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アルケニアイル  作者: 犬助
一章 転移編
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2話 神と異世界

 骨が砕け、肺が潰れ、喉から鉄の味が溢れた。息が吸えない。傷はない、でも痛みだけは残っていた。

 真っ黒な世界でレンは目を覚ます。周りを見渡すと、そこには玉座に座った女性がいた。

「あんたは?」

 レンは尋ねた。

「私はクロノア。観測者。君が生まれた瞬間から、死ぬ瞬間まで見ていた者だよ。君たちの言葉で言うなら……神かな?」

 神だと? 夢でも見ているのか? ここはどこだ? 

「ここは時間の狭間、異世界に転送するための場所よ。君は今から転移するんだよ。」

 レンは神の言う転移というものを、言葉としてしか理解することはできなかった。

 転移、夢じゃなさそうだ。妙にリアルで気持ちが悪い。少し探ってみるか。

「観測者って言ったか? 転移ってのに何故俺を選んだ?干渉は出来るのか?」

「選んだわけじゃない。人は死ねばみなここに来るだけさ。」

 死んだ……。やっぱり俺は。でも、後悔はある。けど恐怖は、ないな。現実味がないからか? それともやっぱり夢……なのか?

「魔法は一人一系統。だが極められる。君にはそんな世界に行ってもらう。欲しいものはあるなか? 神からのギフトさ。」 

「仮に魔法以外のものを頼んだ場合、俺は魔法を扱うことはできないのか?」

 レンは素朴な疑問を問いかけた。

「いい質問だね。だがそんなことはない。魔法以外のものを選んだ場合は、こちら側がランダムに魔法を使えるようにするさ。」

「それじゃあ、帰してくれないか? 俺には戻るべき場所があるんだ。」

 俺は帰りたい。まだ家族と一緒に過ごしていたいんだ。異世界転移だなんてごめんだね。

 レンの目には強い信念があった。それは神も気づいた。

「それはできない。死んだ世界に、死んだ肉体に戻ることは許されない。消したゲームのデータを復元してくれと言っているのと変わらないよ。」

「そうか……。わかった。そんじゃ、自力で帰ってやるよ。じゃあ……生前得た知識を忘れないようにしてほしい。」

 お前がここに呼んだんだろ、帰れないはずがない。あんたがやらねぇってんなら自力で帰ってやる。

 それを聞き、神は笑った。

「別に転生じゃない。ちゃんと覚えているよ。」

「すぐに帰るつもりだけどな。人はいつか忘れる。」

 神はため息を吐いた。

「分かったよ。最後に君からの質問はある?」

「それじゃあ一つだけ。なんで転生じゃなく転移なんだ?」

 その質問を聞き、一瞬、玉座の時間が歪む。

 なんだ。今一瞬なにか……こいつがやったのか? 攻撃? いや、動揺か? 突けるな。

「君は特別だからね。これに名前を付けるなら安直だけど、“死亡転移”かな? 君は生きたまま死んでいる。だから転生ではなく転移なんだ。」

 死亡転移? それじゃあ俺のあの突き刺された肉体は……。

 レンは疑問に思う。自分は特別、神の動揺、それを深掘りする予知は与えられなかった。神は転移を開始した。

 

 ――――

 

「うわっ。眩しい」

 目を開けると、そこには草原が広がっていた。しかし、自分が立っている場所を見ると、整備されている道があった。

「どこだ……ここは?」

 レンが顔を上げると、そこには人の姿があり、駆け寄る。

「おい。お前! 動くな。」

 近づくと、人影はレンに武器を向け、脅しをかけた。

「お前! どこから現れた?」

 レンは手を挙げて敵意がないことを示し、口を開く。

「すいません。俺、転移してきたんですけど、助けてくれませんか?」

 武器を持った男の後ろには、石でできた大きな城壁があった。

「転移だと? 神の光もなしに? 信用できない。新種の魔物ではないのか?」

 警戒を強め、武器を近づける男。

「本当です。信じてください。どうか助けてください。この世界のこと、何も知らないんです。」

 必死に訴えると、男は武器を下ろす。

「ありがとうございます。」

 レンは言った。

「信じたわけじゃない。話を聞かせてみろ。」

 レンは事の顛末を男に伝えた。

「にわかには信じられんな。本来、転移ってのは協会等で神に祈り、行われるものだ。天然の転移現象など聞いたことがない。まあ、嘘を付いているようには見えないし……。国に入れるわけにはいかないが、もう日も落ちる。一晩、城壁のそばにいることを許そう。」

「いいんですか? ありがとうございます。」

 こうして門番の言葉に甘え、レンは城壁のそばで寝泊まりをすることとなった。日が落ちたあとも、門番は話し相手になってくれたり、寝袋や食事を持ってきてくれたりした。見た目とは裏腹に、驚くほど面倒見のいい男だった。

 一翌日、門番はレンに謝罪をした。それと、そのお詫びにある提案までしてきた。

「昨日は魔物だとか疑ってしまって申し訳ない。そこで提案なんだが、謝罪の意味も兼ねて、今日、この仕事が終わってギルドが開いたら、俺から君を紹介させてくれないか。」

「それってどういうことなんです?」

 レンは問う。

「昨日の君の提案を受けようと思う。まあ、支援とまではいかないだろうが、ギルドには転移者がいるんだ。もしかしたら同じところから来ている奴がいるかもしれない。それに、生きるために職がなきゃだろ。ここを通すのを許可するから、この国に住まないか。俺が支援をしてやる。こう見えて顔は利くんだぞ。」

「分かった。甘えさせてもらうよ。」

 レンは迷わず応えた。

「よし、来た! それじゃ、行くとするか!」

 こうして連れられたのは、木や石ではなく、滑らかなコンクリートでできた立派な建物――大陸全土ギルド本部だった。

 異世界なのに随分と近代的だな……。

「じゃあ、手続きをしてくるから、ここで座って待っててくれ。」

 そう言われしばらくすると手続きを済ませたジルに呼ばれ、奥へ案内された。着いたのはギルド長室、つまり社長室だった。

 いきなりトップと顔合わせか……。緊張するな。

 すると、門番はそんなことはお構いなしに突然ドアを開ける。

「レオパイセン、話があるんすけど。」

「ジル、俺はまだ入室の許可は出していないまずだが。あんまりグアンの真似事ばっかするな。バカモノ。」

 そこには黒髪の、五十路を越えていないくらいの男が椅子に座っていて、門番の態度に呆れているようだった。

「グアンパイセンって何十年前の話をしてるんっすか? 久しぶりにパイセンと会うから昔を思い出して欲しくてやってるだけっすよ。」

「よし、分かった。今日はそれで行くつもりなんだろう? 何も言わん。要件はなんだ?」

 警備の時とは違い、昔を思い出しふざける門番だったが、本題に入るとそれは薄くなった。

「俺の知り合いを無条件で冒険者にしてくれないすか?」

「何を言い出すかと思えば、許可出来ない。」

 その言葉を聞いて門番はニヤリと笑った。

「五十年前のこと、覚えてます? あの時の恩、まだ返してもらってない気がするな〜。」

「お前! そこまでして……。だが今回に関しては無理だ。そんな異例は認められない。」

「頑固だな〜。パイセン、これ、なんだかわかります?」

 門番は首から下げ、服の下に隠れていたペンダントを手に取り、ギルド長に見せる。するとギルド長は目を見開いて、何かを察したようだった。

「どこからだ?」

「最初からです。入国させた時点で、俺たちは“奴ら”から認識されてない。この子がニケさんが言ってた、未来永劫史上最悪の魔王です。」

 世界は一瞬凍りついたかのように無音になった。同時にレンは目を細める。ギルド長はすぐに立ち上がり、言った。

「そうか……。君が……。予言が、始まったんだな。」

「はい。しかし、もうこの時点でその未来への道は一旦潰しました。これより先は彼次第です。魔王になろうが英雄になろうが、平凡に暮らそうが好きに生きられる。だからもし、この子が冒険者になりたいと言ったのなら、冒険者にしてあげてください。レン。今、聞いた通りだ。君が望むのなら冒険者になれるし、他の職に就きたいのなら俺が手伝おう。冒険者だけは先輩を頼らなければいけなかったから、面倒くさいことは先にやっておいた。好きに決めるといい。」

 俺が魔王……それが帰るための道なのか?

 衝撃はあった。だが、混乱はしない。

予言は確定事項じゃない。未来は分岐する。

 人に迷惑はかけたくない。だがもし……。いや、魔王が悪だと誰が決めた。もしそれ道がないのなら恐怖で支配する王じゃなく、必要とされる王になればいい。

「また家族に会いたい……。まだ家族と共に暮らしたい。」

「それはつまり、元の世界に帰りたいと、そう言っているのか?」

 話を聞いたギルド長が食い気味にそう問いかける

 冒険者。情報が集まり、世界を移動できる立場。帰還を目指すなら最短距離か。

 「はい。」

 レンは応えた。

「現状、神聖な力なしでは世界を超えるということは不可能だ。しかし、この世界はまだ解明できていないことがたくさんある。もしそれが分かってくれば、帰ることは可能かもしれないが、それが実用化するのは君の代では無理かもしれない。だが君がその第一発見者になったのなら話は別だ。帰ってしまえばいい。それが一番やりやすいのは冒険者だろう。やってみるか?」

 どうやらギルド長は、レンが冒険者になることを受け入れる方向のようだ。

「家族のもとに帰る方法があるなら、危険でも構わない。冒険者になります。俺を冒険者にしてください。」

 レンは深く頭を下げる。するとギルド長は席を立ち、レンに寄り、肩に手を置いた。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。それじゃあ説明も必要だろうし、空いている冒険者を呼ぶから、少しジルと二人にしてくれないかい?」

「はい。分かりました。」

 レンがそう返事をすると、ずっとギルド長の横にいたがぴくりとも動かなかった秘書のような女性が動き、連れて行かれたのだった。。

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