表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/136

21(2)

(ハーミア……!)

 小指に嵌めた緑色の指輪が瞬くたびに、ぼくの全身を激痛が貫いた。ミワが手薄になったところをついてくる、彼女らしいやり方だ。

 歯を食いしばって耐えながら、それでいてぼくは、薬指に嵌めた、紫の指輪が沈黙していることに、胸を撫で下ろさずにはいられなかった。

 ここでヴィオラに出てこられては、破滅以外の何も意味しない。

 ジェシカと善鬼は異変に気づいたらしく、こちらを凝視していた。ぼくはがっくりと膝をつき、みずからの手首をつかんだ。まるで別の意志をもつ生き物のように、左手の指がわななき、小指の指輪から、緑色に輝く、細い帯状の光が、幾筋も放たれていた。

「あたしの勝負に、水をさすんじゃないよ!」

 ジェシカが叫ぶと、風が巻き起こり、笑い声が響いた。

「べつに、あなたの勝とうが負けようが、どうでもよろしくてよ。わたくしはただ、わたくしの意志で、この窮屈な牢屋から抜け出したいだけですの」

「解放してください、フォルスタッフさま。お体が持ちません」

 レムエルに言われて、情けない話だが、あっさりと我慢するのをやめた。光が弾け、渦を巻いて、一人の痩せて背が高い女の姿を描いた。ハーミアは宙に留まり、ぼくたちを見下ろしたまま、軽く腕を組んだ。薄い唇に、皮肉な笑みを浮べて。

「落ちぶれましたわね、フォルスタッフ。闇をあやつる魔法使いともあろうものが、ケルビムの眷属なんぞに、すがりつこうとは」

「何を考えている?」

「べつに。さっき申しましたとおり、指輪の拘束から逃れて、清々しているだけですわ。とりあえずは、傍観させていただきましょうか」

 ジェシカのように、正面からぶつかってくる女でないことは、百も承知だ。まずは自由の身になって、こちらの隙をうかがい、寝首をかくつもりか。またザミエルのようなデモンと組んで、襲ってくるかもしれないし、あるいは、ぼくが最も恐れている事態を……

 ヴィオラが出てくるのを、待つ気かもしれない。

「とんだ邪魔が入ったね。さっきは見くびっていたが、次はそうはいかないよ」

 だめだ、ジェシカ。それは、やられる側の常套句だ。と、突っ込もうと思ったが、単細胞なうえ、頭に血が上っている彼女には、もはや何を言っても無駄だろう。

 少々被虐趣味のある彼女は、肉体への打撃には強い。打たれれば打たれるほど燃え上がり、直感も研ぎ澄まされるが、精神的な打撃には弱いのだ。まさかそこまで計算していたとも思えないけれど、それでもレムエルの剣による一撃は、明らかに「わざと」外したものだ。

 大鉈を構えなおし、雄叫びを上げながら、ジェシカは宙に踊った。大上段から打ち下ろされる一撃が、レムエルを急襲した。たしかにこれをまた、腕で受け止めることはできまい。レムエルは素早く片方の膝をついて、右手を添えた刀身を、頭上で水平にかざした。

「よせ、折られるぞ!」

 さっきの、下からすくい上げる攻撃とは、わけが違う。巨大な装甲竜が、これでまっぷたつにされるという驚愕の光景を、過去に目の当たりにしている。次の瞬間、痛恨の一撃が、レムエルの頭を無惨に打ち割るのは、確実とみえた。

 が、

 二つの得物の間に、光の層が生じ、四方へ弾けた。

「なんですって?」

 思わず叫んだハーミアと、ぼくも同じ気持ちだった。いったいどうなっているのか? 剣と大鉈はお互いの刀身が触れ合うことなく、拮抗する力を示すように、静止しているではないか。必然的に、ジェシカの全身も、得物を打ち下ろした体勢で、宙に留まったままだ。

「エナジーシールド!」

 そうとしか考えられない。レムエルの剣から放たれる光が、「力」をともなって、大鉈の打撃を受け止めているに違いない。すさまじい光の中で、ジェシカの表情が苦痛にゆがんだ。

「ああああああああっ!」

 ガラスの割れるような音とともに、大鉈が粉々に砕けた。射落とされた鳥のように、得物を失ったジェシカは大理石の上に倒れた。レムエルがゆっくりと歩み寄り、剣の切っ先を向けた。

「勝負、ありましたわね?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ