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 呑気にカードなんか切っている状況でないことは、わかっていた。それに占いたければ、小屋の中でいくらでも占えた。ハッタリにはハッタリを。いわばこれは、相手を面食らわせるための、パフォーマンスといえた。

 カードをカットし始める。伯爵がそれを目で追う。この時の指さばきが重要で、相手をなかば夢見心地にさせれば、しめたもの。女たちならば、簡単にとろけるような目つきになり、質問に、素直な答えを返してくれる。彼女たちの口走った事の経緯が、占いの重要なヒントとなる。

 では、まったくのハッタリかといえば、そうではない。並んだカードの組み合わせから、隠された意味を読みとり、占断するのは、ぼく自身だ。さすがに、ル・アモンの目つきは、まだまだスキがない。それでも、切迫した状況を忘れて、好奇心の虜となっているのは、伝わってくる。手を休めずに、ぼくは尋ねた。

「フクロウ党の背後には、タジール公がついているのでしたね」

「そんなことを、おれが言ったっけか?」

「党員はタジール公の飼い犬だと、そう仰いました。ですからぼくは、ただちにあの奇怪なグレムたち……改造精霊と結びつけずには、いられませんでした。あんなものを作り出すには、莫大な費用が要る。往々にして貧乏な錬金術師たちの、あやしげな炉の中では、とても合成できるものではない」

 伯爵は答えず、それでも踊るカードを瞳で追っていた。いきなり壁の穴から、一羽の鳥が飛び込み、ホバリングしてまた飛び去った。が、その間もかれは、カードから目を離さなかった。声のトーンに気を遣い、相手を幻惑へと導きながら、ぼく自身、言い知れぬ戦慄に襲われていた。

 国王の次は、タジール公とコトを構えることになるのだろうか?

「美少年、あんたの言いたいことはわかるよ。改造精霊に続いて、鉱物人間があらわれた。考えてみりゃ、どちらも錬金術師どもの、狂った夢の中に現れるようなシロモノだ。実現させるには、よほど金があり、権力があり、相応に狂ってなければいかん。どう考えても、タジール公がぴったりな役者だ」

「ええ。実際に非常な陰謀好きであり、王国の打倒をもくろんでいると、風の噂に聞いております」

 ぼくはカットする手を止めた。沈黙の中、ル・アモンが、ぴくりと肩を震わせた。

「そこでお尋ねしたい。アモン伯爵、あなたがフクロウ党から盗んできたものとは、何か」

 カードの束から、ぼくは一枚だけ引き抜いた。テーブルはおろか、床さえ存在が危ぶまれるこんな場所で、複数のカードを並べることはできない。表に返したとき、ぼくは意外な思いに打たれた。戦闘態勢整った騎士が、馬上で剣をかざしている絵柄。

 剣の騎士だ。

(マイルストーンではないのか?)

 ル・アモンは自称伯爵であり、騎士階級なので、偶然あらわれたこのカードには、必ず意味がある。質問の答えが隠されている。けれど、かれの飛行服のポケットに、剣はおろか、守り刀さえ納まるとは思えない。とにかく、たった一枚のカードでは情報が少なすぎて、占うのも至難の技。

 あらためてカードに目を落とすと、騎士の周りで、軍旗が風にたな引いている。風下へ向けて構えた剣を、かれはじっと見つめているようだ。ちょうど山師たちが、特殊な棒を用いて鉱脈を探り当てる姿が、思い合わされた。

 ナビゲーター!

「それはあなたを導くものですね。これまでの事情から判断して、おそらくマイルストーンへと」

 かれの目が、たちまち驚愕に見開かれるのがわかった。少々、答えを急ぎすぎたかもしれない。秘密を知られたと感じれば、伯爵はこの場でぼくを排除することも、辞さないのではないか。実際にかれは兇暴な目つきをし、唇をわなわなと震わせた。

「それ以上は黙っていることだ、美少年!」

 言うが早いか、かれは回し蹴りを繰り出してきた。

 タイユラン地方出身の拳闘士も顔負けの、すさまじい蹴りが、ぼくの頬をすっとかすめ、葉叢の壁を切り裂いた。新しい木の葉と、こびりついた枯れ葉がおびただしく舞い散り、鼻をつく臭気が広がるなか、異様なシルエットが浮かんだ。

 幅の広い耳。子供のような体つきのわりに、アンバランスに太い手足。

「いやはや、あやうく大事な鼻をなくしちまうところでしたよ。こいつが効かなくなっては、商売上がったりですからなあ」

 ゼモ族のボレは、耳を前後に動かしながら、くくっ、と含み笑いを洩らした。

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