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27(2)

「ひゃっほーっ! ちょろいもんだぜ」

 とても「伯爵」とは思えない、お下劣な歓声を、またル・アモンが発した。そのまま悠々と方向転換すると、せまってくる敵の三機に、機首を向けた。なぜかそのとき、ぼくの背筋を、冷たい電流が走った。

「気をつけてください。きっと何か魂胆がある」

「なに、墜としちまえば、それまでよ」

 完全に速度に酔い痴れて、伯爵は聞く耳を持たない。間もなく、先頭をきって突っ込んでくる一機の機首で、青い光が弾けるのが、目に映った。

「なんだああ!?」

 反射的にかれは、機体を斜めに倒した。ばらばらと飛んできた光のツブテが、ぶすぶすと、翼に穴を開けた。さらに両側の二機が撃ってくる光弾を、きりもみさせながらかわし、ほうほうの体で上方へ逃れた。腕を振り回して、怪伯爵は叫ぶ。

「飛び道具とは、卑怯だぞ!」

 間違いない。アスペクト砲だ。

 例の蒼黒いグレムが、光を吐き出すのを、たしかに見た。アスペクト砲を使える精霊を、ぼくは何種類か知っているが、当てられたところで、悲鳴を上げて飛び上がる程度。ダイオウカゲロウの翅に穴を開けるほど強力で、しかも連射してくるやつなんて、聞いたためしがない。

 そのうえ、自機のロブロブに穴を開けず、回転の合間を縫って撃ってきたのだから、普通では考えられない話だ。

 また青い光のツブテが、今度は後方から襲いかかってきた。右に左に、ふらふらと酔ったように逃れる間も、翼に、胴体に、次々と弾を浴びた。異臭を放つ煙が棚引いた。撃墜されるのは、時間の問題だ。

「なんなんだ、あのグレムどもは?」

 伯爵の疑問は、ぼくの頭の中で、おぞましい回答に変わっていた。改造精霊。ダーゲルドが、「決して使ってはならない術」の一つに数えた、禁断の魔法……

「おい、大魔法使い殿、なんとかならねえか?」

「あいにく、老境にさしかかっておりましてね。ミワの衰えが縁の切れめ。使鬼たちにはそっぽを向かれ、術も満足に使えないありさまですよ」

 古竜との戦いで、紙兵を使い果たしたことが悔いられた。すがるように、右手の薬指を見つめたけれど、そこに嵌められた透明な石は、打ち上げられた貝のように、沈黙したまま。

 伯爵ではないけれど、三百年生きても「女心」はわからない。

 また機体にいやな震動が走った。翼はすでに穴だらけ。胴体の到るところで帆布が剥がれて、材木が剥き出しになっていた。反対側を調べようとして、ようやくイコがちょこんと、ぼくの肩に乗っていることに気づいた。わあ、と思わず叫んでしまう。

「あれなら、わたしにも使えますねえ」

「アスペクト砲を?」

「あんなにたくさんは出せませんが。やってみましょうかねえ、ご主人」

 どう見てもイコは改造されていない、通常の精霊だ。撃ったところで、石を放り投げるに等しい。おそらく敵機に届きさえしないだろう。

「ちょっと、わたしを抱いてもらえますかねえ。ハンドウがありますから、お体を、しっかり固定しておいてくださいまし」

 なかば自棄になりながら、少女グレムの言葉に従って、体の向きを変えた。兇暴な鳥そのままに、追いすがる三機のボッカーが、たちまち視界に飛び込んできた。足と背で突っ張って、自身の体を支え、人形をささげるように、イコを胸の前で抱いた。

 巻貝をおもわせる、小さな一本のツノが、強烈な輝きを帯びた。

 鉛の塊を、胸にぶつけられたような感触。思わずうめき声を洩らしながら、目を開けているのがやっとだった。イコが吐き出したアスペクト砲は、案の定、一発きりである。が、それは瞬く間に、先頭の一機を粉砕したのだ。

「なんだああ? 何が起きた?」

 ル・アモンが振り向いたときには、二発めが発射されていた。緑色の、球形の光が、どっ、と弾けて、もう一機が四散した。残りの一機は、さも驚いた様子で方向を変え、泡を食って逃げてゆく。

「やってくれるじゃねえか、ちくしょうめ。よーし、イコとやら、追撃するぜ!」

 機体が大きく揺れたかと思うと、空中で静止した。見れば、ロブロブはかろうじて、ひょろひょろと回っており、イコはというと、ぼくの手の中で、文字どおり目を回していた。

「お腹が、ぺこぺこなんですねえ。メシにしましょう、ご主人」

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