第九話 ジュリエッタ
男爵邸の片隅には、以前は庭師が暮らしていた粗末な小屋がある。
ジュリエッタはそこで寝起きしていた。
日の出と共に起きると、男爵邸の門から玄関までのアプローチと庭園を掃いて。
本邸の地下室にある使用人の食堂に直接行って、使用人達と同じ食事をとる。
30分ほどの距離にある学園には毎日、徒歩で通い。帰宅後には男爵のところへ挨拶に行き、学園であった出来事を話した。
地下で夕食事をすましてから小屋に戻ると。
衣類を洗い、前日に干しておいた制服のブラウスに鉄製の炭火アイロンを当てる。
小屋の隅にはバスタブがあったが、薪の節約のために湯は張らず。沸かした湯で髪を洗って、身体を清める。
学園の授業についていくのが精一杯のジュリエッタは、毎日深夜遅くまで勉強していた。
「以上が、ジュリエッタ嬢の1日の行動となります」
セシルの命令で眼鏡をかけたレニーが、報告書を読みあげた。
淹れたての熱い紅茶を飲みながら、セシルは自室でレニーと作戦会議をしていた。
「迫害されてないって、意外だった」
「そうですね、通常の範囲内でした」
さらにレニーが報告書に目を通して。
「ジュリエッタ嬢は男爵に引き取られるまで、ジプシーの母親と各地を転々としていたようです。母親は今、町外れの店に一人で住んでいて、占い師として生計を立てていますが。やはりそれ以前の足取りは詳しく把握できません」
「胡散臭い。でも今問題なのは、ジュリエッタの知名度の低さと、あの性格の地味さだよ。あんな外見なのに覇気がゼロじゃ、市政にも認められないし」
セシルの言葉に。
「そうですね。では、少し身近なところから攻めてみましょうか」
レニーが何か仕掛けるつもりのようだ。