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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第十一章【友として仲間として】
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132 迫る驚異の先に


「どういうことだよ……」

「君達の命よりも重い“情報”だ。この世で一番重要なものはいつの時代でもそれだからね。魔法とか、科学とか、質量なんかは関係ない」


 それは、不条理な死の宣告だった。一方的に明かされた正体を、命の天秤にかけてくる無理やりな行為だ。


「そうやって、秘密は守られていく。まあでも、それをさせないようにするのが俺達の役目だから全然気にしなくていいよ。もし君達が俺達の名前を明かす状況になるとしても、それは俺達四元帥が君達の箝口を止めようと戦って、止められずに死ぬ場合だけだから。つまり、どっち道そう言うときはみんな死ぬよってことだね!」


 ロイは笑い出した。嫌なジョークだったのではないかともリュウは思ったが、言葉自体は本気だろうなと諦める。


「じゃ、本題に入っていこうかな。……レイジー家の元執事長ウェルダーが殺された」

「え?」


 一瞬で研ぎ澄まされたロイの表情は、話の内容をより重くしていく。衝撃を受けたのは死んだというところではなく殺されたというところ。戦慄から来る感情は止まらず、質問は絶えない。


「ウェルダーが殺されたって、どういうことだよ」

「彼ほどの魔導師だからね、レベル3の封魔牢に収容していたんだけど、何者かに殺されてしまったんだ」

「儂らも総力を挙げて犯人を探しとるが、手詰まりでのう」

「だから君達に色々聞きたくてね。彼が生前最後に会話しているのは君達だから。で、何か特徴的なことを言ってたりしない?」


 ジオフェルとロイの声色は、普段見せる柔らかいものではなかった。軍人として、何より魔法を扱うプロとして、リュウ達よりも堅固だった。


『お前達の近くに闇がある! お前たちがそれを作り出したんだ! 世界は既に【バッドエンド】へと近づいているぞ!』


 それぞれの頭に再生されるウェルダーの声。負の印象だけで彩られた音声が、生々しくて離れない。それを見越してか、ロイが口火を切った。


「彼は【メガイラ】だ。そして、その【メガイラ】が動き出している。【バッドエンド】というものが何を指す単語かはわからないが、いよいよだ」


 その名はもはや忘れない。


「話を整理しよう。まず、君達が一番最初に【メガイラ】と会ったのは学園襲撃の時だよね。その時、彼らは確かにリュウを狙った。証言通りなら、リュウを捕らえることが目的だ」

「じゃがのう、それだけで組織として動くのかという違和感が浮き出てしまうのじゃ。勿論、お主に“何らか”の特別な力があるとして、捕らえるならば他にいくらでもてはあるものじゃ」


 ジオフェルの目が一瞬泳いだことをイクトは見逃さなかった。ジオフェルが内に隠す“何らか”の事情は、おそらく大きい真実だと、直感している。


「そこで先のことじゃ。これより我ら【アルテミス】は全軍をもってお主ら五名を警護する。身の危険が少しでもあったと判断すれば、我ら全軍が敵を潰すことになろう」

「え、え!?」

「そこで、話は変わるのじゃが、先日リーシェルで開かれたパーティーの件について、本当によくやってくれた。軍全体からも、儂個人からも、感謝の意は尽きんよ」

「本当に変わりましたね」

「実は軍からの依頼をまたギルドにしようと思ってね」


 最高指揮官とそれに次ぐ軍人がわざわざ出向く。取り出した書類は束になるほど、リュウ達のギルドカードやパスポートまで用意されている。

 それは、少なくとも学生には不釣り合いで、役不足。依頼を聞く前から、良い気はしなかった。しかしよく考えてみると、世界最強が礼を述べたのだ。リュウはだんだんと高揚感に満ちてくる。


「いや~そんな礼なんていらねーぜ。俺の活躍とか俺のお陰とか、聞きあきちまったんだよってな!」

「そ、そうかのう」

「ロイさんも中々かっこよかったし、すごかったぜ? まさかあんな作戦を用意してたなんて、流石の俺でも驚いたくらいだぜ!」

「うん。俺は急に態度が変わったリュウに驚いてるぜ」


 苦笑いの奥の本心に気づかないリュウを差し置いて、話を進める。


「さて、その時捕らえた奴らの一人から、【メガイラ】のアジトがある場所を聞き出すことに成功した」


 ロイの顔が変わった。周りの空気も少し張る。


「情報が錯綜しておってな、調べれば調べるほど霧の中へと向かっている最中のことじゃった。やっと、その尻尾が見えたんじゃよ」

「……何故でしょうか」


 イクトが聞き返す。

 軍の諜報部にはそれなりの者がいるということは、経験上知っていた。さらに言えば、イクトは【メガイラ】について独学で調べあげている。

 いくら多くを謎に包まれているとはいえ、五大国の一軍隊が情報戦で易々と敗けを認めるとはイクト自身思い浮かばなかった。

 宛が外れると言うことはつまり、元から見当違いをしていたとしか考えられない、と。信用問題にさえ関わるが、ジオフェルの話す内容は、イデア王国だけの問題でないことをイクトに叩きつけることとなる。


「場所はイデア王国より西に位置する軍事国家。名を「ゼロス帝国」、国民の一割が軍人となる五大国の一角じゃ」


 国外からの攻撃だったのだ。


(七割程は掴んでいた、パーティーの一件で核心が持てた、といったところでしょうか)


 イデア王国を脅かすのは単なるテロ組織ではない。英雄と呼ばれたアルティスによって終わりを迎えた百年戦争で、戦火を交えていた国。現在も中小国を降し領土を拡大している、強硬的な国家だ。


「五大国が、【メガイラ】?」


 マリーが驚きティナの顔は青くなる。リュウの目は泳ぎ、理解していないことを白状する。


「つまりのう、主を狙ったのは一人や二人ではなく何万人のゼロス帝国民ということじゃよ」


 敵の数を聞けばわかる。そして、顔色を悪くしていく。


「しかし、あくまでそれは推論に過ぎん。奴らは【メガイラ】と名乗っている。それがゼロスの暗部かも分からぬし、本当にゼロスと関係があるのかどうかの絞り込みはまだ叶っておらん。そこでじゃ、儂らは主らに頼みたい」


 ジオフェルは立ち上がる。


「ウェルダーの言葉の意味、そしてアジトの詳細情報、【メガイラ】の行動目的を、ゼロス帝国への潜入調査で暴いてほしいのじゃ!」


 ジオフェルからの頼みがそれだった。


「俺達軍人は条約によってゼロス帝国への侵入が今は出来ない。それに、入ることが出来たとしても本来の目的である潜入という形には出来ないんだよ」


 五大国間の不可侵条約。小競り合いや、その他小国との戦闘は絶えず行われているものの、五大国となってからの八百年間守られてきた条約だ。


「ゼロス帝国は皇帝の独裁制じゃ。国民の生活さえ漠然としかつかめておらぬのが現状であり、軍事国家なだけに行動も細心の注意を払わねばならん」

「それでも俺達は君達学生に頼むしかないんだ」


 大人の事情という言葉で方を付ければ済む話だ。それでもそのようなことは一切使わず、隠すことはしない。【メガイラ】という組織の全貌を掴むためには、それ相応のリスクがある。


「前回のパーティー潜入とは比べ物にならないほど危険で、賭けなんて言葉は生易しくも感じる程だ。一歩間違えれば命だって危険になるし、【メガイラ】にリュウを捕らえられてしまうかもしれない」


 よく考えてほしいと、消え入りそうな声が上から覆い被さった。

 再三言われたことではあるが、それでもやはり実感というものは湧いてこない。軍に依頼される任務は【メガイラ】のアジトの特定。

 リュウを狙い、ネリルやシエラを殺害したその組織のアジトは巨大な軍事国家の陰に身を潜めているかもしれない。

 そしてそれは、学生であり、さらには【メガイラ】がターゲットとして血眼になって探しているリュウに頼んだものだ。当然、違和感に苛まれる。


「何故ですか? リュウは云わば彼らにとっての行動目的になります。囮というには少々足りすぎているようにも思えます。この場合リュウまで同行しては本末転倒というものです」


 イクトの言葉がジオフェルに向けられた。


「それに、先程は全軍をもって警護するとまで仰いましたが、結局ゼロスに入れない以上それは虚偽になってしまいます」


 その言及に肩を少しだけ動かし反応したのはロイだった。


「このこと、つまり【メガイラ】に関してここまで知っている人の中で軍人でないのは君達だけだ。そして作戦の成功率を考えると五人の方が良い」

「【アルテミス】内でもこの件については不信感が強くなっとる。リュウが狙われたという事実が、国民には伏せられとるが、それでも国民とて不信感が無いわけではない。故に国王直属の王族特務でさえ、うまく機能せんのじゃ」


 つまり、外交を介しての他国干渉を国王は拒否したということになる。初めから、不確定要素の多い事案に強気になるわけにはいかない。

 一度、規模は小さいとは言え侵攻されてしまっているという、その事実があるだけで、国は慎重にならざるを得なくなる。

 民間職業仲介所であるギルドは、そういうときのためにある。しかしそれでも、リュウに行かせるということに納得はいかない。


「そして警護の件。それに関しては心配いらない。この上ない助っ人を用意するよ」


 ロイはそう言った後に誓約書を五枚取り出した。それ以降口を開くことはしない。書いてあることは、ロイがすべて説明していた。


「どうする?」


 小さくティナが聞いた。特にリュウに。しかし、誰も紙に手を伸ばさない。


(【メガイラ】のアジトが見つかるかもしんねー。シエラと、ネリルを倒した奴らのアジトが……)


 リュウは黙ったまま頭の中で必死に模索する。答えになりそうなものが、頭の中で蠢いていた。


「アルは、行くか?」


 リュウが聞いたのはそれだった。

 目線さえ合わせようとしないアルが、その白い髪ごとリュウの視界に入る。相変わらず喋ろうとはしない。

 怪しさは募るばかりだが、リュウにはわかっている。だからこそ、ティナにさえアルの疑いを相談しないし、おくびにも出すつもりはない。

 もっと深くまで掘り返すならば、その必要は端から無いとさえ思っている。


(アルは、違う!)


 アルは頷いた。だから、リュウも決意した。

 誓約書を二枚取り一枚をアルに渡す。自分の名前をもう一枚に書いて、ジオフェルの目の前に叩きつけるように置いた。アルは静かに置いた。

 それに感化されたのか、次に紙を取ったのはイクトだった。マリーも次に行動する。最後まで手を出さないのはティナだ。


「無理しなくていいんだぞ、ティナ」


 二人と出会ったのは中学生になってからだ。二つある小学校の一つで伝説となっていたリュウとアルに目をつけられた時は、まさかここまで共に来るとは思ってもみなかった。

 その二人が勝手に決めたのだ。別にティナは断っても良い。しかし、そこはティナ・ローズ。


「腹立つのよ」


 破れてしまいそうになりながら、紙はティナの手に。荒々しい文字を叩きつけ、机にも同様に置く。


「何で私だけ置いてかれるのよ。あんた達と会ったときから、今までどれだけ無理したと思ってるの。そんな役目イクトとマリーだけに背負わせるわけないでしょ!」

「決まりだな!」


 直球の嫌みにもめげることなく、リュウは全員分の誓約書をロイに渡した。



「いざゼロス帝国へ!」


 

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