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どこかで聞いたセリフだと思えば、このあいだミランダに、同じようなことを言われたばかり。自身の情けない立場を、思い知らされるばかりである。
ハーミアはけれど、ぼくを攻撃しようとはせず、意味ありげに軽く腕を組んで、たたずんでいた。彼女の前で、吊り下げられたヘレナの肩が、苦しげに上下していた。ふと、ハーミアはぼくから視線を外すと、贄を見上げた。
「お姉さま、あなたは掟をお破りになった。あろうことか、その低級な魔法使いを愛していらっしゃる」
ヘレナは答えない。もはや答える気力も、残っていないのかもしれない。
「ならばわたくしが、お姉さまもお望みを、叶えてさしあげますわ。愛とは、失われた部分を補って、まったき存在になりたいという願望なのでしょう。一つになりたいと願うのでしょう。ゆえに、ともに死ぬことこそ、究極の愛のカタチではございませんか」
やはりそうきたか。この場でぼくを屠るのは簡単だが、それでは余興として面白くない。ながい年月、ぼくに拘束されてきた恨みを晴らすには、少々物足りないだろう。
ヘレナはかすれた、血を吐くような声を洩らした。
「やめて、それだけは……お願い」
「ああ、何て、何て気分がよろしいのでしょう。あのお強いお姉さまが、わたくしに哀願していらっしゃる。わたくしに命乞いしていらっしゃる。でもねお姉さま、それならば、わたくしがお姉さまの目の前で、この男を八つ裂きにするほうをお望みですか」
力なく、ヘレナは首を振った。ハーミアが上げた笑い声は、ゾッとするほど虚ろだった。
「使鬼の掟を破れないことは、たった今、身をもって知られたはず。ここでフォルスタッフを屠るか、それともお姉さま自身が食い殺してしまわれるか。選択肢は二つしかございませんし、選ぶ権利を握っているのは、このわたくし。弱虫で、逃げてばかりのダメな妹、ハーミアなのですわ!」
彼女は風の杖を高々と振り上げた。その先端が月光を浴びて、まがまがしい兇器のような光を帯びた。ぼくが異変に気づいたのは、そのときである。
(指輪が?)
痺れるような感触に驚いて、左手をかざした。人さし指の指輪が燃え上がっていた。これは使鬼からのリクエスト。自分を出してくれという意味のサインにほかならない。
(ミランダが、なぜ?)
ぼくを攻撃するために、ミワをこじ開けようというのではない。これは戦闘時において、適材適所を選択するため、使鬼との意思疎通をはかるノロシであり、とくに戦士として誇り高いミランダが、これを悪用するとは考えられない。よもやヘレナの側について、味方してくれるとも思えないが、ここはとにかく、賭けてみることにした。
リクエストがあった場合は、呪文も略式で済む。ヘレナに杖が打ち下ろされる前に、すさまじい炎がほとばしった。
ハーミアの悲鳴が聞こえた。
自身に向かって突っ込んできた炎の竜蛇を、かろうじて避けたまま、彼女は地面に身を投げ出された。体を何度もバウンドさせ、ようやく石畳にしがみつく恰好。乱れた髪の下から、怒りに満ちた目を上げた。
「何をなさるの!」
ハーミアの抗議を無視したまま、ミランダは燃える剣を引っ提げて、ヘレナに歩み寄った。
「気に入らないのよね、こういうやり方は」
どこかで聞いたようなセリフとともに、腰の横で剣を構え直し、斜め上方にひと薙ぎした。一瞬、ぎょっとしたが、炎はヘレナの身に触れず、ただ彼女をがんじがらめにしているイバラだけを焼いて、寸断した。そのままヘレナはひざまずき、がっくりとうなだれた。
「無様だわ。ヘレナ、戦士ともあろうものが、あんな使い走りに、いいようにされるなんて」
「使い走りですって!」
言うまでもなく、ハーミアとミランダは仲がよくない。強すぎる炎は木を巻きこみ、風をはらんで、さらに燃え上がる。要するに二匹は顔を合わせるたび、喧嘩ばかりしている。ミランダは、倒れているハーミアに、いかにも蔑むような目を向けた。
「手加減してあげたのよ。感謝しなさい」
「何をおっしゃっているのやら。自分の立場というものが、わかっていらっしゃらないようね、ミランダ。昔から、少々オツムが足りない方だと思っておりましたけれど、いよいよ誰かさんと一緒に、老いぼれてしまわれたのかしら」
「あら、聞こえなかったの? わたしは手加減した、と言ったのよ」