21話 天才
美雪はずっと魔力を練り続けていた。
魔力はとうとう尽きて、レンの魔力を使い出す。
しかし、少しずつ美雪に変化が起こっていく。
「魔法が……暴発する。」
美雪は膨らんでいく風船を抑えつけている感覚だと言う。
これ以上は美雪に危険が及ぶ……。
「美雪、魔力を止めるぞ。」
美雪は精一杯でレンの声が聞こえていない。
やばいな……。
レンは空を見る。
すると、空の模様が変わる。
空は黒く、光を遮っていた。一層雨が強くなる。
雨の強さは地球では観測されたことのないほどの強さだった。
「嵐が見えた。美雪!」
美雪は目を開けられない。
レンの声だけで周囲の状況を察した。
美雪は空に向かって魔法を放った。
――グラキエス!!
ただ氷を作り出す魔法。
しかし何時間にも練られた魔法で作られた氷は絶対零度に達する。――大気が一瞬で凍りつく。嵐そのものが氷の彫刻のように止まり、雨粒は空中で凍り、無数の氷柱となって宙に止まった。
これは古代の大魔法に匹敵する魔法だった。
美雪は疲れ果てその場で倒れてしまうが意識を保つ。
「やったの?」
美雪の言葉で魔法を見て呆然としていたレンの意識は戻る。
「あぁ、収まった。」
レンは美雪と事なきを得た事を互いに喜び合う。
次の瞬間、氷が溶ける事なく消滅する。
「魔法が消えた!?」
「解かされたって? 誰か人の仕業か?」
美雪は首を横にふる。そして静かに上空に指を指す。
嵐は消滅していない。
レン達の絶望を表す様にまた雨が降り始めた。
雨は弱くなっていた。
梅雨の時に降る強い通り雨くらいの強さだ。
美雪はもう動けない。
レンは走っていた。体が勝手に動いていた。
頭の中に何度ももう一人の自分が思い浮かぶ。
もう、やるしかない。
「来い!!」
――
緑一つない荒野。――そこいるのは一人の男。白髪の自分の姿があった。
「よお、橋ん時ぶりじゃねぇか。」
「お前の出番だ。あの嵐を消し飛ばしてくれ。」
白髪の自分は呆れたようにため息を吐く。
「嫌だね。自力でやんな。」
「人に頼ってばかりで恥ずかしくないのか? 少しは自分の力だけでやり遂げてみろ。」
「無理だ。俺には何もできない。」
レンは視線を落とす。
「魔力があるだろ? ありったけ込めてみろ。」
――
気づけば、森に戻っていた。
レンは"覚悟"を決めた。
全魔力を込めろ!
レンは上空に手を伸ばす。
「魔弾!!」
魔弾はビームのように雲を貫き、嵐の中心を抉った。
だが――それでも嵐は消えない。
森の向こうから振動が伝わる。
「わあぁぁ!!!!」
突如、森中に響き渡る少女の声にレンは気づく。
リラ! 無事だったか!
リラの声により更に嵐は弱まる。
「もう一回だ。『魔弾!』」
レンは残ったすべての魔力を叩き込むように空へ放った。
――
「おめでとう。生き残った諸君。全員合格じゃ。」
気がつけば、そこは闘技場。
受験者は戻されていた。
周囲を見渡すと始まる前より随分と人が減っていた。
「合格……したんだな。」
気を抜けば一瞬で疲れが押し寄せる。
レンはその場で屈み込む。
「おい。大丈夫?」
声が聞こえ、レンは顔を上げ驚く。
「大丈夫です……って、あっ!」
「お前、始まる前に一人でいた……。仲間はできたのか? 合格できたんならよかったぜ。」
そこにいたのは試験が始まる前にレンに警告した男の姿だった。
突然、会場に巨大なスクリーンの様なものが映し出される。
そこにはランキングがあった。
上から1位から10位、それから11位から最下位
そして脱落者の枠があった。
「順位の良し悪しでクラスが分けられるってわけでもないが、参考にはされるぞ?」
校長がそう言うと受験者たちは一斉にランキングを見る。
レンも同じく、下から見ていく。
脱落者は意外にも多かった。しかし、脱落者に知ってる名前はない。
よし。良かった。
レンが続けて下からランキングを見ていると、周りからは色々な声が聞こえてくる。
順位を自慢する者。
順位に不満を持つ者。
そして仲間と合格を喜ぶ者の声。
レンも最下位から11位まで、流し見していく。
俺の名前はない……。知り合いの名前も……。
そしてレンは、上位10位の枠を見る。
レンは緊張していた。
――天才だった。今までできなかったことなどほとんどなかった。努力などしなくても必ず結果が出た。
それが当たり前であり失敗というものを、ほとんど知らなかった。
しかし、この世界に来てからは違った。
どれも上手くいかなかった。それが彼にとって新鮮だったのだろう。
レンはゆっくりと10位から名前を確認していく。最初に知ってる名前が出てきたのは9位のタクトだった。
レンはタクトの名前を上位で発見して、嬉しく思い順位をあげる。
次に5位にマトが居り、3位に美雪が居た。
そしてガリンは4位だった。
しかし、自分の名前がない。
レンは焦った。
もう一度下から上まで全ての名前を確認する。
――しかし、なかった。




