3人の仲間達
2015年7月10日の現地時間12時半頃。私はロサンゼルス郊外にある港の近くにあるホテルのビッフェで3人の人物と会食を共にしていた。
正方形の4人席のテーブルを囲む4人の男の内、ホストとして私の右側に座っているのが、今回調査チームを編成して募集した海洋生物学者のジョナサン・リッチバーグ博士である。フェイスブックにあった彼のプロフィールを見る限り、自分と同い年の30歳の筈だが、若いなあ、というのが彼に対する私の第一印象だった。かなり茶色が混じった金髪の、肩まで伸びてボサボサとしたモッサリと膨らんでいるロングヘアーの髪型が、どこかのサッカー選手を彷彿とさせるが、それ以外は鼻が高くて彫りが深い顔立ちをした、碧眼の典型的なケルト系の白人だった。
次に私の正面に腰掛けているのが、イギリスのケンブリッジから来た地質学博士のポール・マーケッテュリーという、我々より一回り程年上の、当時45歳の男だった。少し赤みが入ったモジャモジャした黒髪に、蒼色の瞳に獅子鼻で赤味を帯びた頬をしている、少し角張っているもののまん丸とした丸顔をした茶目っ気のある人だった。少しポッチャリ……いやかなり贅肉が張った腹が出る程太っているという特徴的な体型がとても印象に残った事を今でも私は憶えている。本人はゲルマン系だと言っていたが、私にはどう見ても、黒縁の眼鏡を掛けて濃灰色のスーツを着こなしたヴァイキングだとしか思えなかった。実際、心の中で上半身がほぼ裸で大きな2本の牛の角が付いた兜を被った彼を想像する度に、そのあまりの違和感の無さから私は笑いを堪えるのに非常に苦慮した。
最後に、私の左側に腰を下ろしていたのが、今回潜水艦の操艦を一手に引き受ける遼 王林という35歳の男だった。私と同じく、鼻が低くやや黄味掛かった白い肌に直毛で真っ黒な髪をした典型的な極東系のアジア人だが、やはり大陸の人間よろしく、他の3人と同じ様に私よりずっと背の高い男で、狐を彷彿とさせる妖しげな面長の顔に、食事中も不気味な位何も話さず寡黙な雰囲気が非常に印象的だった。
実際、私達が強いて訊かなかったという事もあるが、殆ど自分の事を話さない、否必要とされた事以上は決して喋ろうとはしない非常に事務的な男だった。そして、潜水艦の操縦も、まるで高性能の人工知能を積んだコンピューターで制御しているかのような、無駄が一切見られない、非常に精緻な操艦を行う男だった。彼の素晴らしい運転技術無くしては、我々が犠牲を最小限にしてあの冒険から生還する、という事は起こり得なかっただろう。正直言って、スポンサーの李氏が潜水艦の航海長として彼を推薦したのも、後から考えれば納得出来る事であった。だがこの時の私は、無口な彼を胡散臭そうな男だと訝しんで、心の中では全く信用していなかった。
私達は互いに自己紹介をした後、沈黙を守っていた王林を除いて、互いに歓談を交わした。特にジョナサンは、その前日初めて直に彼と会った時、
「初めまして、洋三!こうして会う事が出来て嬉しいよ!」
と、一切の嫌味を感じさせない位朗らかに笑いながら挨拶する程、彼は快活な性格をしていたので、会話を交わしていてとても心地良かった。
特に、専門分野にしているという事もあって、彼の深海の生物に関する造詣の深さは非常に凄まじく、その時彼が熱く語っていた、もし例の新世界に生物が存在しうるとしたらどういう物が予想されるか、という彼独自の見解は、同じ研究者の私にとっても非常に興味深くて面白い物だった。
兎に角、この日初めて私は、この後長きに渡って冒険を共にする仲間達と一同に会したのである。