第65話 城門
翌日。
城門前の広場には、朝から多くの人が集まってきていた。
昨晩、城下町の民は不安な夜を過ごした。
見たこともない怪鳥が城の上を飛んでいたとか、世にも恐ろしい叫び声を聞いたとか。
飛び交う噂で、居酒屋は朝まで盛り上がっていた。
皆が寝不足の顔のまま、昨日からの噂話の続きに花を咲かせていると。
一瞬、空が陰った。
大きな羽音と共に、城下街で一番高い鐘塔の屋根に、巨大な生物が舞い降りる。
それは、誰も見たことがない生物だった。
一見、巨大な鳥のようだったが翼は羽毛ではなく、トカゲの皮膚のような皮翼。鋭く長いクチバシから、頭の上のトサカまで、直線的で鋭利なフォルム。
あり得ない角度に翼を曲げて、そこについた大きな三本の爪で屋根を掴んでいる。
昨日の騒ぎの正体だと、ひと目でわかった。
屋根の上には、雷針を掴んだスーツ姿の青年も立っていた。
濃いダークグリーンの瞳を持つ小麦色の肌をした青年は、ざわつく民衆にニッと犬歯をみせて。
「主役はあっち」
と城門を指差す。
城門の上は踊り場になっていて、そこに王が現れた。
「あっ、王様!」「王様ー!!」
大きな歓声があがる。
王はやんわりと手を上げてから。
良く通る、威厳のある声で。
「昨晩はセシルたちが特異な手段で帰国した為、皆を驚かせてしまったようだな。此度、あちらの若き魔王殿から正式に同盟の申し出を受けたので皆に報告しよう」
民衆に向かって、ゼノがヒラヒラと手をふる。
ざわつく民の前で、さらに王が続ける。
「不可侵条約を結んだゆえ、西の山脈を越えた魔族の領土には絶対に近付いてはならぬぞ。ただし魔物が山脈を越えて人命を脅かす場合には、武力で対処し強制排除するとの話がついているから。すぐに知らせてほしい」
一部の酒場関係者と、美味いと評判の食堂の亭主は何かに気づいたように。
「なぁ、ゼノさんじゃないのか? あれ」
「本当だ、ゼノさんだな」
とお互いに確認している。
「あ、バレた」
ゼノが顔馴染みや常連になっている店主に手をふる。
ゼノをよく知る者は半信半疑で、手を振り返していた。
「報告がもう一つある」
と言った王の横に。
精霊王に伴われたユージーンが姿をみせた。
みんなに打ち解けやすいようにと、今日のユージーンは学園の女子の制服を着ている。
クレアもそれに合わせて制服を着て後ろに立っていた。
絵本から抜けだしたような精霊王の姿に皆、息を飲む。
うっすらと光ってみえる淡いブルーの瞳と、天をつかむように伸びた鹿のような二本の角が、彼を精霊王たらしめていた。
「こちらは精霊王だ」
王の紹介に、集まった王都の民がまたザワついた。
精霊王は、清らかな水や風を彷彿とさせる澄んだ声で。
「子供たちを交換する時がきたんだ。君たちが成長を見守ってくれた私達の王子セシルと、精霊界で皆に愛されて育った人間の王女ユージーンとを。さあ取り替えよう」
民衆は衝撃を受けた。
取り替え王子様の噂は真実であり、交換されたのは王女だったのだ。




