第46話 眠り姫
祭りの翌日。
部屋が2つあるVIPルームに泊まったセシルは、朝の身支度をしていた。
少し前から、廊下を何度もパタパタと行き来する足音がある。
レニーが廊下にでて、足音の原因だったシアを捕まえて話を聞いてきた。
ブーツの靴紐と格闘していたセシルが。
「なに? 祭りの片づけで問題でも起きた?」
レニーの顔も見ずに聞くと。
「クレア様が目を覚まされないそうです。念の為に今、ディーナ様が様子を見に……」
レニーの言葉が終わるより早く、セシルは部屋を飛び出していた。
ノックもせずにクレアの部屋に飛び込む。
「クレア!」
「大丈夫、眠っているだけだよ」
脈をとっていたディーナが、クレアの腕を静かに降ろした。
近づいて確認すると、スースーと穏やかな寝息を立てている。セシルはホッと息を吐いた。
「どうして起きないんだ?」
「さてね。何かの薬のせいかもしれないが、ハッキリしないね」
ディーナはいつも通りの口調だったが、セシルは気にしていない。
セシルが王子かもしれないという噂には領主から箝口令がでて。村では、普通の客人として接するようにと書かれた回覧板が回った。
村人は気づいていないフリをして、なるべくセシル達との接触を避けて過ごしている。
一歩下がって見守っていた夕月が。
「夢の中でトラブルがあったのでは?」
前回の状況を聞いたので心配している。
「まぁ、ありそうな話だね」
とディーナはうなずいた。
「例の『秘密の庭』のことか? それなら行ったことのある者がいたはずだ」
視線がディーナの足元に集まるが、こんな時に限って見当たらない。
「ニア! おいで!」
ディーナが窓をあけて、大きな声で呼ぶと。
「なーにー? ディーナ」
すぐに、所々に白い羽根をつけたニアが飛んできた。
口元には小さな卵の欠片が引っ付いている。
「またダンのところのニワトリにちょっかいをかけてきたね」
「違うよ。朝の運動に付き合ってあげたんだよ? ニワトリもアイツも、少し運動不足みたいだったから」
「そーかい。まあ、今はいいよ。それよりもお前さん、クレアの夢から出てきたんだろう? そこはどんな場所なんだい」
みんながニアに注目する。
「あそこはね、沈まない満月がずっと出てる夜の公園みたいな場所だよ。魔力も力も出なくて変なんだよね。でも雰囲気とか、やたら濃い空気とかは……んー、精霊界だったかも? なんか空気の味が同じだった気がするな」
初めてニアが役に立った。
「貴重な情報だ、ありがとさん」
ディーナがくしゃくしゃと頭を撫でると、ニアは興奮して尻尾をピンと立て。
「もっとホメて! もっとナデて!」
ぷるぷるとお尻を震わせながら、ディーナの足にまとわりつく。
「忙しいから、あとあと」
ディーナが適当にあしらっていた。
「精霊界ならレニーの担当か」
レニーが待機している廊下に出ようとしたセシルを。
「お待ち、クレアが起きるよ」
ディーナが止めた。