第55話 桜色の部屋
「シャルル様は、精霊王の妹なんだよ。実は彼女って凄いんだ。眠ったまま赤ん坊を産んだんだから。今も精霊界の七不思議の一つになってるくらいだよ」
パックの口から意外な話がでて。
「詳しく教えて、パック!」
とユージーンがパックを捕まえている。
「人様のプライバシーを詮索するのはあまり良く……」
クレアが止める前に、パックが話しだす。
「たしか最初に見つけたのは、シャルル様が拾って育てたハーフエルフだよ。お腹に子供を宿したことを知らずに眠っていたシャルル様のお世話をしてたんだけど。ある日、勝手に産まれて泣いてた赤ん坊を見つけたんだって。お乳が無いから、精霊王が知ってる国の王様に相談しに行ったら、その時にユージーンの母ちゃんがお産で死にかけてた、って」
「……それってつまり」
クレアがその事実に気づいて、ユージーンの顔を見つめる。
ユージーンは首を傾げながら。
「ただの取り替えっ子じゃなかったのか。じゃあ、父親は誰なの?」
その質問にクレアがドキッとした。
ここまで濃い個人情報をこんな形で耳にしていいはずがない。
「待って、パック!」
「もー、オイラだってそこまで詳しくないよ。だってこれはタブーの話なんだからな」
ホッと胸を撫でおろしたクレアが。
「もうやめましょう。本人の知らないところでこんな風に過去を聞くのは、いいものではないわ」
「そ、そうなんだ?」
ユージーンが新しい常識に触れて、ドキドキしていた。
「俺はもういいか? なあ、どこかに良い寝ぐらはないか、できれば静かな」
元盗賊の男がニアに聞いている。
「俺様は最近の事情には詳しくないからな。パック、知ってるか?」
「ジャックに相談してみたら? 人間にも詳しいし」
パックが先頭にたつ。
「いつも温室にいるんだ、あっちだよ」
男は溜め息をついてパックについていった。
ユージーンが嫌そうな顔で。
「やめなよ、二人共。そいつは早く元いた所に戻そうよ」
と言いながらついていく。
最後まで部屋に残っていたクレアは、ベッドの側に膝をついて、眠ったシャルルを見ていた。
まだ少女のような姿だ。
そのせいか、美し過ぎるほど整ったその寝顔が知っている人物の面影と重なった。
ユージーンが不思議そうな顔で振り返って。
「早く行こ、クレア」
戻ってクレアの腕を引っぱる。
クレアはシャルルに。
「お騒がせしてごめんなさい。また、ご挨拶に参ります」
と小さく頭を下げて、部屋を後にした。