第64話 怪鳥襲来
秘密の遊び場だった、城内の森は。
奥まで進むと、高い崖に突き当たって。その下に崖を背にして建つログハウスと、自然の美しさをそのまま再現した庭があった。
実は崖下から死角になる場所に隠れた洞窟があったが、そこにいたる足場は見えづらいように作られていて。
子供達もその洞窟のことは知らなかった。
日が落ちて。
鳥も森のねぐらに帰る頃、突然。
その洞穴から巨大な黒い影が飛び出してきた。
それは空中で、バッと翼を広げると。
『ギャ〜!』
甲高い声で思い切り叫んだ。
「ちょ、まてまて。嬉しいのはわかったから、叫ぶなって」
続けて焦った声が聞こえるが。
一瞬でパニックになった森の生き物達の騒ぎによって、それは掻き消された。
ハチの巣をつついたように、森から一斉に生き物達が飛び出す。
「な、なんだ!?」
「敵襲か!?」
城詰めの兵士たちは、武器をつかんで騒然とした。
城下からでも騒がしい城の様子は確認できた。
人々は家から出てきて、その様子を不安そうに眺めている。
何人かのまとめ役が集まりだし、城に確認しに行こうと話していた。
「あーあ、ちょっと目立っちまったなぁ」
怪鳥の背に立った男が頭をかきながら、城や街の混乱を見ている。
「ゼノ、貴様! またセシル様の足を引っ張るような真似を!」
「あとの祭りだよ、レニー」
プテラノドンの背に乗っていたのはゼノ。
それに続いて現れた大鷲の背には、セシルとレニーがいた。
魔族の襲来!
広間にいた王達の元にも、すぐにその一報が届いた。
「またゼノは派手な登場をして」
と精霊王が笑っている。
クレアがあわてて。
「ではセシル様もご一緒のはずです」
「ちぇ、もう来ちゃった」
ユージーンは不満そうな顔だ。
「敵ではない、セシル達だ。間違って攻撃するなと伝えろ」
「はっ」
騎士団長が戻っていくと。
「では、彼らを迎えに行こう」
一行は森全体が見えるバルコニーに移った。
それを見つけたゼノが、すぐにプテラノドンに乗ってやってくる。
「みなさんお揃いで。王様、騒がしくしちゃって悪いね」
「魔王ゼノ殿。愚息がお世話になっております」
セシルは、クレアの顔を見つけた途端。
大鷲の背中を蹴って飛んでいた。
「クレア!」
「セシル様」
両手を広げるクレアの前に着地して、その勢いのまま抱きしめる。
「やっと捕まえた!」
強く抱きしめるセシルの背中をクレアは優しく抱き返して。ポンポンとそっと叩く。
「おかえりなさい、セシル様」
「ただいま、クレア」
その言葉の甘さと温かさを噛みしめる。
これからの「ただいま」と「おかえり」は、場所に対してじゃない。
クレアと共にあるんだ、とセシルは思った。
その夜、城門で。
集まった民の代表たちに、兵士長が説明していた。
「明日の正午。ここ城門で王から重要なお話がある。混乱がないように、ギルド、商工会、街の顔役など要人を中心に集まってくれ。お触れは街中に出しておく」
兵士長と親しい街の代表者が。
「ずいぶんとお城が騒がしいようですが、何かあったのですか?」
心配そうな顔で聞いた。
「セシル様が少し特殊な手段で戻られたと聞いている。そのせいで一部の兵が混乱したが問題はない。明日のことも、悪い報告ではないとの事だ。戻って民を安心させてほしい」
「わ、わかりました」
民の不安を取り除くため、彼らは急いで戻っていった。
ドナウ村では。
「ディーナー!」
パックの魔法でいきなり現れたニアが、ディーナのスカートに飛びついた。
「ゼノが使えないから、心配で帰って来ちゃった」
とスカートから上目遣いで見上げてくる。
「まあ、戻ったなら仕方がないね。ゼノがいるならなんとかなるだろう」
ディーナがニアをスカートから降ろすと。
ニアは不服そうに。
「どーしてディーナはゼノばっかり信用するんだよ。もしかして、アイツの方が頼りになるって思ってるの!?」
そういえばディーナは最初からゼノと仲が良かった。下手すればニアよりも。
ニアの目の前の景色が、ぐにゃりと揺れた。
「ディーナのばかー、浮気者〜」
ポカポカとスカートを叩いてくるニアに。
やれやれ。
としゃがみ込んだディーナが、その小さな頭を撫でる。
「これは内緒の話だけど。まあ、アンタには話しておいてもいいかね」
「なになに? 内緒の話って」
すぐに機嫌を直したニアが、ディーナの瞳を見つめる。
そのダークグリーンの瞳は。
どこかで見覚えのある色だと、ニアは思った。




