プロローグ
マリアナ海溝を知っているだろうか?
いや、済まない。気を悪くしないでくれたまえ。私だって馬鹿馬鹿しい質問を諸君等に投げ掛けている事は重々承知している。地球上の、少なくとも『今まで』は最も深い地点があるとされた、北西太平洋でマリアナ諸島の東、北緯11度21分、東経142度12分に位置する有名な海溝である。詳しい事は知らずとも、名前位は聞いた事がある人が大部分であると思う。
マリアナ海溝……、かつてソ連が11,034mという最深度記録を打ち立て掛けた事もあったが、度重なる調査によって最深度は水面下10,911mであるとされている。そして長い間、我々はそれが正しい事実だと信じてきた。
だが、もしもこの海溝に、最深部だとされている地点よりも更にずっと深い場所があったとしたら?そしてそこが奇妙奇天烈な生物達の楽園だったとしたら?諸君等は一体どんな顔をするだろうか?それを想像すると、これから諸君等へ、私が体験した体験談を話す事が楽しみで仕方がない。
長々と前置きをし過ぎただろうか……。そろそろ私が経験した実に不可思議な冒険譚を、思い出せる限りここに書き残しておこうと思う。
2026年7月14日 白石 洋三
この手記を、冒険を共にした友人のジョナサン・リッチバーグ博士と、遼 王林航海長、及び故ポール・マーケッテュリー博士に捧げる。そしてこの手記を書くに当たって協力して頂いた多くの友人達にも、この場を借りて感謝する。