表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケニアイル  作者: 犬助
一章 転移編
1/26

1話 恩師への報告、終焉の幸せ

「俺はもう、父さんを傷つけたくない。だからもうやめてくれよ、お願いだ……。」

 気づいたとき、荒野の真ん中で目の前の男が剣を喉元に突きつけ見下ろしていた。

 父さん……? 違う。俺はこの男を知らない。だが、男は確かに俺を『父』として話している。

「最後に言い残すことはある?」

 男はそう言い、剣の刃を皮膚に押し当てた。

 弁解するため、声を出したが相手は反応を示さなかった。

「何も言わないんだね……。少し昔話を聞いてよ。」

 そう言い、男は話を始める。

「父さんは覚えている? 俺が初めて魔法を使った時、父さんも母さんも自分のことみたいに喜んでくれて嬉しかったよ。」

 言葉の意味は分かる。だが、そんな記憶、俺にはなかった。

「なんで生き続けようとしたの? 父さんは、何がしたかったの?」

 男はそう問い、沈黙が続く。

 男は涙を流しながら笑顔を見せた。

「それ以上話すと殺せなくなる。じゃあね。父さん。」

 剣が振り下ろされるのが見えた。俺は見ることしかできなかった。視界が地面へと転がった。

 あぁ……また夢か。

 理解した瞬間――

 

 見慣れた天井が映る。荒い呼吸、滝のように流れる汗。気持ち悪さだけが、身体に残っていた。

「頭痛い。」

 鼓動が早い。今日は父殺しか……。時々、不思議な夢を見るときがある。それは一人の人生を見ているようだ。

 ベッドから起き上がると部屋を出て階段を降りる。

「おはよっ! お兄ちゃん。」

「おはよう。」

 玄関には靴を履こうとしている妹がいた。

「今日は早いのか?」

 スマホで時間を確認して尋ねる。

「まあね、生徒会長も忙しいんだよ?」

「気をつけろよ。最近、変な事件多いらしいからな。」

「はいはい、わかったよ〜。行ってきます。」

 アイはそう言い、家を出ていく。俺はリビングへ向かった。

「あれ? アイ行っちゃった?」

「親父かよ、行ったよ。」

「なにその態度、嫌なの?」

 そこには朝食を取っている父がいた。

 父……夢の中の男は父さんと呼んでいたな。あれは俺じゃない。夢の中で俺が見る視点は誰のだ?

「別に。母さんは?」

 俺も席につき、朝食をとる。

「洗濯物を干してるよ。」

 父がそう言うとしばらく話すこともなく朝食を食べる。

「なぁ、レン。やっと完成したんだ。俺の作りたかったゲームが。」

「いつも親父が楽しそうに話す、あのゲームか?」

 父は食い気味に強く頷く。

「それでな。レン、お前が一番最初にプレイしてくれないか?」

「いいけど、なんで俺?」

「お前、ゲーム好きだろ? ストーリーはな、誰よりも一番お前に刺さるはずだ。」

 なんだよ。それ、楽しみじゃん。

 俺は箸を箸置きに置くと「ごちそうさま」と言い席を立ち上がる。

「分かったよ。親父の頼みだしな。」

「お前、意外と俺のこと好きだよな。」

「そうかもな。親父を殺すとか、考えられないわ。」

 俺は呟くように言う。

「なんの話だ?」

「いや、なんでもない。親父。いつもありがとうな。」

 俺は自分で使った皿を洗いながら父にそう言った。

「なんだ? 欲しいもんでもあんのか?」

「んー。本屋に行きたいんだ。金貸してくれないか?」

「そんなんだと思ったよ。」

 父は財布を確認すると1000円を渡す。

 言ってみるもんだな。

 こうして俺は家を出た。


 ――――


 本屋に入り、自動ドアが閉まった瞬間、あまりの静寂に違和感を覚える。

 なんだ? あまりに静かすぎる。話し声もレジの音も一切ない。

 気味が悪い。早く出よう。

 俺は欲しい本のある棚に向かい、迷うことなく手を伸ばす。すると異変を感じる。

 なんだ、体が動かない!

 無理に動かそうとすれば電撃が走ったような痛みが襲う。金縛りのように身動きが取れない。

「ようやく見つけた!」

 大きな声が聞こえ視線を向ける。

 なんだ? あの化け物……。コスプレ? いや、ちがう。

 そこにはタコのような触手をいくつも持った化け物がいた。しかし、化け物はすぐに視界から外れてしまう。

 身動きが取れず、時間が経つ。

 なんで動けねぇんだよ。さっきから悲鳴がうるさい。何が起こってるんだ。

 すると一人のサラリーマンが走ってきて俺に衝突する。同時に全身に痺れるような痛みが走った。

 イタッ! ……動ける。

 身動きが取れるようになると店の奥を見る。そこにはさっきの化け物がいた。

 あの化け物、女を襲ってる!

 逃げれば確実に助かる。しかし、自分の信念がそれを許さなかった。俺は迷いなく店の奥へ進む。

「おい! こっちへ来い。」

 人々は避難を終え、静まりかえった店の中で逃げる女性に声をかける。

 女性はレンに気がつくと駆け寄ってくる。

「助けてください。」

 女性に話しかけようとする。

 が、それは叶わなかった。

 一瞬だけ目が合う。その目は確かに助けを求める目だった。しかし、直前でその目は冷たく変わった。

 女性は俺の胸に飛び込むようにぶつかり、そのまま乱暴に突き飛ばした。

 次の瞬間、女は一直線に出口へ走った。

「ははっ。精々時間稼ぎくらいにはなってよね。」

 そう言い女は店を出ていく。

「……これが助けるか? クソ女が。」

 本棚から落ちた本を触り、ぼやく。

「ザマァねぇな。あの女の味方なんかするからそうなるんだ。」

 店の奥から歩いてくる触手を持った化け物が言った。

 俺は立ち上がり言った。

「なんだ? それ。」

 化け物は自分の触手を見て言った。

「これか? すげぇだろ。ただの触手じゃない。動きを止める毒も放出してんだぜ。なに? ……なんなんだろうな。魔法か?」

「俺の想像する魔法とは随分と違うみたいだな。」

「そうか。それは残念だったな。これが俺の魔法だ。お前は『これ』を使わなくとも殺せる。」

 化け物はそう言い拳銃を取り出す。

「未知のものよりこっちの方が全然怖いね……。」

 俺は両手を挙げる。

 棒立ち。奴の立ち方は素人のそれだ。この間合い――あと一歩で届く。

 俺は一歩前へ進む。

「怖いか。そのクセして近づいてくるんだな。下がれ。」

 化け物はそう言うが、そこはもう腕を伸ばせば届く距離だ。

 化け物は引き金に指をかける。その指先にわずかに力が入った一瞬、俺は先に動いた。

 ガラ空き――そこだ。

 俺は化け物が銃を構えた隙に、堂々と空いた肝臓レバーにボディーブローを叩き込む。化け物は銃を落とす。すぐ様それを回収し、化け物に銃口を向ける。

「引き金はそんなに重かったか?」

「化け物が。」

「それはこっちの台詞。」

「お前、名前は?」

「レンだ。」

 次の瞬間、背後から衝撃が走る。俺は血を吐いた。

「そうか、覚えておくよ。」

 気づくと触手が心臓付近を貫いていた。ぐちゃりと嫌な音がした。触手が抜かれ、体が崩れ落ちる。床に広がっていく血をぼんやりと見ていた。

 寒いな。こんなにも早く冷えるものなのか……。ごめん、親父。ゲーム、できそうにないわ。

 力が入らない。指先の感覚が消えていく。

 鼓動は遠ざかり、視界は突然暗くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ