古代生物との邂逅
水深約2万500m付近。この新世界は底の方に灼熱のマグマがあるものの、距離がある為か、温度計で確認する限りこの辺りの水温は約30度前後に抑えられている。洒落にならない位高い水圧の問題さえクリアすれば、二酸化炭素や二酸化窒素等の無機栄養分や光合成に適した赤色光が豊富にあるので、生物自体の生存は十分可能であり、実際私達の想像以上にここは生物、取り分け地上付近では絶滅したと思われていた古代生物達の楽園だった。
先ず私達を驚かせたのが、三葉虫類やアノロマカリス、オパビニア、ハルギケニア等のカンブリア紀の大爆発の時代に爆誕し、やがて絶滅していった筈の古代の動物達が浮遊しながら生活している事だった。何故三葉虫や有爪動物のような海底で生活しているような生物がこんな所で漂流しているのか、最初は意味が解らなかったが、どうやらあまりにも水圧や比重が高過ぎて沈む事が出来ないらしい。しかしながら、一部では新世界の端の方にある数少ない岩棚や崖に空いた小さな穴にへばり着いて生活している物も存在しているらしかった。
次に私達を興奮させたのは、古生代の中頃に一時代を気付いたものの、やがて硬骨魚に取って代わられた大小様々な甲冑魚達にも遭遇した事だった。
その他、古生代から中生代に掛けて現れ、やがて滅んでいったと思われていた多くの海生生物達が私達の眼前を、時にすばしこく、時に優雅に舞いながら踊るように通り過ぎて行った。
私とジョナサンは狂ったように録画ボタンを連打してそれらの生き物達の姿を写真や映像に収めていった。まるでゴールドラッシュの時代のカルフォルニアの金鉱夫にでもなったような気持ちに私はなっていた。少しスコップで突つけば馬鹿みたいに金が採掘できる巨大な金脈の如く、行けば行く程新しい発見と驚きにぶち当たる。そういう意味でこの新世界は私達学者にとってまるで理想郷のような世界だった。
今まで想像でしか研究しようが無かった絶滅生物の生態が、生きている状態で直に観察できる。そんな夢みたいな事を現実に体験して、私達の研究車魂が震わせられない訳が無かった。
我々は、半ば調子に乗りつつ、気勢を上げながらどんどん新世界の深淵へと突き進んで行った。