第56話 温室のカボチャ
城の横にある、ガラス張りの大きな鳥籠のような温室にやってくると。
「ジャックー! ちょっと聞きたいんだけど」
パックとニアが元気に飛びこんでいく。
大きな麦わら帽子を被り、ジョウロを手にして花壇に水を撒いていた人物が。
「ん?」
と振り返った。
チェックのシャツにオーバーオール。白い手袋をはめて、大きな木靴を履いた背の高い人物は。
カカシだった。
藁が詰まったシャツの上に、目と口をくり抜いたオレンジ色のカボチャ頭が乗っている。
「おー、ユージーン。やっと来たな」
パックを通り越して、ユージーンを見つけると。
「精霊王から伝言があるぞ。夜までには戻るから大人しく待ってろってさ。もう城から出るなよ」
「えー。わかったよ、ジャック・オー・ランタン」
ぎょっとした男が。
「……本物のカボチャだよな。カカシの魔物か?」
おそるおそる観察している。
「あ、オレ? ちょっと違う、元は口の上手いただの遊び人だ。若い頃に悪魔を騙して、死んでも地獄に行かなくても済む石炭をもらったら、天国にも地獄にも行けなくなっちまってね。身体が朽ちたから、近くにあったカカシに憑依して。今は、頭のランタンで火種になってる悪魔の石炭が燃え尽きるのを待ってるってわけ」
ニアがパァッと顔を輝かせて、カカシの頭にかけ登ると。
上からカボチャの中身をのぞいている。
「本当に石炭が燃えてる! すげー、メチャクチャ格好イイ!」
ジャックは笑って。
「ははっ。だろ? あんたも噂と違ってかわいいな、黒い悪魔くん」
「えー、どっちもそうかぁ?」
パックが腕を組んで首をかしげている。
カボチャ頭のジャックが思い出したように。
「で、なんだっけパック」
「あ、そうだ。彼の住めそうな場所がどこかにない? 元人間の精霊なんだ」
「つまり幽霊?」
珍しそうに男を見ていたジャックが。
「あれ? あんた、どっかで俺と会ってない?」
と顔を見ながら言った。
「カボチャに知り合いはいない」
男が即答する。
「いや俺、元は人間って……あっ!? 嘘だろっ、あんた俺の唯一の失敗君じゃね!?」
「……いい響きじゃねぇが、なんだそりゃ」
普段から不機嫌そうな男の目に、不愉快さが加わった。
「その凶悪な目つきと耳の形。無精ひげで隠れた口元のホクロは、俺とお揃いだ。あんたマイキーだろ?」
「……どうして、その名を」
男の目がさらに剣呑になる。
「そっかー、元気そうで良かった。いや幽霊か。そりゃそーだよな100年近く経ってるもんな」
「……あんたさっき、ジャックつったのか?」
「そうさ。マイ、サン。ジャックお父さんだよ」
本当に吐きそうな顔色で。
「げ」
と男は呻いた。




