第40話 セシルの角度
三日前の王都では。
新しい家族を連れて帰国するジュリアスを送り出すためのパレードが行われていた。
第一王子のオーランドが、ジュリエッタ達の乗る馬車を王都の城門まで先導する。
今回は第二王子のセシルが初の国外遊学のため彼らと一緒に隣国へとむかうというので。セシルの私物を積んだ豪華な馬車が何台も後に続いていた。
きらびやかな馬車の窓からおざなりに手を振るセシルに、黄色い声援が飛びかう。
城下の商店街では多くの店が、店の前に商品を広げて。うちの商品はジュリエッタ様のお墨付きだと宣伝していた。
ジュリエッタの馬車が通る時には、店主が出てきて手を振るなど、城下街での彼女の知名度は高い。
城門の外に溢れた人々の前にも音楽隊が並び。
立派な馬車の行列が見えなくなるまで、明るくて活気のある曲を演奏していた。
送迎する人間の姿が見えなくなったところで。
「そろそろいいか」
セシルは地味な馬車に乗り換えた。
「では、挨拶をして参ります」
レニーが馬を走らせて前方のジュリアスの馬車に追いつく。
馬車の列はすぐに止まり。
ジュリアスと妻のリセッタ、それにジュリエッタまでもが馬車から降りてきた。
セシルも仕方なく、別れの挨拶をする為に馬車から降りようとするが。
「どうぞ、そのままで」
とジュリアスが、開けた馬車の扉の前で片膝をついてセシルに頭を垂れた。
「なにしてるの?」
「感謝ですよ。セシル王子、あなたに心からの感謝を」
形式的な挨拶が面倒なセシルは、それを顔にだして。
「城を出る口裏を合わせるってことで、これまでの貸し借りは無しって話にまとまったんだよね。それ以上のことはやめてほしいんだけど」
ジュリアスが笑顔で頭を上げ。
「私の個人的な気持ちですよ。どうしても伝えておきたくて」
立ち上がると、ジュリアスはレニーに小振りの箱を渡した。
「これは私が城を抜け出す際に持ち出す旅の必需品です。中身は、交流のある国への通行書や緊急時の薬。小粒の宝石やアクセサリー類は、貨幣よりも使える場面が多々あますから。旅のお供にお持ち下さい」
参考にしよう、とセシルは思った。
「落ち着いた頃には是非、侯爵令嬢とご一緒に我が国にも遊びにいらしてください。娘もクレア譲には改めて謝罪をしたいと申しておりますので」
ジュリエッタとリセッタも深く頭を下げた。
「わかった。いつかクレアと遊びに行くよ。帰りの道中、気をつけて」
サクッと別れを済ますと。
セシルはすぐに、全速で馬車を走らせた。
御者は側近の中でもレニーの信頼が厚い優秀な者で、レニーと交代で休憩しながら馬車を走らせている。
替え馬のために寄った村でのわずかな休憩以外は食事中も夜でも馬車は止まらずに進み。5日のところを3日後の昼過ぎにはジルニア領のグリント家に辿り着いた。
やっとクレアに会える、と喜んだのもつかの間。
そこにクレアはいなかった。
今は、さらに山奥の村で暮らしていると言う。
セシルは小一時間ほど休憩して、すぐにその村へと向かった。
日も落ちた頃、セシルは村に辿り着いた。
そこはなにやらお祭りモードで盛り上がっていた。
やたら美味しそうなものや音楽が溢れて、みんな楽しそうだ。
セシルが想像していた、寂れた田舎の村とは真逆の場所だった。
花や菜園に囲まれて明るい笑顔が似合う、幸福感は街よりも高そうな村。
とりあえず、マントのフードで顔を隠して。
疲れてフラフラした足取りで、村を歩き回ってクレアを探す。
いかにも貴族の御曹司という立ち振舞のセシルと、一歩引いて歩く美しい執事姿の青年は、村ではかなり浮いて人目を引いていたが。
このところの珍しいお客さんに慣れてしまっていた村人達は、きっと誰かの客人なのだろうと放置した。
「いた、クレアだ!」
一目その姿を見ただけで。
セシルの心が満たされていく。
「やっと会えた。あ、髪が短くなってる。なにあれ……かわいい過ぎ。やっぱりクレアはなんでも似合う……ん?」
次の瞬間。
「ーー!?」
セシルは奈落へと叩き落とされた。
ランプの灯りの下。
クレアと男の影が重なっていく……




