9話 永遠の幸せ
土曜日、あまりに問題がないため早くに退院したレンはアイと買い物に来ていた。
「お兄ちゃん! 聞いてる? どこか行きたいところある?」
「行きたいところってアイから誘ってきたんだろ? 行きたいところがあったんじゃないのか?」
「私は後回しでいいの! 何かないわけ? お兄ちゃんって物欲がないよね。なんで?」
「なんで? って言われてもなぁ。ないんだからしょうがないだろ?」
「もう高校生でしょ? 少しは気にしたら?」
「うーん。じゃあ、本屋に行こう。事件に巻き込まれて欲しかった本買えてないからな!」
アイが絶句した。
「どうした? 行くぞ、本屋。」
「よく死にかけた場所にまた行こうと思うよね……。私だったら一生本屋には近づかないけど。」
「また事件に巻き込まれる確率はグンッと下がってるはずだろ? 同じような場所で同じような事件は起こらないよ。場所だって違うだろ?」
「もういいよ。変な兄を持って私は大変だわ〜。」
こうして無事に欲しかった本を買ったレン。彼らは少し離れたショッピングモールに来ていた。アイは服やメイク用品等を大量にカゴに入れ、レンに荷物を持たせ買い物を続ける。
しばらくすると、アイの『ゲームセンターで遊ぼう』との提案で、レンたちはゲームセンターに入っていく。あるゲームをプレイするために準備をしていると、レンは後ろを通りかかった二人組の会話が聞こえ、違和感を覚える。
「なぁ、アーサー引けたか?」
「引けるわけねぇじゃん。確率0.2%だぜ? 出ねぇって!」
「実は俺引けたんだよね! これでボスの魔王も倒せるわ!」
「まじかよ。いいなぁ!」
だんだんと距離は離れていき、会話が聞こえなくなるが、レンはしばらく放心する。
「……兄ちゃん、お兄ちゃん!!」
「え? あぁ、どうした?」
「こっちのセリフなんだけど、どしたの? 急にぼーっとして。」
「いや、なんでもないよ。」
レンはそう言い妹とゲームを始める。しかし、「アーサー」という言葉と「魔王」という言葉がひっかかり、これから先のことに集中することはできなかった。
「パパ、迎えに来てくれるって。」
帰り道、二人で家の方へ歩いているとアイがそう言った。
「すぐそばなんだから家で待ってればいいのに。」
「どこか食べに行くらしいよ、ママも乗ってるって。」
「なにか食べたいものある? 私提案しとくよ、お兄ちゃん、手空いてないから連絡出来ないでしょ?」
「持ってる荷物ほとんどあなたのですが?」
「ありがとう。お兄ちゃん♡」
「ははっ、愛しい妹のためならなんてことないさ。でもちょっとお願いが、少し持ってくれないか? 落ちそう。」
「私の! 絶対やめてね!!」
そんな雑談をしながら歩いていると前方から一つの車が走ってくる。父の車だった。彼らは車に乗り込み、行き先を決めた。店に向かっている最中、信号に捕まり、変わるのを待っていた。
やがて信号は青になり、車は走り出す。夕暮れの中、一つのライトがレンを照らした。
突然の衝撃とともに聞こえる衝突音、ガラスの刺さる痛み。レンは頭を強打した。
意識が遠のいていく最中、さっきまで笑顔だった人たちの無残な姿をレンは見た。
なんで……? どうして? 何が起きた?
「み……、みんな?」
返答はなかった。
あぁ、なんでだよ。また会えたのに……。
レンの目には血が流れ込んでくる。しかし、彼は目を瞑ることはなかった。意識が飛ぶ最後までその光景を見続けていた。




