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第51話 エルフの隠れ里

 朝から疾走してきた馬上で、ゼノが。

「なあ、昼メシ食わねーの? もう昼をかなり過ぎたけど。また成長が遅れちまうぞ、セシル」

 セシルの後から昼食の催促をしている。

 これまでずっと、ゼノの存在を無視し続けていたレニーが。

「……なぜお前がいる」

 手綱を片手に持ち換えて、剣に手をかける。

 それをセシルが止めて。

「僕なら出る前にしっかり食べてきたから大丈夫。ゼノこそ、留守番を任されたんじゃなかった?」

「留守番はラルフに任せてきた」

 ゴソゴソと荷物を漁ると、ポイポイッと二人に何かを投げて寄こす。

 昨日のスコーンだった。

「オヤツに持ってきて正解だったな。移動しなが食えるし、中にハチミツが塗ってあるから疲労回復の足しにもなる。成長期なんだから飯は抜くなよ」

 と疾走させた馬上で自分もスコーンを噛じる。

 意外と母親オカン気質なんだよね、とセシルは思った。



 村ではクレアの帰りを待とうと話がまとまりかけていたが。

 セシルだけが異論を唱えて、飛びだしてきた。

「クレアを守るのがあんな猫一匹だなんて不安しかない。精霊界に行く」

 レニーが旅の準備を整えながら。

「王都であれば精霊界につながるポイントが近くにあったのですが、残念です。ここから一番近い移動ポイントは山エルフの里ですね。急げば夕方には着けるかと」

 冷静にルートを選んでいる。

 すぐに馬で村を出る二人の後を。こっそりとゼノがついていった。



 夕方近くになって。

 三人は国境近くの、深い森の入り口についた。

 レニーが馬から降りて。

 近くの枝から取った木の葉を唇に当てる。

 独特な調子で草笛を吹くと。

 さほど待たずに。カサッと森の中で木の枝が揺れた。

『名乗れ』

 姿はみえないが、エルフ語だ。

『アストリア国の第二王子セシル様と、従者レニー……護衛のゼノだ。精霊界に行くので、エルフの結界ポイントを使わせてほしい』

 レニーの答えに、姿をみせない声の主が。

『少し待て』

 と言ってから、しばらく間があった後。

『許可がでた。グリフォンに乗れ』

 言うと同時に。

 急に影に入って周囲が薄暗くなった。

 ほぼ無音で、巨大なグリフォンが空から降りてくる。

「グリフォン!?」

 グリフォンはあの巨体を魔力で浮かしていると、昔習ったことをセシルは思い出していた。

 三頭いる。ということは一人づつ乗るようだ。

「結界ポイントは森の最深部にあります。そこまで最速で行けるので、せっかくですから利用しましょう」

 頭を下げたグリフォンの背に乗り、フワリと飛び立つ。グリフォンの背中は、温かいビロードのような手触りだった。

 濃い緑の森を飛び越えて、岩山の間にある隙間を通り抜けると。

 そこには、幼い頃に読んだ本に描かれていたエルフの隠れ里があった。

 岩山が複雑な谷を織りなすこの地にあえて造られた都市。岩を削って造られた宮殿のような華麗な建造物と、それらをつなぐ複雑な空中回廊が織りなす景観は見事で。

 本にも『隠されたエルフの秘宝』と記されている。

 黄金の狩人と称される、金髪翠眼の若く勇ましい狩猟タイプのエルフの里だ。

 住人たちはここを、我が麗しのアヴァールと呼んでいる。

 都市を見下ろした荘厳な城。そこに備え付けられた中庭のような広場に、グリフォンは降りた。

 その背から降りたとき。

「これはこれは、珍しいお客様じゃないか」

 広場から続く奥の部屋から男の声がして、背の高い金髪翠眼の美しい青年が現れた。

 里を治めている族長のセヴィラスだと、レニーがささやく。

「取り替え子の王子様に、ハーフエルフ。それに、なんとまぁ魔王様まで」

 大げさに驚いたような口調だが、その目は品定めするようにこちらをみている。

「面倒くさい奴がきたな」

 ゼノが肩をすくめる。

 たしか本には、山エルフのプライドは山よりも高いとも書いてあった。

「魔王様は相変わらず、粗野なまま成長していないのだね」

 ゼノをみて、フフンと笑っている。

 前にでたレニーが。

「セヴィラス様、ご厚意に感謝致します。我々は先を急いでおりますが、ご要望があればこの者はここに置いていきますのでご自由になさって下さい」

 挨拶しながらも早々に退散しようとしているレニーを。

「おやおや、ずいぶんとせっかちでつまらない従者だね。王子、こんな半端者などではなく、この地で育った正統なエルフの従者と変えてさしあげよう。作法も腕も、洒落っ気もあって、彫像のように美しい青年だ。いや、王子もそろそろ女性の方が良いお年頃かな」

 ニヤリと笑うセヴィラスに。

「お気持ちだけで充分です。僕にとってレニーは身内同然なので」

 セシルは冷静にかえした。

「セシル様……」

 レニーが感無量という表情を隠しきれずにいる。

「ふーん、つまらないな。どうやら君たちは似た者同士のようだ」

 言葉に反して、どこか楽しそうな顔をしているセヴィラスという男に。

 セシルは試されているような印象を受けた。

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