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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第十章【ナイトメアダンス】
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126 作戦会議


「ではこれより、パーティー潜入及び【メガイラ】メンバー捕獲作戦のブリーフィングを行います。以降、同作戦を『ナイトメアダンス』と呼称します」


 軽く咳払いをした後ロイは差し棒を取り出した。魔法によって浮いている地図や建物の見取り図、さらに先日拘束されたレグレムの顔写真などがある。


「凄い……小説の一節みたい」

「そりゃ、本物の作戦会議だからね」


 ティナが吐露した一言にロイは笑顔で返した。

 ここは【アルテミス】本部にある会議室の内の一つであり、主に小規模作戦時に使用される一室だ。小さなテーブルと椅子が一方向を向く形で取り付けられている簡素な部屋。

 それでもそんな“非日常”を体感しているものにとっては面白味のあるものだ。今回はアルも含めたリュウ達五人に加えてさらに二人が座っている。進行役のロイはさらに進めていく。


「とりあえず何のためのブリーフィングであるかの再確認から。はい、リュウ」

「えっ……えっとこの間捕まえた【メガイラ】の奴が言ってたパーティーに潜入して、もう一回【メガイラ】のメンバーを捕らえる……的な」


 資料とにらめっこを繰り返しながらの一言だった。


「まあそんなところだね。君達のおかげで捕まえられたレグレムに尋問し、さらに明確な情報を聞き出せた。彼によると、一週間後にイデア南西部リーシェルの街で開かれるパーティーへ【メガイラ】が入り込んでいるという」

「何のパーティー?」

「平たく言えば社交会。リーシェルは港に付随する貿易の街だ。国内外を問わず要人達が集まり、政治その他が動く街だから」

「へ、へぇ……」


 質問をしたのはそもそも理解力がないから。どんなに丁寧に説明されても、わからないものはわからないものはリュウだった。


「てか、こんなクソガキ共にこんなことやらせていいの~?」


 リュウの隣に座っていた女性が声をあげた。

 厚い化粧に加えて派手にカールされた巻き髪、さらに奇抜なデザインの服装と高いハイヒール。初めて見る顔だったが、第一印象は最悪だ。


「何だよ文句あんのかよ」

「ガキが騒ぐんだから、うるさいに決まってるじゃない。私早くこれ終わらせてデート行きたいの」


 資料を一度持ち机に再度叩きつけるように置いた。完全に険悪なムードと化していた。


「ああ? てめー訳もわからず出てきやがって! そんなに出ていきたいならさっさと行けよ!」

「はあ? あんたたちが来いって言うから来たんでしょ?」

「まあまあ」


 苦笑いを浮かべながらロイが仲裁する。元帥だということは明かせないが、やはりそうなのだからここはひとつ大人な対応をしてやろうと、リュウは食い下がった。ふんと鼻を鳴らし、着席する。


「紹介が遅れたね。この人は【アルテミス】医療隊医療長テオレル・フレアさん。いつもは本部の軍病院に勤めてる。えっと、悪い人ではないからね……」

『俺が元帥ってことは、この人にも内緒だよ?』


 ロイの言葉は二重となって聞こえた。後から聞こえたのは念話魔法での言葉だ。

 国家機密は隊長格にさえ明かされない。副隊長であるゾットには明かされたが、リュウも含めやはりそれは特別だ。親友のティナ達にさえ教えることは出来ない。


「そういうわけで、とりあえず進めちゃおっか」


 ロイもリュウ達の殺気に気づきながら進行する。感動を無理矢理終わらせられたのだ、無理もなかった。


「とにかく。俺達はパーティーに潜入し、【メガイラ】だと思われる何者かを捕らえる。そこで情報を聞き出せればさらに良いが向こうもプロだ。及第点以上は望まない」

「……ほんと上もどうかしてるわ」

「確かに今回は俺もテオレルさんに同意ッス」


 テオレルが放った文句に同意したのは、ゾットだ。『ナイトメアダンス』に参加する軍人は三人。隊長格が二人に元帥が一人。リュウのみがロイの正体を知っているだけに、その作戦の重要性がわかってきた。


「この作戦は命が懸かるものッス。リュウ達を俺達が守ってやれる可能性が低い。それに人数も多くないッスか?」

「彼らは学生だ。そして、一人はレイジー家。貴族は当然パイプ造りのために“学生で取り入りやすい”マリーを狙う。学生が来るという不自然な状況でも、それならばむしろ好都合だ」

「餌にするってことッスか?」

「……まあそんなところさ。そしてだからこそある程度は危険を分散させる。マリーだけでなくティナ達にも貴族を装ってもらい、話しかけられやすくするんだ」

「おお……」


 それは本格的な“作戦”だった。大人が頭を使い、見据える先は世界なのだ。そこに関わるのがリュウ達だということに、リュウが高揚し始めた。


「あーもう! あんた状況わかってんの!?」


 それを見たテオレルが怒鳴る。


「どういう意味だよ!」

「そのままの意味よ! あんた達がやることは面白半分でやるようなことじゃないの。さっきもゾットが言った通り危険なの。私達の身も関わるほどよ」


 今度はロイが仲裁に入らない。


「隊長格が二人よ。それは魔物退治ならば相当のランクでないとあり得ない。主要都市に危険が及ぶほどでなければ釣り合わない。そんな任務に、あんたらも参加する。それがどういう意味かわかる!?」

「んなことわかってるよ! だから俺達だってここ来てんじゃねーかよ!」

「その後の浮かれた頭を何とかしろっつってんだよ!」


 テオレルが今一度怒鳴った途端、リュウの視界はぐるりと回転する。椅子に座っていたはずなのに、底無しの闇の中へ落ちていくような感覚に陥った。しかし数秒後にはまるで何事もなかったように座っていた。

 後に残ったのは気持ちの悪さだけだった。


「この作戦に失敗したら、この国を奴らに取られるの。少しは考えなさい。それをアンタ達学生がやるということの重要性を考えて」


 怒気に魔力が込もっていた。


「その作戦に対して邪魔をしないで。あんたら自身にもそれなりの覚悟をもってもらわなきゃなんないのよ!」


 面と向かって、テオレルはさらに続ける。ロイも口は挟まない。


「確かに私にも言い方ってものがあったわ。アンタ達にたいして失礼だった。だけどね、それ以前の問題なのよ。賭けに出たという言葉で気づきなさい。弱いの」


 テオレルは言いきった。リュウも、改めて弱いと言われるとそれ以降返す言葉はない。

 例え魔闘祭で優勝しようと、使い魔契約を成し得ようと、リュウ達は弱いのだ。学生の域を越えてはいないのだ。それが急に、背負うものが“国”となってしまっている。


「この国の命運を賭けた戦いがもっと派手なものだと思ってた? だとしたらそれは間違いよ。そんなんじゃ、世界一なんて到底なれないわ」


 テオレルの言葉が深く刺さった。ティナが口を開こうとしたが、一瞬見えたロイが首を横に振っていたことに気づき、それを止めた。


「……俺は」


 座ったままリュウが口火を切る。張り詰めた空気が少し動いたような気がティナには感じられた。


「アンタが今使った魔法の正体すらわからない。だけど、強くなりたい。【メガイラ】とか、英雄とか今は何もわかんねーけど、いつか必ず勝ってやる。今修行中の【爆炎拳(インパクト)】だってささっとモノにして、世界一になる!」


 決意は変わらない。テオレルは前へ向き直り、ロイもまた会議の進行を再開する。


「……魔法だとわかったのね。なら最低限使えるだけ使わせてもらうわ」

「いやー本当にボキャブラリーが少ないんだねリュウは」


 にこにこ笑いながらとどめを刺したロイが作戦会議を進める。


「とりあえず話を戻そう。現状でわかっていることは【メガイラ】の潜入場所と日時だ。これから一週間はみっちりと策を練っていくよ」

「潜入後はどのように動くんですか?」

「良い質問だねイクト。基本的に君とテオレルさんはサポート役だ。別場所で仕事をしてもらう。他全員が実働部隊ってところかな」


 イクトはテオレルに軽くお辞儀をした。


「まあ今回は互いの連携確認とか出来れば良いかなってところ。一揉めあったけど、まあイーブンってとこだしね」


 ロイの微笑みがリュウに突き刺さる。


「ほんとにリュウは馬鹿ッスね~」

「ゾット君、遅刻治してね。今日だってリュウより遅かったんだからね」


 続いてゾットにもそれは向けられた。


「あ、そうだ一応配役的なものを確認しとかないとだった」

「配役?」


 ロイが思い出したように次に進める。


「潜入だから疑われるような形では参加できないよ。マリーはレイジー家息女として、そしてイクトはその付き人として振る舞ってもらう。ただ問題はその他だ」


 マリーもイクトもその様なパーティーの経験は勿論あるようで、特に落ち着きを崩すことはない。


「ティナとアルはシャルデッツ家の“きょうだい”を名乗ること。シャルデッツって言う名前は実在しないけど、北の方で(つつ)ましく……なんて言えばやり過ごせるよ」

「きょうだい?」

「そう姉弟(きょうだい)。ティナが姉で、アルが弟ね」

「お、弟……」


 アルは固まってしまった。アルだけが年齢操作の手を加えられるのだ。


「背丈がそんな感じだし、何よりほら、同級生って感じには……ねえ?」


 ロイはアルが童顔だということを遠回しに言っていた。皆、笑いをこらえるのに必死だ。誰もフォローに向かえずに、笑いだけが込み上げる。


「で、リュウはティナの許嫁だよ。年齢的に見てもこれ以上架空の貴族の名を作るわけにもいかないし、それで頼むよ。ちなみに俺達大人組は各大臣の秘書ってことで」

「イイナ漬け? 旨そうな名前だな、てか人間じゃなくね?」


 テオレルはため息をつき、ティナは俯く。ロイの苦笑いも、ゾットの腹を抱えて笑う姿も、見ている側としては悲しい。マリーはリュウに同情した。

 アルは心から嘲笑した。


「さて、それじゃいよいよアレの確認だね」

「アレ?」


 ティナのその問いには答えずに指を鳴らすロイ。

 その瞬間異空間から大量の棒が伸びてきた。金属のそれは部屋を横断し、リュウ達の横に四本存在する。


「え? え?」


 状況が読み込めぬうちにその棒にはハンガーが掛けられていく。喚び寄せられたのは大量の服だった。


「今回はパーティーへの潜入が任務だ。だからコレが必要なんだよ」


 やはり状況が読み込めぬうちにロイが笑っていた。

 

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