第41話 挑発
絶妙な角度で。
二人の顔が重なっていくところを目撃したセシルは。
「い、今クレアに何を!? クレア、すぐにそいつから離れて!!」
飛びだしていた。
「セシル様!? え、すごい! お久しぶりです、いついらしたんですか?」
驚いて振り向いたクレアが、笑顔になった。
ゼノは少し考えた後。
突然、背中に漆黒の翼をバッと広げて。クレアをお姫様抱っこすると。
「ガーハッハッハ。遅かったなセシル。クレアはいただいたぞ!」
宙に浮き、わざとらしい挑発でセシルを煽った。
なんだなんだと、周囲に暇な見物人も集まってきた。
お姫様抱っこされたクレアが。
「……ゼノ、これはなにしてるの?」
頭にいっぱい浮かんだクエスチョンを口にする。
「ゼノ!?」
ゼノと出会った頃の記憶が急速に脳裏に甦って、セシルは混乱した。
「……どうしてゼノがここに? いや、ゼノ! クレアをどうする気だ!?」
「察しが悪いな、セシル。もちろんクレアを俺様の花嫁にするんだよ。ガーハッハッハ」
茶番を続けるゼノの腕の中で、暴れても落ちるのもイヤなのでおとなしくしながら。
「ニアから悪い病気をもらったの?」
ゼノの額にクレアが手をのばそうとして、手が真っ白だったことを思い出す。
その手にむかってゼノがフッと息をかけると、白い粉だけが雪のように飛んで、手が綺麗になった。
「最初からやってほしかったかも」
と言いながら。とりあえずゼノの額に当てて熱をはかってみるが、やはり熱はなかった。
その仲が良さそうな様子に、セシルの握った拳が震えだした。
「……尊敬してたのにゼノ、裏切るなんて……」
クレアがあわてて。
「これはゼノの悪ふざけですよ。セシル様、ゼノに騙されています」
「……悪ふざけ?」
その時、人の輪からルイがひょいと顔をだした。
「もう姉さんは、またこんなに目立って。ゼノもなにを一緒に遊んで……って、えっ? セシル様がいる? いついらしたんですか!?」
笑顔でルイが駆けよってくる。
ニコニコと通常通り笑っているルイを見て、セシルもようやく理解できた。
セシルが真っ赤な顔でゼノを睨む。
「一体どーいうつもりだよ、ゼノ!」
ゼノは空から降りてきてクレアを降ろすと。
「サプラーイズ!! 久しぶりだな、セシル! びっくりしちゃった? ほんの冗談。そこのハーフエルフはダガーをしまえよ」
今にも指の間からダガーを放とうとしていたレニーの後ろに、ピッタリとラルフがついている。
残念そうな表情で、レニーはダガーを袖に戻した。
「なら、最初の二人のアレはなに!? どーゆうこと!?」
「あれか? あれは……」
ドン! とクレアがゼノを押し退けた。
「目に入ったゴミを、取ってもらっていたんです。ちょっと紛らわしかったですよね、あれは」
あははは。とクレアが笑顔を見せる。
「……目のゴミ……?」
セシルはゼノに。
「その話もあとでじっくりと聞かせてもらうよ、ゼノ」
「えー」
ゼノがイヤそうな声をだした。
セシルはクレアの前にきて、両手を握った。
「クレア、その髪型とても似合ってる。素敵だね」
「ありがとうございます。心機一転しようかと思って」
笑顔で言われて、セシルも笑顔をかえした。
詮索はしないにかぎる。
「ところで、今日は何のお祭り?」
「明日が村長である祖母の誕生日なので。開催するお祭りの前夜祭です」
野次馬から抜けだしたディーナが、パンパンと手を叩いた。
「明日も早いし、そろそろお開きだよ。クレア達も回るのは明日にしな」
レニーも強制的にセシルを休ませる気で。
「セシル様にはすぐにお休みいただきます」
とディーナに宿を頼んでいる。
村で一番安心の高水準なお宿は、すぐ目の前にあった。
「温泉もありますよ。是非ゆっくりと浸かって、旅の疲れをとって下さい」
クレアが笑顔でセシル達を歓迎した。