言えない関係にある。

 国を治める皇帝の独裁制が故に国内の情報はかなり統制されており、特に魔法開発に至っては外国から見ればブラックボックスと言っても過言ではない。


「スッゲー」


 帝都ノーム、そこはまるでネバーランドのようだった。

 面積はイデア首都アルティスに勝るとも劣らないながらも、建物の間隔はアルティスよりも広い。最新式のセメント作りの建物も中には建てられており、国民一人一人の裕福さが見てとれる。

 季節が季節なだけに街全体を雪が覆い、銀白色の屋根は陽の光を受け光沢にも似た輝きを見せる。想像していた場所とは違うことに驚いたのはリュウだけでなく全員だ。


「ここが、ノームかぁ」

「ゼロスの中心地、奥に見えるのが皇帝テレヤーデス三世の古城「メルフォイロス城」ですね。この街は城まで続く大通りが観光名所で、多くの店が構えています」

「うわ~何あれ」


 右を見れば食料品、左を見れば衣料品と、目移りのオンパレードだった。しかし、誰も自分勝手な行動をしようとは思わない。

 それは、この国での任務に緊張感を持っているということもあるが、一番はやはり周りの環境だ。


「嫌な視線ね」

「怒っているというわけでは無さそうですが……」


 通行人や民家の窓から、牽いては客引きをする店主からさえも、冷たい視線が当てられる。見慣れないものへの好奇心などは微塵もなく、とてつもなく分厚い壁を意図して置くかのように距離がある。

 リュウ達のいる大通りから一つ横に入る路地裏に至っては、入る気すら起きない程の場所だった。

 一目で、そこは無法地帯だと言うことがわかった。一般的にスラム街と呼ばれるそこは、漂う空気からしてリュウ達を拒絶していた。


「この国の情報統制は噂以上のようです。転移や念話なんかも出来はしますが妨害されています。短距離念話がこうですと、機密保持に抜かりは無いかと」


 イクトはこの瞬間までに一通りの調査を終えていた。手癖がわるいと、マリーにどやされる。


「今回の特殊任務は、えっと、はいリュウ」


 再度の確認が面倒臭くなったフェルマはリュウに丸投げする。


「ゼロスに逃げ込んだC級犯罪者の捕縛。俺達は学生で軍人だから簡単にこの国に入れる。フェルマみたいなのでも引率には必要なので来てもらった。以上」

「みたいなのじゃねえだろ“先生”だろって、めんどくせえ。そんな訳で聴き込みすんぞ、見つけたらまずは俺に連絡しろよ。C級つっても魔導師だからな」


 勿論、【メガイラ】に関することの一切はフェルマに伝えていない。適当に見繕った、実在する犯罪者の捕縛任務。形式としてはそうなっているが、この任務はリュウにとっても難しいことで、単純に嘘の作戦を覚えられないというところに難点があった。


「俺は宿をとって情報の共有をする。二班に別れて行動しろよ。イクトとティナは念話での連絡を欠かさないこと。まあこの状況じゃまともに念話出来るわけねえけどな」

「ティナ念話覚えたのかよ!」

「まあね。まあ、この国じゃほぼ使えないけど無いよりはマシでしょ」


 先を越されたと落ち込むリュウ。フェルマが宿を取りに向かい、リュウ達は二手に別れた。


 * * *


「なんかさ~、こうやって聞き込みしてると新入生クエスト思い出すよねマリー」

「私あのときすっごく怖かった。リュウ君達がグリーンゴブリンのところに行こうって言ったとき、本当に撃ち殺そうかと思ってたもん」

「それは……聞かなかったことにする」


 アルの一言でその場は和むも、マリーのおかげで、冷ややかな空気は残ったままだった。

 ティナ、マリー、アルの三人は、主に【メガイラ】の情報収集を担当することになっている。比較的簡単な任務ではあるが、ゼロス帝国全体に容疑はかけられているため、直接その名前を出すことはできない。


「本当にこんな国に【メガイラ】のアジトがあるのかな。そんなに怪しいようには見えないけど……」

「まあそれなりに隠れてなきゃとっくに見つかってるものね」

「でもさティナさん。仮にアジトがこの国にあったとして、この街にあったとして、そしたらどうするの?」

「もちろん逃げる。あくまでもこれは潜入調査であって、リュウみたいに喧嘩バカやってたら、私達の場合命がいくつあっても足りないから。それに、ゼロス帝国そのものが【メガイラ】の可能性だってあるしね」

「賛成だ」


 アルは極力喋らない。それはコミュニケーションが苦手ということもあるが、何より億劫に感じるからだと、ティナは知っている。

 基本的生活能力に欠けているため、部屋はゴミ屋敷と化し、食事もまともに摂ろうとはしない。リュウとティナが助ける形でなんとか生活できている。

 理由こそ無いものの、その面倒くさがりの性格に、マリーは慣れを覚えてしまっている。ゆえに、この状態でも会話は成り立つのだった。


「にしても、お腹すいたね」

「うん! 空いたよね! どっかで食べなきゃね!」


 ティナの一言で途端に目の輝きを最大にしたマリーが店を探し始めた。これと言った証言は得られていないが、まずは腹ごしらえだとティナは考える。

 訪れたのは小さな洋食屋だった。

 簡素な造りと、デミグラスソースの美味しそうな匂いに包まれた木造のそれだが、店内は清掃の行き届いた普通の店だった。


「七つ足イーグルの煮込みシチューと、ロケット怠け者のスープ。デザートにオレンジリンゴのゼリーください」


 マリーの抑えに抑えた注文と同じものを、ティナもアルも頼む。空腹時のマリーはこの程度の洋食屋など簡単に営業終了まで追い込むことが出来るが、流石のマリーもそれはしない。


「物価もだいたい同じくらいで、出てくる料理も……うん、おいしい! 私達満喫しちゃってるね~」

「マリーさ、一口で皿ひとつ空にするってどういうことよ」

「今はそんなこと関係ないよティナさん。どう? 怪しい人いた?」


 ティナはスープを掬おうとしながら首を横に振った。アルも無言を貫き、食事に集中している。


「まあそう簡単に見つかるわけないよね」


 【メガイラ】のアジトがあるという疑いはある。だとしても、ここは小さな洋食屋で、マリー達は外部の人間、観光客。

 情報収集のプロでもなければ、いろはも知らない子供のようなもの。ティナの念話でイクトとフェルマとやり取りこそできるが、こちらから発信できることは限られるなとアルは思っていた。


「そうそう、最近のゼロスって言えば北の何ちゃらって国との戦争が話題よね」


 その瞬間、隣のテーブルに陣取っていた大柄の男から店員に至るまでが一斉にティナ達の方を見た。あまりの反応の早さと、睨むような目付きに怯む三人。


「……っていうこともあるらしいけど、今はやっぱり食べることが先よねー!」


 ゼロス帝国内で戦争という単語は禁句だということがわかった。早急に料理を流し込み、店を出る。


「怖かった~」

「五大国最大の軍事国家でも戦争の話題はタブーか。なのに【メガイラ】のアジトがあるかもしれない。ううん、謎だわ。とりあえずここは街の南東だから、ギルドに行ってみましょ」


 観光用のパンフレットに書かれていた文字を見る。

 他国とは言え大陸続きのゼロス帝国は基本的に言語も変わらない。特に昔から小国小民族など多種多様な人間を統一戦争によって得てきたゼロス帝国は、そこだけで一つの世界が形成されていると言っても過言ではない。

 ティナ達の国イデアの言語も、海を越えた五大国カスタリアの言語も幅広く扱うことができる。故にこの場所には翻訳用の魔晶石イヤホンは持ってきていない。

 

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