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制作秘話

 制作上の設定の話です。「物語の設定の話なんて知りたくない」、「物語そのもので感じたことを大事にしたい」という方は、読むのを控えたほうがよろしいかと思います。

 それぞれの秘話に、小見出しをつけました。気になるものだけでも読んでいただけると幸いです。

~バラの花言葉について~

 バラの花言葉は、色によって違うようです。赤なら、情熱。青なら、奇跡。黄色なら、嫉妬。

「それなら、これを物語にテーマしよう。」と思うのに時間はかかりませんでした。kouriさんも、そのことを意識して「Ib」を制作されていたのかもしれませんが、その要素をもっと全面に出そうと工夫しました。

 それぞれのバラの花言葉に当てはめると、イヴは情熱、ギャリーは奇跡、メアリーは嫉妬、ということになります。


 メアリーの「嫉妬」は分かりやすかったかと思います。メアリーは、イヴの側にいるギャリーに嫉妬していましたから。ちなみに、『嫉妬深き花』という絵が私の作品でも、原作でもありましたが、あの絵がギャリーとイヴ、メアリーの組に分けたのは、そういう意味があったのではないかと私は考えています。


 イヴの情熱は、本作での私の課題の一つでした。「Ib」の二次創作を初めから書こうと思った理由の一つでもあります。

 イヴは、大人びた物静かな子供という設定ですが、「そんなイヴも、すべてを客観的に判断できるわけではなく、自分の気持ちを抑えることができない情熱的なところもある」ということを表現しようとしました。それが、ギャリーやメアリーに対する「平手打ち」であったり、「メアリーとの約束を守ろうとする」ことだったりします。

 ちなみに、イヴの性格を物語の初めと終わりで微妙に変えています。終わりの方が、積極的な少女になるようにしてみたのですが、どうだったでしょうか?


 ギャリーの奇跡は、あるもので表現しようと思いました。それはスバリ、「ギャリーのポケット」です。

 物語を読んでみると、ギャリーが奇跡を起こすというよりも、イヴが様々な奇跡を起こしているように見えます。

 ところが、そこにトリックがあります。イヴとギャリーが忘れた記憶を思い出すのも、イヴとメアリーが「ふたりだけの秘密」をすることができたのも、すべてギャリーのポケットに入っていた道具を介しています。「白いレースのハンカチ」も、「黄色のキャンディー」も、ギャリーのポケットに入っていたものです。

 そう考えると、ギャリーがいなかったら「奇跡」は起きなかったですよね。「イヴの情熱」と「ギャリーのポケット」があったからこその、「奇跡」だと思います。

 ちなみに、最後の描写でギャリーのポケットに入っているのは、ギャリーが紙に描いた三人の肖像画という設定です。「ギャリーのポケット」を最後に使いたかったのと、イヴの「ここから出たら、私の絵を描いてよ。」という約束をどこかで使いたいという思いから、この描写に落ち着きました。



~不思議な美術館におけるメアリーの立場は?~

 これは、kouriさんの「Ib」に対する私自身の質問でもあります。「メアリーがリーダーなのかな?」とも思いましたが、どうもそうでもないような……。

 というのも、イヴとメアリーが二人で行動することになったときの話です。『Ib  ~不思議な美術館~』にも書きましたが、原作「Ib」でも、イヴに対して「ずっとここにいなよ」という言葉がかけられます。

 ここで、私は首をかしげました。だって、メアリーはこのあと、「一緒にここから出ようね」とイヴに言うのですから。矛盾しているわけです。

 

 原作における、不思議な美術館でのメアリーの立場を答えることはできません。しかし、少なくとも『Ib ~不思議な美術館~』におけるメアリーの立場は答えることができます。(私がこの物語の設定をしたんだから、当たり前か(笑))。

 私の物語では、メアリーは少し特殊ですが、美術館におけるゲルテナの作品たちのひとつに過ぎません。少なくとも、他の作品たちをまとめたり、命令をする立場ではありません。

 ですので、『無個性』が二人の行き先を邪魔したり、「ずっとここにいなよ」という言葉と「一緒にここから出ようね」という言葉の矛盾が生じたりしたのは、メアリーと他の作品たちとの連携がとれていないことによるものだったということです。メアリーがじっとそれを見つめている場面がありましたが、そのとき彼女は、「そんなことはさせない」と決意を固めていたと思いますよ。

 

 しかし、全く連携がとれてなかったかというと、そうでもありません。少なくとも、メアリーと青い鬼の人形たちは、連携がとれていました。

 ギャリーを『審判』のある部屋に閉じ込めようとしたのは、青い鬼の人形たちの意思というよりも、メアリーの指示によるものでした。先に進まれるどころか、自分の秘密まで知られてしまったのですから、強硬手段を取らざるを得なかったのでしょう。

 

 ちょっと待て。じゃあ、『絵空事の世界』から脱出するとき、ゲルテナの作品たちが男を取り押さえているぞ。連携がとれているじゃないか。そう思う方がいるかもしれません。

 これは青い鬼の人形の働きかけによるものです。メアリーの側にいた彼は、メアリーの気持ちがよく分かっていました。他の作品たちにも、ゲルテナの想いが籠っているので、彼が「ゲルテナの最期の願いを叶える」ように説得するのはそう難しくなかったのではないでしょうか。


 ちなみに、メアリーの側にいた青い鬼の人形とギャリーにつきまとった青い鬼の人形は別人(別物?)です。前者は男性ですが、後者は女性です。青い鬼の人形にも、いろいろいるんです。



~選びなよ。でも、それは答えじゃない~

 隠れたテーマの一つです。これを思いついたのは、本作を作成しているとき、原作に「はたして、どちらが正しいのか」という言葉があったのに気がついたときでした。

 この言葉を見た時点では、なんのことか分からないのですが、物語の最後になると、意味深になってきます。「どちらが正しいのか」。これは、メアリーを見捨てるのか、それとも誰かが犠牲になるのか、簡単に言うと、メアリーかギャリーかという意味なんだと思います。

 

 しかし、私はここに少し工夫を凝らしました。この言葉に、「選びなよ。でも、それは答えじゃない」という言葉を付け加えたのです。これこそ、分かりにくい伏線のひとつでした。

 選択肢を選ぶのは、答えじゃない。ならば、選択しなければいい。イヴがそんなことをしたら、情熱さが表現できるのではないか。そう思いました。

 脱出の前、ゲルテナを偏愛する男が選択肢を提示しますが、実は、「その選択肢のどれかを選ぶのは正解じゃない」わけで、「イヴが選択肢から選ばず、メアリーを連れ出そうとしたことこそ正しかった」ということを暗に示そうとした私の些細な工夫です。

 結果、三人で脱出することに成功しました。示された選択肢を選ばないなんて、粋なことをするじゃないですか(笑)。



~ふたりだけの秘密~

 「ふたりだけの秘密は友達の証」という文章は、私のオリジナルです。友達というのは、互いの間だけにしか共有できないものを共有するものかなと思い、その文章にしました。


 当初、イヴからメアリーへのプレゼントは、黄色のキャンディーだけのつもりでした。しかし、この物語を初めから書こうと決め、書いているうちにもうひとつの案が出てきました。

 それは、『月夜に散る儚き想い』が出てきたときです。原作では、ギロチンのあとにある絵は、『息吹』というタイトルの別の絵だったと思いますが、少し変えさせてもらいました。恐怖と寂しさを堪えられなくなったイヴは、泣いてしまうのですが、絵の中から落ちてくる桜の花びらを見て、もう一度自分を奮い立たせます。

 そのとき、すぐ消えてしまうのですが、イヴは桜の花びらを手にしています。ここで、閃きました。メアリーにも同じことをしようと。

 そこで、「イヴにはそのときの記憶が頭の片隅に残っていて、無意識のうちにメアリーにバラの花びらを渡そうと思いつく」という設定を作りました。バラの花びらは、イヴと一心同体ですから、自分の命を預けるほど信頼しているという意味合いも出てきますよね。

 

 ちなみに、ゲルテナの展覧会で、男の子が展示物の花びらをお母さんにプレゼントしようとしていたという話がありましたが、覚えていますか?あれも、「花びらを渡すことは、愛情表現のひとつ」ということを示唆したつもりです。これも、分かりにくい伏線のひとつですね。


 ところで、黄色のキャンディーは、ギャリーからもらったものです。ひょっとしたら、イヴは、メアリーの持っていたバラと同じ黄色であるということと、間接的にでもギャリーからのプレゼントという意味合いでキャンディーを渡すことを決めたのかもしれませんね。



~歪んだ敬意~

 最後の最後に、謎の男がイヴたちの前に現れます。彼は、イヴの言っていた通り、ゲルテナの展覧会で、「他にも作品があるはずだ。」と騒いでいた男です。

 この物語を制作するとき、「メアリーと存在を交換するもう一人の存在」をどうするかという問題がありました。「どうせなら、『こんなやつ、犠牲になって同然だ。』と誰もが思うようなどうしようもない悪役がいい」と思いました。

 そこで、出来上がったのが彼です。名前すら与えなかったのは、犠牲になったときに、「こんなやつどうでもいいや。」と思って欲しかったからでもあります。


 彼の目的は、『メアリー』でした。メアリーを見つけた彼は、内心歓喜したと思います。しかも、その『メアリー』が動いている。彼にとっては、至高の喜びだったのではないでしょうか。

 しかし、メアリーを留めようとした彼の行動は、『メアリー』という作品に込められた想いを無視するものでした。ゲルテナは、『メアリー』に、「外に出て、たくさんの友達と仲良く遊んで暮らして欲しい」という思いを込めました。男は、そんなことに気がつかず、自分の欲望のままに行動し、メアリーを閉じ込めようとしました。

 彼は、自分のことを、「ゲルテナ先生の唯一の理解者」と自負していますが、実は全く理解してなかったということですね。そこで、私は彼のことを『歪んだ敬意』と名付けました。これは、私のオリジナルの作品です。


 ちなみに、彼は、イヴに「ずっと君たちを見ていた。」と言っていますが、イヴやギャリーが何もないのに視線を感じた場面がいくつかありますよね。あれは、この男の視線です。



~パレットナイフ~

 メアリーが拾ったパレットナイフについてです。あれは、『歪んだ想いの象徴』にすることにしました(原作でも、そうなのかもしれません)。メアリーがパレットナイフを拾った頃くらいに、メアリーの中にはギャリーに対する嫉妬が芽生え始めた、という設定で書いていました。

 原作では、パレットナイフはメアリーが持ったままなのですが、私の物語では、そのパレットナイフが物語の最後に出てくるゲルテナを偏愛する男の手に渡るようにしました。メアリーのときは、「嫉妬のあまりに生まれた憎しみ」、男のときは、「敬愛するあまりに生まれた独占欲」といったところでしょうか。



~ギャリーさん、よかったですね~

 エピローグで、イヴがギャリーにキスするシーン。実はあのシーン、この物語を投稿する最後の最後までありませんでした。私自身、恋愛に疎く、「別にいらないんじゃない?」と思っているところがあったせいでしょうか。

 しかし、物語全体を振り返ってみると、このままでは、イヴとメアリーの友情物語で終わってしまうような気がしてきました。それでもよかったのかもしれませんが、イヴとギャリーの関係が目立たないのも勿体無い……。

 そこで、「どうせなら、印象的にしよう」と思い、最後のキスシーンにしました。頑張ってくれたギャリーさんに対する、ささやかなプレゼントです。よかったですね、ギャリーさん。

 ちなみに、そのシーンを物語の最後の一行に入れられなかったのは、メアリーのせいです。彼女の前でイヴがそんなことをしたら、ギャリーはどうなることやら……。想像するだけでも恐ろしい……。


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