第59話 鳥たちの騒宴
薔薇の迷宮の空が騒がしくなった。
森から鷹や鷲などの猛禽類が、ギャーギャーと興奮状態でやってくる。
身体の大きな大鷲などは脳も大きな分、知能も高かったので、大人しく迷路の生け垣にとまったが。
他の鳥達はハチの中に突っ込んで、躍り食い状態となった。
セシルの頭上でもパニックになったハチと鳥との争いが勃発していた。
「頭をお下げください!」
レニーがセシルの頭部を庇う。
「だから警告したのに……」
赤い薔薇の少年隊長がちらっとゼノをみるが。
「まだか、プテラノドンは!?」
夢中で探すゼノには聞こえていなかった。
「セシル様、こいつはここに置いて行きましょう!」
レニーがセシルを庇いながら城に続く道へと向う。
『ギャー!』
「きたきたー!! でか!? かっくいー!」
ゼノが歓声を上げた。
遠い空からやって来て、高い位置で空中を旋回しているのは。
恐竜時代の生き残り、プテラノドン。
翼部の端から端まで約7メートル。大鷲とも違う、その鋭利なフォルムに。
ゼノが子供のようにキラキラと目を輝かせている。
争っていた鳥とハチは、いつの間にか霧散していた。
小さな隊長が。
「プテラノドンは魔力で飛んでいる訳ではないので。背中に乗ったり、足に掴まったりして飛行することは出来ません。あの巨体で体重は20キロくらいです」
と説明する。
「へー。なら俺自身の魔力で浮けば、問題無いな」
ゼノがニコニコと。
「なあ、ちょっと俺の肩を掴んでみてくんない?」
とプテラノドンに話しかける。
「言葉は通じ……」
言いかけた隊長より早く。
『ギャー、ギ』
急降下したプテラノドンがゼノの肩をガシッと掴んだ。
「おおー、やったー!」
笑顔のまま、ゼノが上昇していく。
そしてゼノは、プテラノドンに掴まれた姿で。
セシル達の頭上を、クルクルと大きく旋回した。
「子供の頃の夢がかなったぞー!」
情けない姿だったが、本人は大喜びだ。
セシルと少年隊長は、目を合わせると肩をすくめ。
レニーは組んでいる腕の肘のあたりを、長い指でトントンと神経質に叩いている。
満足そうな顔をしたゼノは空中から。
目が合った大鷲に。
「なあ。悪いけど、ちょっと精霊王のところまでその子を運んでくれないか? ついでにそこの執事っぽいのも。俺たちは後ろからついて行くから」
ニッコリと。魔王らしからぬ笑顔とオーラだけ少し魔王バージョンで、大鷲にお願いした。
半笑いで見ていたセシルが大鷲と目が合った。
「クレア!」
温室前まで運んでくれた大鷲の足から手を離して、セシルが温室に駆け込む。
そこでは今まさに。
クレアらしきスカートとブーツが上から消えていくところだった。
ニアが目ざとくゼノをみつけて。
「ゼノ、このバカ! なんでディーナを放ってこんなトコまで来てんだ!」
まだ下まで届いていなかった光の輪から、ニアとパックが飛びだしてくる。
「クレア、待って!!」
セシルは叫んだが、その願いは届かずに。
床についた光の輪は、そのまま消えてしまった。
「……!?」
手を伸ばしたまま固まっているセシル。
その頭をポンポンと撫でて。
「大丈夫だって、行き先はわかってるから。俺が責任持って連れてってやるよ」
ゼノが犬歯をみせて笑っているが。
何故だろう、昔ほど頼れる気がしない。
とセシルは思った。