表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/68

第52話 転移の泉

「精霊界への転移ポイントはその回廊の向こうだよ。案内しよう」

 黄金の狩人と呼ばれる山エルフの族長が、自ら先導する。

「ついでに我が麗しの都を堪能していくといい」

 そこは美しいエルフの国が一望できる、空中回廊だった。

 岩山を削って造られた都だが、無骨さはなく。繊細な彫刻のような柱や、空中に飛び出した開放的なバルコニーなどは、まるで華麗な宮殿のような趣きがあった。

 離れた住居を繋ぐ空中回廊では。景色が良い場所に建てられたガゼボが、彼らの憩いの場になっている。

 セシルの手元にある回廊の手すりも。美しく透かし彫りされた大理石で、森の中をイメージさせる木々や鹿が生き生きと写されていた。

 ただ眺めを優先したそれは、腰の辺りまでと低かった。

 頼るには心許ないこの手すりでは、エルフ以外の者はここに立つだけで足が竦むだろう。

 なんとも山エルフらしい回廊に、セシルは苦笑した。

 そして今。まさに山の間に隠れようとする夕陽に紅く染めあげられた都は、言葉を失うほどの美しさだった。

 他では見ることができない、どこかノスタルジックな絶景をセシル達は堪能していた。

「時に、ハーフエルフ君」

「どうぞレニーとお呼び下さい」

 セヴィラスの声で現実に引き戻されて、レニーが応える。

「ではレニー。君は人間と精霊、どちらの王子様に仕えているんだい?」

 少し意地悪く見えるセヴィラスの顔。

「私はセシル様個人に仕えております」

 レニーが即答する。

 セヴィラスの質問に違和感を感じたセシルがレニーの顔を見るが。

 彼は普段通りだった。

「おっ、あそこか?」

 ゼノが進行方向を指す。

 室内に戻ったその場所は。

 天井がない広い吹き抜けで、頭上には夕焼け空があった。

 部屋の中心には、まるで水銀をたたえた大きな鏡のような水面が、泉のように広がっている。

「水銀?」

「いいや、ミスリルだよ。特殊な薬剤とちょっとの魔法で溶かしたミスリルを媒体にした、転移装置さ。人間でも身体に害はない……はずだったような、そうでもないような」

 最後の部分は聞こえなかったことにした。

「さてと、どこに送るのが一番楽しいか」

 ミスリルの泉にしゃがんだセヴィラスの不穏な呟きに、耳聡い《みみざと》レニーが反応する。

「精霊王にお会いしたいので、王宮前でお願いします」

「ふーん、そう。じゃあ王宮の前、と」

 つまらなそうに、セヴィラスがミスリルの水面に何かの模様を描く。

「よし。では、泉に入りたまえ」

 膝上辺りまでありそうなミスリルの泉に、恐る恐るセシルが足を入れる。

「……沈まない?」

 水面は少しの弾力はあるものの靴底を濡らす程度で。ゴムの上に立っているような不思議な感覚だった。

「へー、おもしれ」

 ゼノも面白がっている。

「心の準備はできてるかい? そろそろいくよ。いってらっしゃい……気をつけて」

 セヴィラスの悪戯っぽい目と目が合った。

「え?」

 急に、セシルの足の下にあった感覚が消え。

 とぷん。

 と一斉にミスリルの泉に沈む。

 足がつく底はなく。セシル達は足に重りをつけて、底なし沼に放り込まれたように。

 一気に沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ