終末のあとで ― 炎上、逃亡、そして無様な末路 …
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7月6日、午前8時。
終末は来なかった。
地球は普通に回っていた。
SNSはその日、まさに言葉の炎上祭りと化していた。
[#詐欺師あばかれた]
[#セレス終わったな]
[#終末ビジネス崩壊]
[#お湯張ってる場合じゃねぇ]
昨日の夜、俺が晒した
[セレス・コウ温泉スイート予約スクショ]
は、すぐに拡散され、
終末フェスの主催者たちにネット中の怒りが集中していた。
かつて「第三の目が開く」とか言っていた彼らの“本性”は、
スイート風呂付きの予約表一枚で剥がれ落ちた。
セレス・コウは公式に「体調不良で療養中」と発表されたが、
SNSは凍結。ファンコミュニティは削除。
実質、夜逃げモードだ。
ヒカリ=ライジングは「希望は自分でつくるもの」とかポエムを投稿したが、
リプ欄は阿鼻叫喚だった。
[希望より先に信頼つくってくれ]
[昨日、終末って言ってたやつが24時間で言い訳ポエムって何事?」
一方で、終末botの中の人だった“ミナト”は、
「バズりすぎて逆に疲れた」とだけ呟き、アカウントを削除。
あとはバックレるつもりらしい。
、、予言者たちは逃げた。
信じた信者たちは、残された。
[えっ……俺、会社辞めちゃったんだけど…]
[部屋に[俺は生きてた]って書いた遺書があるんだが…]
[7月5日で死ぬからキツめのローン組んだんだけど…どーするぅぅぅぅ]
ネットには、そんな“被害者たち”の声があふれていた。
だが、一部ではもう次のビジネスが動き始めている。
[今度は8月9日説が濃厚、これガチ]
[NASAが発表したXフレアの動きが……]
[預言書に載ってない“第13の章”が……!]
[未来から来た男、“緊急暴露”!!]
、、まだ終わりそうにないな…。
信じる人間がいる限り、
“終末ビジネス”は次の顔でまたやってくる。
そんな中、俺のスマホに一通のメールが届いた。
送信者は、終末フェスのバイトスタッフだったミサ。
以前、ホテル予約情報をリークしてくれた子だ。
[お疲れ様です。昨日、すごかったですね〜☆
セレスさん、逃げる時に“また来年やるからよろしく”って言ってましたよww
終末商売は、まだまだ終わらないみたいですよ☆
また、なんか情報あったら流しますね!お金いっぱいありがと☆]
、、心底呆れる。
でも、どこか笑える。
「こいつらって、世界が終わらないって分かってて、来年もまたやる気なんだな…」
俺はスマホを伏せて、目の前の喫茶店のカツサンドにかぶりついた。
場所は純喫茶[アルマゲドン]。
終末翌日の昼、ピヨコと落ち合って遅めのブランチ中だった。
「ユウトさん、ネット見ました?“#セレス風呂”トレンド3位ですよ」
「3位か……ずいぶんと熱々の風呂に入っちまったな…?」
「“地球滅亡じゃなくて熱湯入浴”でしたってまとめ記事出てましたよ」
「笑えるな…。じゃあ、あのフェスはサウナか何かだったんだな」
「信者も整っちゃったってやつですね~」
ピヨコはニヤニヤしながらカフェオレをずずっとすする。
その顔には、どこか満足げな笑み。
「でも……人って、何か信じたい生き物なんですね」
「まぁな。信じた結果、カレーとローブとスイート風呂が売れたって話だけどな」
「しっかりと経済回してるじゃないですか?終末予言」
「うん、地球が終わるって言いながら、けっこう現実的だったよな」
「世界が終わっても、お腹は空くんですよ…
きっと」
「じゃあ、俺たちも何か売るか。
“絶対に外れる予言”とか、それにちなんだグッズとか」
「それ詐欺未遂ですね…その時は、私が責任持って取材しますね!」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
“終末”なんて言葉より、
今この瞬間の“カツサンドとカフェオレ”の方が、
ずっと信じられる。
7月6日、地球は今日も、ちゃんと回っている。