表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/68

第五話 月下の魔王

 木刀の打ち合う音が、森に響く。

 ゼノが暇潰しに子供たちに剣を教えていた。

 まだ出会って2日目なのに、男子はすっかり師匠と弟子のような顔をしている。

 ゼノはなかなか優秀な先生だった。

 護身術を習ったクレアも短時間で、ルイあたりなら放り投げたり、腕を固めたりすることができるようになった。



 その夜更け。

 ゼノが、セシルの部屋のバルコニーに現れた。

「……そんな訳でそろそろ帰ろうと思ってさ。今から記憶を消すけど、俺に関する部分を封印するだけだから、大丈夫。また再会すれば思い出すし」

 と言った。

「……は? もう一回」

 寝入りを起こされたセシルは。

 レニーが帰りが明日で良かったと思いながらゼノの話を聞いていたので、肝心なところを聞きそびれた。

「おーい、起きろー。だからー、俺は魔王様なの。そんで帰らなきゃいけなくなったから、記憶を消していくぞ。ってなんで二回も……」

 ブツブツといっているゼノは。

 襟に黒い羽根のファーがついた漆黒の服に身を包んでいる。

 小麦色の肌、みどり色の瞳はそのままで。闇よりも濃い漆黒の髪は長く伸びて夜風に揺れている。その隙間から尖った耳も見えていた。

 額の生え際から捻れた黒い角が2本、空に向かって伸び。背中には黒い翼が生えている。

「……その格好はなんなの?」

「あー、ほら。視覚から入った方が伝わるかと思って。厨二病とかじゃないからな」

 ちゅうに……?

 口を開きかけるが。

「そろそろ行くよ」

 ニッと笑ったゼノに頭を撫でられた。

「……もう?」

 名残惜しくなっているセシルの頭を、ぐりんぐりんと撫でながら。

「またな、セシル」

 犬歯をみせて笑っているゼノの顔が、だんだん霞んでいく。

 記憶はそこで途切れた。



 レニーが戻ると。

「何もおかわりはありませんでしたか?」

 土産を渡されながら心配されるが。

「別に何もなかったよ。あ、そういえば、兄上の婚約者に会った。それが、変わった侯爵令嬢で……」

 森で出会った姉弟の話をした。

 こっそりついて森の奥まで行ったが、そこは空き地になっていて。危ないので帰りは三人で協力しあって帰ってきたこと。

 ルイとは友達になったことをレニーに話した。

 森に入った事に関しては少し説教されたが、友人ができたことはとても喜んでいた。

 ただ話しながら、セシルは何か足りない気がしていた。

 誰かを思い出せそうで、何度も失敗する。

 大切なことのような気もしたが、最後まで思い出せなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ