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第62話 王様と王妃

 言い伝えや、習わしの間に存在する精霊もいる。

 彼らは生き物とは違う理で生まれて、消える。

 取り替え子という概念は、精霊と深く結びついていたので疎かにはできなかった。

 最近は、二人の人格も定まってきたので、そろそろ良い頃合いだろうという意見で一致していた。

 いつ本人に告げ、国民の前で発表するか。

 そんな秒読み段階だった。



 王城で。

 謁見室の玉座に座り、娘の帰還を待ちながら。

 王は、当時を思い出していた。

 精霊王がセシルを連れてきたあの日。

 元々身体が強い方ではなかった妻は、二度目の妊娠で母子共に命を失いかけていた。

 そこに突然、精霊王が現れた。

 亡くなった父と親しかった、とは聞いていたが。

 実際に伝承の中から抜け出したような美しい存在には目を奪われた。

 精霊王は緊迫した王妃の状況を一目みて。

「これが、この子の運命なのだね」

 呟いたその腕には、赤子が抱かれていた。

 そして精霊王は。

 この子を取り替え子にするという形で、二人を精霊界に連れて行くことはできる。

 そこで子供は取り出すことができるが、母親の命は持たないだろう、と告げた。

 精霊界で生まれた子供には精霊の加護がつくので天寿を全うできる、という言葉に王妃は。

「素敵ね。精霊界にはずっと行ってみたいと思っていたの」

 と笑った。

 妻の強がりと、強い意志を宿した瞳に。

 身を切られる思いを抑えて、王は決断した。

 この子に名前を。

 彼女に請われて、王はその場でお腹の子供にユージーンと名をつけた。

 そして二人は、人間界を去った。

「戻るのは、あの日以来か……」

 ユージーンの様子は、セシルの成長と共に情報交換されてきた。

 多少、我がままで堪え性がないという話だったが、健康で生きてさえいてくれればそれに越したことはない。

 セシルも、あまり表には出さないが優しい子に育った。

「ありがたいことだ」

 亡き妻と精霊王に感謝する。

 彼女が本当の意味で亡くなる前には精霊王の計らいで、森の中で妻に会うこともできた。

 変わり果てた姿ではあったが、彼女は彼女のままだった。

 そして。

「あとはお願いね」

 王妃でもなく、人としての彼女らしい最高の笑顔で。後を託された。

「任せておきなさい」

 彼女の頭に触れると。

 安心したように微笑んだまま、彼女の魂は還るべき場所へと旅立っていった。



「ふう」

 目の間をつまんで、熱いものが通り過ぎるのを堪える。

 ヴヴゥン。

 謁見室の中央辺りで、空中に光りの輪が現れた。

「来たか」

 王の威厳を保つ為に、腰の据わりを正して。

 彼らの移動が完全に終わるのを待った。

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