第42話 感謝祭
あちこちの屋台から、元気な声がかかる。
ドナウ村の感謝祭は賑わっていた。
屋台を制覇すると宣言したセシルは、クレア姉弟と一緒に朝から屋台を順番にまわっている。
食堂を覗くと、家族連れや女性客などで賑わっていた。
ハーブティーとスコーンの他にも、すべての屋台のものが飲食できるようになっている。
ノリノリのゼノが頭にターバンを巻き、額に赤い印をつけてウェイターになりきっていた。
黒髪、小麦色の肌をした彼は異国のウエイターそのもので。
チャイの注文を受けると。
高い位置からこぼさずにチャイをカップに注ぐというパフォーマンスを見せて、女性客のハートを掴んでいた。
「いらっしゃい、ご注文は?」
テラス席に座ったクレア達のところに、ゼノが注文を取りにくる。
メニュー表をにらんでクレアは迷っていた。
「チャイも、アッサムを使ったロイヤルミルクティーもいいし。でも、たまには全然違うお茶を試してみたい気もするし」
横からゼノもメニュー表を覗きこんで。
「せっかくだから、ハーブティーは? 女子にはローズヒップがオススメ。酸味があるけど美白と美肌に効果があるから」
「是非それを。プレーンのスコーンと、アカシアのハチミツもお願いします」
「はーい。承りましたーお嬢様ー」
ルイがセシルに。
「セシル様は何を飲みますか?」
「ゼノのジャスミンティー。どこで飲んだか記憶がなかったのに、あの味がずっと忘れらなかったんだ。あと焼き立てのスコーンに、ジャムとクロテッドクリームのセットを」
「僕はゼノのパフォーマンスが見たいから、チャイとクレープね」
「はーい、ではご注文を繰り返しまーす」
高いテンションで、ゼノが注文を繰り返した。
注文の品を持ったゼノがテーブルに戻ってきた。
ゼノがルイの目の前で。火から下ろしたばかりの熱々のチャイを、高低差をつけて細く細くカップからカップへと繰り返し注いで、泡立てる。
「チャイを高くから注ぐのは、空気を含んで口当たりを良くしたり、火傷しない熱さにするためだってさ。はいどーぞ、ルイ。セシルのジャスミンティーやアールグレーなんかは、ベースとなるお茶にジャスミンの花やベルガモットの香りを移したフレーバーティーだよ」
「これ全部、ゼノが育てて作った紅茶なのね。すごい」
クレアが感心している。
セシルはメニューを見ながら。
「メニューにも効能が書いてあって分かりやすいし。ゼノ、王都で店を開く気があれば、資金は僕が出してもいいよ」
隣のテーブルで、味を知るためにジャスミンティーを飲んでいたレニーの手が止まった。
「それいいかもな。王都に店をだして、ついでに移住しちゃおうかな」
ゼノがニヤニヤして、レニーをチラチラと見ている。
「セシル様。魔物を調子にのせては危険です」
レニーは真顔でセシルに苦言を呈した。