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第43話 二度目のプロポーズ

 テラス席に座ったセシルが。

「ねえ、クレア?」

 隣に座ったクレアの後方をみつめたまま、呼びかける。

「はい、セシル様」

「……あそこでゼノに怒られてる黒猫に、見覚えがあるんだけど」

「えっ? あ!」

 両親からの手紙にも書いてあったのに。クレアはニアの暴挙をすっかり失念していた。

「あれが、お命を狙ったという魔物……」

 立ち上がったレニーの周辺だけ急速に温度が下がっていく。

 ヒゲで殺気を察したニアが。

「ヤバっ」

 脱兎のように逃げていった。

「レニー」

 セシルがレニーを制止すると、レニーは殺気を収めて椅子に座り直した。

 ほっ、とクレアが息を吐く。

「あの猫がいなくなったらクレアは悲しいの?」

「はい」

 とクレアはうなずいた。

「思慮不足なイタズラ者ですが、そこまで根が悪いとも思えなくて。村には悲しむ者も多くいます」

  祖母を悲しませたくない気持ちと。それ以上に、ニアに生きていてほしいという思いがある。

「そっか。じゃあ、あのことは無かったことにすればいいんだね。最初からやっつけ仕事でドジも踏んでたし。誰にも言ってないから心配いらないよ。レニーだってもう忘れたはずだから」

 セシルがあっさりニアを許した。

「はい、セシル様」

 従順なレニーがうなずく。

 大きく開いたクレアの瞳は翠色の宝石みたいで本当に綺麗だとセシルは思った。

「ありがとうございます、セシル様!」

 クレアはテーブルの上にあるセシルの手を握った。

 クレアの体温に少し頬を染めつつ。

 セシルはクレアの左手の甲に、そっと唇で触れた。

「用意しておいて良かった」

 クレアの薬指には、いつの間にか大粒のピンクダイヤの指輪がはめられていた。

 希少価値の高いピンクダイヤをミスリルの爪でとめた、シンプルなのに城が何軒も建つほどの価値がある指輪。

「セシル様、これは!?」

 魔法のように現れた指輪にクレアが驚いている。

「この機会を逃したらまたどうなるか分からないから、僕の気持ちを聞いて」

 セシルは真剣な顔をして言った。

「初めて会った日から、ずっとクレアが好きだったんだ。兄上との婚約を邪魔するのにジュリエッタを利用したけど、二人とも幸せだって言ってくれた。今度は僕が幸せになれって……余計なお世話なんだけど。僕は絶対にクレアと結婚するから。ごめんねクレア、他の選択肢はあきらめてね」

 クレアはセシルの海と大地が混ざったような美しい色彩のを、じっと見て。

「セシル様はいつも私に優しくて。嬉しかったけど、それがセシル様の全部ではないことも知っています。本当に結婚するのなら、セシル様が短所だと思って隠しているところも長所と同じくらい見せて下さい。他の人にみせるツンツンした態度も、実は興味深かったです。なんか猫みたいで」

 少し驚いた後、セシルはクレアと二人で笑った。

「正直に言うよ。この先、たとえばクレアが他の誰かを好きになったとしても。どんな手を使ってでも仲を引き裂いて、クレアの前からその人物をこっそりと排除するけど……引かないでいてくれる?」

「私だって本気ならそれくらいはします。ぜんぜん引きません」

「……良かった。クレア、僕と結婚して下さい」

「はい、喜んで」

 じーん、とその返事を噛みしめて、セシルが目を閉じている。

「あ、すぐではなくて。セシル様が18歳になられてからです」

「どーして2年も!?」

「ご迷惑をかけたのに、第一王子よりも先に結婚する訳にはいきません」

「そんなのいいのに。でもクレアは素敵なお嫁さんになるね」

 嬉しそうな顔でセシルが笑う。

「やったじゃん、セシル」

 いつの間にか後に立っていたゼノが、バシバシと背中を叩く。

「セシル様……姉さんも、本当に良かったね」

 ルイも、これでもろもろ肩の荷がおりたと笑っていた。

「……セシル様……」

 レニーが目頭を熱くしている。

 祭りは熱を持ったまま、夜遅くまで続いた。

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