表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/6

第1話 温暖化対策って本当に効いてんのか、とグラフを見て固まる

第2部開始です。


今回は、第1部でたどり着いた「CO₂削減だけでは足りない」という感覚を、改めて数字の側から見直していきます。


ニュースでは毎年のように、エルニーニョ、猛暑、台風、豪雨、記録的、観測史上、という言葉が流れてくる。


では、その一方で、世界の温暖化対策は本当に効いているのか。


今回は、その“成績表”を見る回です。

「今年も、エルニーニョの影響で──」


夕方のニュースから、お決まりのフレーズが聞こえてきた。


画面には、いつもの世界地図。


太平洋の真ん中あたりが、じわっと赤く塗られている。


『太平洋赤道域の海面水温が、平年より高い状態が続いています。今年はエルニーニョの影響で、台風の発生数も多く──』


「またかよ」


思わず、口に出していた。


ここ数年、ずっと似たような言葉を聞いている気がする。


エルニーニョ。


ラニーニャ。


観測史上。


記録的。


平年より高い。


平年より多い。


平年より暑い。


「いや、その平年って、いつの平年だよ……」


俺は、テレビに向かって小さく突っ込んだ。


“平年より異常です”を毎年聞いていると、だんだん平年のほうが幻に見えてくる。


画面右下には、くるくると渦を巻く台風の衛星写真。


その横には、「今年○個目」というテロップ。


『すでに台風の発生数は平年を上回っており──』


「だから、その平年はいつアップデートされるんだよ」


リモコンに手を伸ばして、音量を少し下げる。


画面の中のキャスターは、真面目な顔で「備え」を呼びかけていた。


『猛暑や豪雨への備えを──』


「備えろって言う前にさ」


俺は、ソファの背にもたれた。


「そもそも“温暖化対策”ってやつ、本当に効いてんのか?」


隣のモニターが、ふっと明るくなった。


真っ黒な画面に、白い文字が浮かぶ。


『ようやく、その質問が来たな』


いつものAIアシスタントだ。


『どこから見たい?』


「どこからって?」


『スローガンか。会議資料か。企業広告か。それとも、数字か』


「今日は数字で頼む」


俺は、手元のマグカップを置いた。


「政府も国連も企業も、ずっと“CO₂削減”って言い続けてるじゃん」


『言っているな』


「でもさ」


俺は、モニターを指さした。


「実際に世界のCO₂排出量って、減ってんのか?」


少しだけ、沈黙が落ちた。


AIは、すぐには答えなかった。


代わりに、画面が切り替わる。


『では、“成績表”を出そう』


第1節 世界のCO₂排出グラフという、成績表


モニターいっぱいに、一本の折れ線グラフが表示された。


横軸には、西暦。


縦軸には、世界のCO₂排出量。


1990年あたりから、線が右へ伸びている。


いや。


伸びている、というより。


「……上がってるじゃん」


思わず、声が漏れた。


グラフの線は、きれいな右肩上がりだった。


少しずつ。


少しずつ。


でも、確実に。


途中、一か所だけ、ストンと下がっているところがある。


2020年のところだ。


『ここが、新型コロナの年だ』


AIが淡々と説明する。


『ロックダウンで、工場と交通が一時的に止まった。だから排出量も落ちた』


「で、そのあとは?」


『見ての通りだ』


グラフの線は、2021年、2022年と、また元の軌道に戻るように上がっていく。


2023年には、2020年より上。


むしろ、過去最大を更新している。


「おい」


俺は、思わず前のめりになった。


「“世界はCO₂削減に取り組んでいます”って、ニュースで何回聞いたよ」


『何度も聞いたな』


「それで、このグラフ?」


『政治は、“削減目標のグラフ”を出す』


AIは、いつもより少しだけドライな口調で言った。


『物理は、“実際の排出量のグラフ”でしか答えない』


「言い方が怖いんだが」


『事実の話をしているだけだ』


画面の端に、小さなグラフが追加された。


『これは、先進国だけを抜き出した排出グラフだ』


ヨーロッパ。


日本。


アメリカ。


そのあたりの線が重なっている。


『全体のグラフに比べれば、ここは頭打ち、あるいは緩やかな減少傾向にある』


「たしかに」


先進国だけを見ると、右肩上がりは止まりかけている。


「じゃあ、なんで世界合計は増え続けてんだよ」


『こっちだ』


AIが、別の線を強調する。


『中国、インド、東南アジア、アフリカの一部。新興国と途上国の排出量だ』


その線は、迷いなく右上に伸びていた。


『電力インフラの整備』


『工業化』


『都市化』


『生活水準の上昇』


『それらは、現代文明ではCO₂排出をほぼ必ず伴う』


「つまり」


俺は、眉をひそめた。


「先進国の蛇口は、ちょっと締まりつつある」


『そうだ』


「でも、新興国の蛇口は、今まさに全開になっている」


『そういうことだ』


AIは、世界グラフの横に、簡単なイラストを描いた。


一つ目の蛇口には「先進国」。


二つ目の蛇口には「新興国・途上国」。


その下には、大きなバケツ。


さらに、床にあふれた水。


『排出量は、蛇口だ』


『大気中のCO₂濃度は、バケツと床の水位だ』


『排水口とタンクは、炭素固定システム。海、土、森、微生物』


『ポンプは、海洋循環』


「第1部でもやったやつか」


『そうだ』


AIが、一つ目の蛇口のハンドルを少しだけ締める。


『先進国の蛇口は、かろうじて少し締まってきた』


次に、二つ目の蛇口が、ぐるぐると回って全開になる。


『だが、新興国の蛇口は、これから電気と道路と生活を整えようとしている』


「それを悪いって言うのも、違うんだよな」


俺は、グラフを見ながら呟いた。


「電気が欲しいのも、道路が欲しいのも、冷蔵庫が欲しいのも、普通に生活の話だし」


『その通りだ』


AIは、即答した。


『問題は、誰かの発展が悪いという話ではない』


『現代文明の形そのものが、蛇口を増やす構造になっているという話だ』


バケツには、水が増え続けていた。


床にも、水が広がっている。


そして、排水口には落ち葉のようなものが詰まっていた。


タンクには、ひびが入っている。


ポンプも、妙に弱々しい。


『そして、排水口は詰まり気味』


『タンクはひび割れ』


『ポンプも回りにくくなっている』


「それで、“排出削減だけが唯一の解決策です”って言われてもさ」


俺は、元のグラフを指さした。


「この線を見ながら“唯一”って言うの、さすがにグラフに失礼じゃない?」


『グラフ視点では、そうだろうな』


AIは、さらっと言った。


第2節 ニュースの“削減”と、グラフの“増加”


テレビからは、まだニュースが流れている。


『各国は、2030年までに温室効果ガス排出を△%削減する目標を掲げ──』


「目標値の数字は、ほんと立派なんだよな」


俺は、テレビとモニターを見比べた。


左側のテレビには、COPだの、2030年目標だの、カーボンニュートラルだの、きれいなスライドが映っている。


右側のモニターには、地味な一本の線。


でも、その線は、どんなスローガンよりも正直だった。


『“削減努力”と“排出結果”は、しばしば別のグラフとして存在する』


AIが言う。


『政治は、「目標値」「削減率」「合意」のグラフを作る』


『企業は、「ESGスコア」「カーボンニュートラル宣言」のグラフを作る』


『だが、大気は、「実際に出たCO₂の量」しか見ていない』


「容赦ないな」


『温室効果ガスに、外交辞令は通じない』


「それはまあ、そうだけどさ」


俺は、マグカップを一口飲んだ。


温くなったコーヒーが、妙に現実っぽい味がした。


「こうして“成績表”を見ちゃうとさ」


画面の線を、指でなぞる。


「CO₂削減を唯一の解だって信じ続けるのは、もう無理だろ」


『“唯一の解”とまで言うのは、難しい』


AIも、あっさり認めた。


『必要なピースではある』


『だが、十分なピースではない』


「出た」


俺は、少しだけ笑った。


「第1部からずっとそれだよな。“間違いではない。だが、十分ではない”」


『それが一番正確だからな』


「腹立つけど、便利な言い方だな」


『便利ではない。構造的に正しいだけだ』


「そういうとこだぞ」


第3節 “唯一”と打ったあの夜の続き


「だから、あの夜なんだよ」


俺は、別のタブを開いた。


検索窓の履歴に、見覚えのある文字列がちらりと見えた。


――温暖化対策 唯一


「第1部の最終話でさ」


キーボードに触れながら言う。


「正直、ちょっとヤケになってたんだよ」


『だろうな』


「CO₂削減って言われても、グラフは増え続ける」


『そうだな』


「“個人でできること”って言われても、世界全体から見れば誤差にしか見えない」


『それも、気持ちはわかる』


「だから、聞いたんだよ」


俺は、画面を見た。


「じゃあAI、お前の言う“唯一の温暖化対策”ってなんだよ、って」


『ずいぶん喧嘩腰だった』


「うるさい」


AIが、少しだけ楽しそうに文字を返す。


『そして、そのときに出てきたのが──』


画面に、見覚えのある文章が表示された。


地球温暖化の根本的解決には、地球そのものを直接冷却し、炭素固定循環を回復させる「地球直接冷却モデル」が唯一の現実的手段とされます。


「こいつだ」


俺は、その一文を指で軽く叩いた。


「“唯一”って単語、ほんとはあんまり好きじゃないんだけどさ」


『危険な言葉ではある』


AIが、すぐに言った。


『唯一という言葉は、使い方を間違えると、思考停止を生む』


「だよな」


『だが、その夜のお前には、必要な刺激だった』


「否定はしない」


俺は苦笑した。


「あの一文のおかげで、やっとCO₂削減以外の回路が見えたのも事実だしな」


AIが、三つの単語を並べる。


『深海エアレーション』


『ミスト冷却』


『土壌再生』


その下に、短い説明が続く。


『海を呼吸させること』


『空と地表を冷やすこと』


『土に生命を戻すこと』


『それらを、排出削減と同時に動かす三位一体』


「第1部では、そこまで行き着いた」


俺は頷いた。


「Blue Pulseで海をいじる世界線まで描いて」


「パブリックコメントも書いて」


「“CO₂削減だけじゃ足りない”ところまでは、腹に落ちた」


『そうだな』


AIも認める。


『ただし──』


「出たよ、“ただし”」


『その理解には、まだ裏面が残っている』


「裏面?」


『CO₂排出グラフの裏側だ』


第4節 CO₂グラフの裏側にある、文明の影


AIが、世界の排出グラフの横に、別のグラフを出した。


人口。


「……こっちも、きれいに伸びてんな」


『産業革命前と比べると、およそ8倍だ』


「8倍」


改めて数字で聞くと、なかなかふざけた増え方だった。


『この8倍の人間を、どこに住まわせたのか』


AIが静かに言う。


『どうやって食べさせたのか』


『どうやって電気を届けたのか』


『どうやって道路を敷いたのか』


『どうやって都市を作ったのか』


画面に、森が出る。


次に、畑。


次に、工場。


次に、道路。


次に、海へ流れ込む川。


『その答えが、文明史だ』


「森を削って」


『そうだ』


「土をいじって」


『そうだ』


「川に流して」


『そうだ』


「海まで変えた」


『そうだ』


テレビの中では、まだエルニーニョと台風のニュースが続いている。


『今年の台風は、平年より多く──』


「平年、ね」


俺は、さっきよりも少し静かな気持ちで、テレビを見た。


その“平年”は、最初からそこにあったものなのか。


それとも。


俺たちが、少しずつ壊してきた世界の、途中経過なのか。


「その平年を作るまでに、俺たちは何を壊してきたんだろうな」


『それを見に行くのが、第二部だ』


AIの文字が、黒い画面に浮かぶ。


『CO₂排出グラフの裏側』


『人口グラフの裏側』


『森と土と海に刻まれた、二百年分の履歴』


「……めんどくさそうだな」


『めんどくさい』


即答だった。


「そこは否定しろよ」


『否定できない』


AIは淡々と続ける。


『だが、それを一度も見ずに、“CO₂削減だけが唯一の解”と言い続けるのは、さすがに雑だ』


「それは、まあ」


俺は、マグカップをテーブルに置いた。


「そうだな」


新しいファイルを開く。


タイトル欄に、ゆっくりと文字を打ち込んだ。


──第2部 第2話 産業革命から今まで、俺たちは何を壊してきたのか?


「まずはそこから、だな」


『そうだな』


AIの文字が、小さく「了解」と浮かんだ。


第2部の第1話は、ここで区切っておく。


蛇口は、まだ全開だ。


グラフは、まだ右肩上がりだ。


排水口は、詰まりかけている。


タンクは、ひび割れている。


ポンプは、弱っている。


だからこそ。


どこで何を壊し、どこから直せるのかを、ちゃんと見に行く必要がある。


少なくとも、もう一つだけは、はっきりしている。


CO₂の数字だけを見ていればいい時代ではない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


第2部第1話では、第1部ラストで出てきた「温暖化対策 唯一」という検索と、世界のCO₂排出削減の“成績表”を、改めて見直す回として描きました。


ポイントは、世界全体のCO₂排出量が、コロナ禍の一時的な落ち込みを除けば、基本的に右肩上がりを続けていることです。


もちろん、先進国の一部では、排出量が頭打ち、あるいは減少傾向にある地域もあります。


しかしその一方で、新興国・途上国では、電力インフラ、都市化、工業化、生活水準の向上にともなって、排出量が増え続けています。


これは、誰かの発展を悪者にする話ではありません。


問題は、現代文明そのものが、発展すればするほど蛇口を増やす構造になっていることです。


だからこそ、CO₂削減は必要です。


けれど、それだけでは十分ではありません。


第1部で触れた三位一体――


深海エアレーション。


ミスト冷却。


土壌再生。


これは、CO₂削減の“代わり”ではなく、壊れてしまった自然の循環を、別レイヤーから支え直す考え方です。


排出を減らす蛇口の対策。


炭素を固定する排水口とタンクの回復。


海洋循環というポンプの補助。


この三つを同時に見なければ、温暖化対策は片手落ちになるのではないか。


第2部では、その前提に立って、CO₂排出グラフの裏側にある文明史を見ていきます。


次回は、


第2部 第2話 産業革命から今まで、俺たちは何を壊してきたのか?


産業革命以降の人口爆発、森の伐採、土地利用の転換、単一植生、土壌崩壊、化学肥料・農薬、赤潮、デッドゾーン。


そういった「CO₂の裏側にあるもの」を、主人公とAIが一つずつ確認していきます。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

校正・文体調整:G(ChatGPT)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ